『Mr.インクレディブル』と『インクレディブル・ファミリー』の音楽に関するムダ知識を綴ってみる。

ウォルト・ディズニー・ジャパン様からのご依頼で、
『インクレディブル・ファミリー』(18)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。
音楽は前作『Mr.インクレディブル』(04)に引き続きマイケル・ジアッキーノ。

先日のブログで大体サントラの紹介はさせて頂いたのですが、
せっかくなので、文字数の関係や締切スケジュールの都合でライナーノーツに書けなかったネタをもう少しブログで書かせて頂こうかなと思います。

 

そもそも『Mr.インクレディブル』の音楽は、
007映画のような音楽をイメージしていたブラッド・バード監督が、
“本家”ジョン・バリーに作曲を依頼したところから始まった…というのは割と有名な話。

ところが晩年のバリーは、どうも音楽の感覚が今時のニーズと合わなくなっていたようで、
音楽差し替えや途中降板の憂き目に遭うことが多かったのですが、
結局『Mr.インクレディブル』もうまくいかなくて、
ジアッキーノが全ての音楽を担当することになったという経緯がありました。

その結果、ジアッキーノは“007音楽インスパイア系”のビッグバンド・ジャズ・オーケストラスコアを書き下ろして大成功を収めたわけですが、
当時の辛口な映画音楽評論家の中には、
「確かにいい音楽ではあるけれども、これはジョン・バリーの007音楽風なのであって、ジアッキーノ独自の音楽とは言えないのではないか」という見方をしている人も少なくなかった。

しかし彼らはまだ知らなかった。
ジアッキーノが「60年代の映画音楽大好き作曲家」で、
このシンセやリズムループを使わないレトロなテイストの音楽こそ、彼の個性であり魅力なのだということを……!

 

何しろジアッキーノは『スピード・レーサー』(08)のライナーノーツで、
「作曲家になることを決意させたあらゆる音楽の中でも、越部信義氏の(『マッハGoGoGo』の)音楽を断然気に入っていた」
「ミスター・コシベに心の底からありがとうと言わせてもらいます」
…と越部信義氏に謝辞を述べていた人ですから、
60年代の音楽が大・大・大好きな作曲家なのですね。
(数ある日本人作曲家の中から、ややマニアックな越部信義氏の名前をフェイバリットに挙げるハリウッドの音楽関係者はなかなかいない…と思う)
ジアッキーノの本気の越部信義リスペクトっぷりは、
アニメ版のテーマを完コピした2008年版「スピードレーサーのテーマ」を聴いて頂ければ一発で伝わると思います。

だから『Mr.インクレディブル』も単に「007みたいな音楽を」とリクエストされて、
職人に徹してそういう音楽を書いたというよりは、
どちらかというと自分の好きなあの時代のジョン・バリーの音楽を研究して研究して研究して、
自らも楽しんで作曲した結果、あのスウィンギンでグルーヴィーな音楽が生まれたのではないかと思うのです。
あれから14年経ち、自身の音楽にも磨きがかかってきたので、
今回の『インクレディブル・ファミリー』では”ジョン・バリー インスパイア系”からさらに発展させた(より自分らしさを出した)音楽世界を構築することができたと。
そういう意味では、ジアッキーノは「無邪気かつ無意識に天才的な才能を発揮する作曲家」なのかもしれないな、というのがジアッキーニスト歴14年のワタクシの見解です。

ちなみにジアッキーノが好きな60年代に活躍した映画音楽家については、
ちょっとだけ『インクレディブル・ファミリー』サントラ盤のライナーノーツでご紹介しているので、
気になる方は是非拙稿に目を通して頂ければと思います。

 

で、『Mr.インクレディブル』の時は「レトロな質感の音がほしい」ということでスコアをアナログテープに録音したらしいのですが、
『インクレディブル・ファミリー』では特にそういう話は聞かないので、
今回はデジタル録音なのかな?
なので、両方のサントラを聴き比べて音の質感の違いを楽しんで頂くと面白いかもしれませんね。

今回の『インクレディブル・ファミリー』のレコーディングでは、
エンジニアのジョエル・イワタキの提案で、
ビッグバンドとストリングスのグループを別々に配置して演奏を録音したそうです。
その方がイワタキ氏が欲しい”ビッグバンドの音”が録れるのだそうで。
ジアッキーノもその結果”Terrific”な音が録れて大満足だったそうな。

この動画を見ると、ビッグバンドとストリングスが「バンド対決」をしているようで、なるほど、これなら確かにキレッキレのサウンドが録れそうな気も致します。

 

あと、これは本国のラジオ番組かインターネットラジオか何かのインタビューだったと思うのですが、
ジアッキーノが『インクレディブル・ファミリー』のティンパニ奏者の人と一緒にインタビューに答えていて、
「彼のティンパニ演奏がとにかくすごい」といった旨の発言をしていました。
なので『インクレディブル・ファミリー』のサントラ盤をお聴きになる際は、
ジアッキーノも太鼓判を押したティンパニの多彩な音表現にも注目して頂きたいですね。

『インクレディブル・ファミリー』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ジアッキーノ
レーベル: Walt Disney Records / ユニバーサルミュージック
品番:UWCD-1001
発売日:2018/08/01
定価:2,500円+税

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