『ボス・ベイビー』はハンス・ジマーのハジけた音楽も面白くて最高だった。

先日『ボス・ベイビー』(17)を観てきました。
声も年齢もまだ若々しいムロツヨシより、
もっとおっさん然としたアレック・ボールドウィン(60歳)の声でおっさん赤ちゃんの活躍を観たかったのですが、
仙台は吹き替え版の上映しかなかったのでやむなく吹き替えで。
それでも十分面白かった。

某ラジオ番組で某映画評論家が”駄作”と評したそうですが、
いやこれ最高に笑える映画でしたよ!
(批評家の言う「駄作」の定義って何なんだろう、と時々思う)
“おっさん赤ちゃん”のボス・ベイビーがいい味出しまくりだったし、
ひとりっ子のワタクシにはティム少年の気持ちもよく分かるし、
何よりあのガチャガチャした展開(←褒めてます)が最高。
『コウノトリ大作戦!』(16)に匹敵するスピード感がたまらんです。

そして映画音楽ライターであるところのワタクシ的には、
巨匠ハンス・ジマーのハジけまくった音楽が非常にツボだったのであります。

 

同じ年にアカデミー賞ノミネート作『ダンケルク』(17)で難解かつ実験的な音楽を鳴らしていた人が、
お気楽CGアニメ『ボス・ベイビー』に登板して、
思いっきりポップで明るい音楽を鳴らしてくれるなんて素晴らしいじゃありませんか!
まぁこの映画はドリームワークス製作だからジマーさんが音楽担当でも何ら不思議はないのですが、
リモート・コントロール・プロダクションズの若い衆に任せてしまうのではなく、
弟子の”マッツぁん”ことスティーヴ・マッツァーロを従えて自ら作曲に臨んでいるのが素敵です。

『ボス・ベイビー』の音楽の特徴は、
とにかくガチャガチャしてるということ(注:褒めてます)。
ワタクシは映画本編を観る前にサントラを買って聴いていたのですが、
最初は何でこんなにガチャガチャとせわしない音楽なのか分かりませんでした。
ほのぼのとした音楽が流れていたかと思ったら、
急にアクションコメディみたいな激しい(賑やかな)音楽になったりして、
1曲の中で目まぐるしく変わるんですよねー。

で、映画本編を観たら謎は全て解けました。

ティム少年が「空想癖のある子ども」という設定なので、
彼がいろんなシチュエーションを妄想するたびに、
音楽もそれに合わせてアドベンチャー色豊かな音楽に次から次へと変わっていくと。
この音楽演出が映画にスピード感を与えているように思います。

ブックレットを見るとオーケストラの編成が書いてあるのですが、
その他にも「Funk Brass」「Disco Violins」という記述があったり、
コーラスも通常のロンドン・ヴォイセズのほかに、
「Jazz Choir Metro Voices」「Gospel Choir」という記述がありまして、
つまり本作のスコアにはファンク、ディスコ、ジャズ、ゴスペルの要素があるということになります。
とにかく『ボス・ベイビー』はハジけていてポップでカラフルな音楽に仕上がっていて、これがなかなか楽しい。
主題にあたるメロディもしっかり聞き取れるし、
そのへんの作りもしっかりしてます。

そして賑やかなサウンドの中で、
ちょっとした「レトロ感」が隠し味になっているのがポイント。

ベイビー株式会社のシーンでフレッド・アステアの「Cheek to Cheek」が流れるし、
ティム少年の子守歌がビートルズの「ブラックバード」、
『S.W.A.T.』のテーマ曲に終盤のプレスリーネタ、
エンドクレジットで流れるバート・バカラックの「What The World Needs Now is Love」(歌:ミッシ・ヘイル/プロデュース:ハンス・ジマー)、
L.T.D.の「(Every Time I Turn Around) Back in Love Again」などなど、
イマドキのボーカル曲を並べるのではなくて、
妙に懐メロ多めの選曲になっている。
この理由もサントラを聴いただけではいまひとつ見えてこなかったのですが、
映画を観て「主人公ティムが子どもだった時にあったお話」という回想形式のストーリーだったことを知って、「ああ、なるほどね~」と思った次第でして。
70年代後半ぐらいの時代設定と仮定して、
ティムが7歳の頃ということになっているから、
「現在40代後半~50代くらいの大人が昔を回想している」ということになるのかな。

近年『ダンケルク』とか『ブレードランナー2049』(17)とか、
ダークで重厚なサウンドを聴かせることの多いジマーさんではありますが、
『ボス・ベイビー』の音楽を聴いた感じだと、
まだまだこういう明るいノリの音楽を作る気はありそうなので、
そういう意味でもジマーさんの今後の方向性を占う上で興味深いサントラと言えるのではないかと思います。

そういえば同時上映の短編『ビルビー』(18)の音楽も、
ジマーさんの(最近の)一番弟子、ベンジャミン・ウォルフィッシュでしたね。
こちらもミッキーマウシングな感じのカートゥーン・スコアを作曲しておりました。
短編と本編の両方でリモート・コントロール・プロダクションズ軍団の音楽が楽しめるわけで、
『ボス・ベイビー』はジマーさんのファン必見の映画と言えるでしょう。

 

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