『ジーサンズ はじめての強盗』のサントラから選曲のコンセプトを読み解いてみる

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『ジーサンズ はじめての強盗』(16)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。

アルバムは既製曲9曲+ロブ・シモンセンのスコア7曲という構成。
ランブリングさんが歌モノ多めのサントラを出すのは割と珍しいのですが、
「音楽がとてもよかったので」ということでリリースすることにしたそうです。
実際、シモンセンのスコアも既製曲の選曲も実にいい感じのサントラだったのですが。

 

『ジーサンズ』の監督を務めたザック・ブラフは、
主にインディペンデント系の映画で主演・監督・脚本・製作を一人でこなして評価されている人なのですが、
今回は”監督”としてメジャースタジオの映画に抜擢された感じ。
そしてブラフはサウンドトラックの選曲にもこだわりを持っている人でして、
『終わりで始まりの4日間』(04)のサントラはグラミー賞を受賞しているし、
『WISH I WAS HERE/僕らのいる場所』(14)のサントラも評価が高かった。

で、ブラフは今回の『ジーサンズ』でもサウンドトラック・アルバムのプロデューサーを務めていて、
劇中歌の選曲などにも携わっているのでした。

まずサントラ収録曲はこんな感じ。

1. Memories Are Made of This – Dean Martin
2. St. Thomas – Sonny Rollins
3. Feel Right – Mark Ronson featuring Mystikal
4. Hard to Handle – Otis Redding
5. Can I Kick It? – A Tribe Called Quest
6. Hey, Look Me Over – Jamie Cullum
7. Hallelujah I Love Her So – Alan Arkin, Ann-Margret
8. Mean Old World – Sam Cooke
9. What a Diff’rence a Day Makes – Dinah Washington
10. Opening – Rob Simonsen
11. Foreclosure Notice – Rob Simonsen
12. Willie and Kay – Rob Simonsen
13. Rat Pack Robbery – Rob Simonsen
14. FBI Closes In – Rob Simonsen
15. The Line Up – Rob Simonsen
16. The Wedding – Rob Simonsen

 

やはり御年80歳ちょっとのジーサンたちの映画ということで、
ディーン・マーティンにソニー・ロリンズ、
オーティス・レディングにサム・クック、
ダイナ・ワシントンと懐メロ多めのラインナップ。
年代的には50年代、60年代の曲ということになりますな。
ジャズやソウルが”ポップ・ミュージック”として聴かれていた時代とでも申しましょうか。
主人公のジーサンたちが20代~30代でイケイケだった頃の音楽ですね。
これらは彼らの若かりし頃の輝きを観客に追体験させる音楽とも言えるでしょう。

アラン・アーキンとアン=マーグレットによるレイ・チャールズのカヴァーは必聴。
もともと短い曲というのもありますが、
Hallelujah I Love Her Soをまるまる1曲歌ってくれてます。
お二方ともなかなかの歌唱力でいい感じです。

では懐メロ以外の曲はどういうコンセプトの元に選ばれたのか。
例えばマーク・ロンソンのFeel Rightとか、
ア・トライブ・コールド・クエストのCan I Kick It?は、
どんな意図で選ばれたのかと考えてみたりするわけですが、
たぶんこういった”ストリート感”を漂わせた曲は、
映画の舞台となった地域(ブルックリンやクイーンズ)の空気感を演出する役割を担っていたのではないかと思います。

個人的にはFeel Rightの使い方が最高でしたねー。
この曲は収録曲の中でも飛び抜けてアッパーなノリの曲なのですが、
映画本編ではジーサンたちとスーパーマーケット警備員のユルいフットチェイス・シーンで使われていて、
電動カートのスローな追跡劇をスピーディー&ファンキーに盛り上げておりました。

ロブ・シモンセンのスコアは短めの曲が全部で7曲。
Rat Pack Robberyで往年のラロ・シフリンやロイ・バッドのようなグルーヴィーなスコアを(ややコミカルなテイストで)聴かせてくれます。
シモンセンは繊細な音楽を書く人という認識でしたが、
こういうエンタメ路線のオーケストラ・スコアもイケる人だったんですねー。
思えば『二ツ星の料理人』(15)でもロックな感じのスコアが数曲ありましたが、
今回の『ジーサンズ』ではあの路線のサウンドをパワーアップさせた感じ。

ちなみに劇中では銀行強盗の下準備シーンなどでも結構派手なスコアを鳴らしているのですが、残念ながらサントラ盤には未収録。
欲を言えばシモンセンのスコアをもう少し収録してほしかったなーとも思います。

とはいえ既製曲9曲+スコア7曲で収録曲のバランスもいいし、
耳馴染みのよい懐メロの選曲になっているので聴きやすいサントラだと思います。
3人のジーサンの”スタイル(=流儀)”に惚れてしまった方はサントラ盤も是非。

『ジーサンズ はじめての強盗』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ロブ・シモンセンほか
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3194
発売日:2017/06/21
定価:2,400円+税

 

 

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