切なくてハートウォーミングな『プーと大人になった僕』の音楽は、ジェフ・ザネリとジョン・ブライオンの持ち味がよく出てますという話。

ウォルト・ディズニー・ジャパン様からのご依頼で、
『プーと大人になった僕』(18)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。
音楽はジェフ・ザネリとジョン・ブライオン。

前回のブログはサントラ盤発売のお知らせ的な内容だったので、
今回は音楽をもう少し詳しくご紹介していこうかなと思います。

サントラ盤はザネリとブライオンのスコアが22曲と、
シャーマン兄弟の弟リチャード・M・シャーマンの書き下ろしボーカル曲が3曲。
そして日本盤はボーナストラックを1曲追加収録した全26曲。

ボーナストラックといっても日本人アーティストが歌ったエンディングテーマとかではなくて、
劇中でプーさんたちが歌っていた”Goodbye Farewell”の日本語バージョン。
(歌っているのは日本語吹き替えを担当した声優さん方)
「映画の世界観を壊してしまう邦楽アーティストのエンディングテーマ曲」というよくあるアレではないのでご安心下さい。

それにしてもあのリチャード・M・シャーマンが3曲新曲を書き下ろして、
そのうち2曲で自ら歌っているというのは何気にスゴいことですよ。
だってこの方、今年で御年90歳なんですから。
映画のエンドクレジットでは元気に歌っている姿も見られるし、
ディズニー・レジェンドの味わい深い歌声を是非聴いて頂きたいですね。

 

さて肝心のオリジナル・スコアの方はどうかと申しますと、
これがまた当方の想像以上に素晴らしい音楽だったので、
初めて音源を聴かせて頂いた時には、
誇張でも何でもなく美メロに鳥肌が立ちました。
そしてアコースティックな質感の音が実に心地よい。
アニメの『くまのプーさん』の劇伴とは雰囲気が違うのだけれども、
その根底にあるテーマというかコンセプトはどこかで繋がっているような、
心洗われるような音楽体験ができるサウンドになってます。

前回のブログにも書いた通り、
この映画の音楽はまず(ヨハンソン亡き後)ブライオンが担当することになって、
ザネリさんは後から音楽製作に参加することになったわけですが、
こういう情報を事前に知っていなければ、
ひとりの作曲家が全ての音楽を担当していると思えるほど、
あるいはザネリさんとブライオンが最初からチームで共同作曲していたと思ってしまうほど、
見事に統一感のあるサウンドに仕上がっていました。

 

それではザネリさんとブライオンの個性という点ではどうなのかというと、
自称ザネリストでありブライオニストでもあるワタクシが聴いた感じだと、
例えばピアノと木管楽器を用いたメロディの聴かせ方はブライオンの『レディ・バード』(17)に通じるものがあるし、
アコースティックギターの使い方はギタリストでもあるザネリさんの持ち味がよく出ていると思うのです。
(メインテーマの旋律はザネリさんらしさが出てると思う)

ヨハンソンがどの段階まで本作に携わっていたかは分かりませんが、
彼の遺作のひとつ『The Mercy』(18)のサントラを聴いてみると、
チェレスタ系の音の使い方にヨハンソンへのささやかなリスペクトがあったりもするのかな、と思います。

思えばザネリさんは『シークレット ウインドウ』(04)の時も、
締め切り間際になって追加で音楽が必要になって、
でもフィリップ・グラスには(スケジュールか契約の都合で)もう頼めないから、
ひとつキミが何とかしてくれないかという製作サイドからの依頼が来て、
急ピッチで次から次へと曲を仕上げてデヴィッド・コープ監督から感謝されたというエピソードがあったし、
今回の『プーと大人になった僕』のような「後から作曲に参加するタイプの現場」でもうまくやっていける才能があるんですね。
そういえば『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(17)でも、
音楽監督のバダミさんが彼のコミュニケーション能力を褒めてたっけ。

 

それに比べるとジョン・ブライオンは天才肌のミュージシャンという印象があったのですが、
プロデューサーとしてエゴの強そうなクセ者ミュージシャンたちと何度も仕事しているし、
スタジオミュージシャン時代も長かったので、
こういうイレギュラーな共同作業にも慣れているのかもしれません。

ちなみにアルバム5曲目の”Chapters”という曲で多重録音の男声コーラスが聞こえてきますが、
声の主はブライオン…ではなく、本作でギターを弾いているブライス・ジェイコブスという作曲家/ミュージシャン。
こんな声です↓

ワタクシBJとかれこれ7年くらいお付き合いがありまして、
「Christopher Robinでギター弾いてるみたいだけど、もしかして”Chapters”で歌ってるのもBJ?」と尋ねたら、
「そうだよ!よく気づいてくれたね!」と言ってました。

なおブライスさんは『ラッシュ/プライドと友情』(13)や『メカニック:ワールドミッション』(16)などでもギター演奏や追加音楽の作曲を担当しているので、
お手元にこれらのサントラ盤がある方は是非ブックレットで彼の名前を確認してみて下さい。

あ、そうだ。最後にもうひとつ大事なお知らせがありました。
日本盤は差し込み解説書に歌モノの歌詞・対訳がちゃんと載ってます。
そういう意味でも付加価値の高いアルバムになっているのではないかなと思います。

 

『プーと大人になった僕』オリジナル・サウンドトラック
音楽:Various Artists(ジェフ・ザネリ&ジョン・ブライオン, リチャード・M・シャーマン)
レーベル: Walt Disney Records / ユニバーサルミュージック
品番:UWCD-1003
発売日:2018/09/12
定価:2,500円+税

 

 

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