『ハイ・ライズ』は音楽でも階級社会を痛烈に風刺する。

high-rise

都内での劇場公開から遅れること約一ヶ月、
先日遅ればせながらヒエラルキー崩壊スリラー『ハイ・ライズ』(15)を観てきました。

そういう映画だということは分かっていましたが、
ポスタービジュアルなどでスタイリッシュさを前面に出しつつ、
映画開始数分でゴミ屋敷のような不潔でカオスな映像を見せられるという構成が強烈でしたね。。。
その後はエロ・グロ・インモラル・デカダンスな展開の連続。

 

「上層階に行くにつれて住民が富裕層になっていく」
「電力などの供給は上層階優先」
「下層階の住人の陳情は基本的に後回し(もしくは放置)」
…というとんでもないマンションですが、
「入居時に管理者側からルールの説明があったんじゃないの?」と思ったものの、
マンションの設計者ロイヤル氏(ジェレミー・アイアンズ)の言動を見ていると、
たぶん肝心なことは一切説明しなかったんだろうなと思いました。
こんなマンション、お金があっても絶対住みたくない…。

ことほどさようにイギリスの階級社会を痛烈に皮肉った本作ですが、
音楽もなかなかシニカルでした。

 

オリジナル・スコアを手掛けたのはクリント・マンセル。
もう、こういう映画の音楽にはこの人がうってつけだろうという人選ですね。
何しろ『Π』(98)から始まって『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)、『穴』(01)、『ブラック・スワン』(10)、『フィルス』(13)などなど、
登場人物が破滅もしくは人格崩壊していく過程を冷ややかに音楽で描いてきた人ですから。

で、”マンセリスト”なワタクシと致しましては、
「今回も『レクイエム・フォー・ドリーム』の”冬の章”みたいな歪んだ音でヒエラルキーの崩壊を描いてくれるのかな?」…と思ったのですが、
いざサントラ盤を聴いてみたら妙に整然としたオーケストラ音楽だったので、
正直かなり意外な印象を受けました。
(一部の曲でシンセも使っているようですが隠し味程度という印象)

どうもマンセル自身も当初はジョン・カーペンター映画風のアナログシンセなスコアを考えていたらしいのですが、
ベン・ウィートリー監督がラフカットの映像にバッハなどの音楽をテンプトラックで使っているのを見て、
「そういう音楽の方が上層階の住人の雰囲気に合っている」と判断し、
暗すぎず、アップテンポすぎないオーケストラ・スコアになったようです。

 

普遍的でエレガントな雰囲気を漂わせたオーケストラ・スコアが使われたことによって、
「昔も今も、上流階級の連中は金に飽かして堕落した生活を送ってます」という強烈な風刺が強まった印象を受けますね。
マンセル自身は以前「Pop Will Eat Itself」というパンキッシュなバンドをやっていた人なので、
たぶんこういうスノッブな富裕層とか嫌いなタイプでしょう(あくまで個人的推測)。
また、マンセルは若い頃にJ.G.バラードの著作を愛読していたようなので、
きっと本作のスコアは自分の思い通りの音楽になっているのではないかなと思います。

整然としたオーケストラ・スコアはどこか虚無的で、
主人公ロバート・ラングの空虚な佇まいやセレブ住人の”空っぽの心”を浮き彫りにし、
時折顔を覗かせる妙に陽気なメロディーは、
破滅の際でもパーティーを欠かさないスノッブな富裕層の生活様式を強烈に皮肉る。
エレガントなサウンドの中に”静かな狂気”が潜んでいる、
非常に危うい音楽です。
しかしこれが何ともクセになる。
ポーティスヘッドがABBAのS.O.Sをカヴァーした曲はサントラ未収録ですが、
まあこれは仕方がないでしょう。
(権利関係の問題なのか、マンセルがカヴァーしたインスト版も未収録)

というわけで、劇中使用された既製曲は以下の通り。
何ともマニアックな選曲です。
アモン・デュールIIの曲を映画で聴いたのは『ハイ・ライズ』が初めてでした。
どうでもいいけどアモン・デュールと聞くと『重戦機エルガイム』を思い出しますねー。

 

Sundance Chant
Performed by Gila

Fly United
performed by Amon Düül II

Bunessan (Morning Has Broken): Traditional
Performed by Clint Mansell

Spoon
Performed Can

Sailing By
Performed by The Perry/Gardner Orchestra

Outside My Door
Performed by Can

SOS
Performed by Portishead

SOS
Performed by Clint Mansell

Co Co Pino
Performed by Deutsch Amerikanische Freundschaft

Industrial Estate
Performed by The Fall

 

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