『スリー・ビルボード』サントラ盤に収録されたボーカルナンバーをじっくり味わってみる

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『スリー・ビルボード』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。

以前のブログでカーター・バーウェルのスコアをご紹介したので、
今回は映画の中で使われた歌モノを中心にご紹介していこうかなと思います。

…というわけでサントラ盤の収録曲は以下の通り。
歌モノ(既製曲)は太字にしてあります。

1. Mildred Goes to War
2. The Deer
3. Buckskin Stallion Blues (Performed by Townes Van Zandt)
4. A Cough of Blood, A Dark Drive
5. I’ve Been Arrested
6. Fruit Loops
7. His Master’s Voice (Performed by Monsters Of Folk)
8. Billboards On Fire
9. Slippers
10. The Last Rose of Summer (Performed by Renée Fleming, Jeffrey Tate & The English Chamber Orchestra)
11. My Dear Anne
12. Walk Away Renee (Performed by The Four Tops)
13. Billboards Are Back
14. Collecting Samples
15. Sorry Welby
16. The Night They Drove Old Dixie Down (Performed by Joan Baez)
17. Countermove
18. Can’t Give Up Hope
19. Buckskin Stallion Blues (Performed by Amy Annelle)

 

劇中でいちばん最初に使われるのは、
アルバム10曲目のアイルランド民謡「夏のなごりのバラ」。
「庭の千草」として日本語カヴァーされているので、
旋律を耳にした時「おや?」と思われる方も多いのではないかと。
動画はシャーロット・チャーチが歌ったバージョン。

カーター・バーウェルはこの映画について「マーティン・マクドナーの『アラン諸島3部作』の戯曲のような世界観」と自身のサイトの作曲ノートに書いていましたが、
そういうテイストはこの選曲にも現れているような気がします。

 

次に映画本編で流れるのがタウンズ・ヴァン・ザントの「バックスキン・スタリオン・ブルース」。

前に『バリー・シール アメリカをはめた男』(17)のブログの中でも書きましたが、
マクドナー監督は自作で毎回ヴァン・ザントの曲を使ってます。
『ヒットマンズ・レクイエム』(08)ではSt. John The Gambler、
『セブン・サイコパス』(12)ではMr. Mud and Mr. Gold、
そして今回はBuckskin Stallion Bluesという具合。
バーウェルはインタビューで「自分は選曲には携わっていないけれども、僕もマーティンもタウンズ・ヴァン・ザントの曲は好きだ」と語っている模様。
ヴァン・ザントの曲は定期的にサントラで使われている印象ですが、
近年再評価の動きがあるのかもしれません。

 

おそらく劇中で最もインパクトのある使われ方をしているのが、
モンスターズ・オブ・フォークのHis Master’s Voice。

映画パンフのコラムで言及されていた”You’re only gonna hear what you want to hear / Do you hear your master’s voice now?”の部分は曲のブリッジパートで聴けます。
この曲で言うところの”Master”は「神」ということになるわけですが、
『スリー・ビルボード』の中ではディクソンにとってのMaster=ウィロビー署長と解釈することも出来ます。
おそらくウィロビーは日頃からディクソンに「いい警官になれ」とやんわり諭していたのだろうけれども、
ディクソンは「くだらねぇ」とばかりに真面目に話を聞こうとしていなかったのでしょう。
「お前は自分の聞きたいことしか聞こうとしない/お前にはマスター(ウィロビー署長)の声が聞こえないのか?」
…という風にこの曲の歌詞がバチッとハマるわけですよ。
そしてディクソンが「刑事になるのに必要なのは愛だ」というウィロビー署長の言葉(=Master’s Voice)を聞いた時、彼にとって人生が変わる瞬間が訪れる、と。
計算し尽くされた選曲と言えるでしょう。

 

フォー・トップスの「いとしのルネ」は予告編でも使われていたので、印象に残っている方も多いのではないかと。

 

ジョーン・バエズの「オールド・ディキシー・ダウン」はザ・バンドのカヴァーなわけですが、
南北戦争の悲哀を歌った曲なので、『スリー・ビルボード』の内容的に何かを暗示するような使い方をするのかなと思ったのですが、ソース・ミュージック的な扱いでした。
あのシーンも深読み解釈すれば、もしかしたら何かを暗示していたのかもしれませんが…。

 

エイミー・アネルによる「バックスキン・スタリオン・ブルース」のカヴァーは、映画のラストで流れる曲。

タウンズ・ヴァン・ザントの曲をカヴァーするミュージシャンはたくさんいますが、
彼女は一般的にあまり知られていないインディー・フォーク系のシンガーソングライターという感じ。
異なるアーティストのバージョンで2度使われたということは、
「バックスキン・スタリオン・ブルース」は事実上の『スリー・ビルボード』のテーマソングということになるのでしょうか。

なおディクソンがヘッドホンで聴いていたABBAの「チキチータ」はサントラ未収録です。
まあほかの収録曲やスコアとのバランスを考えると、
この曲だけ明らかにノリが違うのでアルバムから確実に浮いてしまうだろうし、
収録しないで正解だとは思いますが。

オペラ、カントリー、フォーク、ソウルという特徴的な味わいの歌モノと、
田舎町の枯れた佇まいと哀愁を漂わせたカーター・バーウェルの激シブスコア。
両者が織りなす滋味豊かなサウンドをお楽しみ下さい。

『スリー・ビルボード』オリジナル・サウンドトラック
音楽:カーター・バーウェル
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3238
発売日:2018/01/24
定価:2,400円+税

 

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