自分はなぜ『ユージュアル・サスペクツ』の劇伴を聴いてジョン・オットマンの躍進をあの頃確信したのか

Filmarksの1990年代名作上映「Filmarks 90’s」企画の第13弾で、先週から『ユージュアル・サスペクツ』(95)の上映が始まったようです。

1990年代当時『ユージュアル・サスペクツ』を観たときはまだ劇場が完全入れ替え制になる前でしたが、確かこの映画に関しては途中入場不可、居座り再鑑賞不可の完全入れ替え制だった代わりに、2度目の鑑賞の際にはリピーター割引が適用されるシステムだった記憶があります。

30年前の作品とはいえ、当方はネタバレ考察はしたくないので、例によって別な視点(=映画音楽)からこの作品を振り返っていこうかなと思います。

『ユージュアル・サスペクツ』は自分が初めて購入したジョン・オットマンのサントラ作品でもありました。
すでに本国で高評価を得ていたとはいえ、新人監督&新人作曲家の作品にもかかわらずサントラ盤をちゃんと出したMilan Recordsはなかなかの目利きでした。

『ユージュアル・サスペクツ』は低予算で撮った作品にもかかわらず、音楽は格調高いオーケストラ劇伴だったので「これはすごい」と当時思ったものです。そして何より劇伴とシーンの同期が素晴らしかった。それもそのはず、オットマンは本作で劇伴の作曲と編集技師の仕事を兼任していたからなのですね。後年『ボヘミアン・ラプソディ』(18)でアカデミー編集賞を受賞しておりますが。

ジョン・カーペンターやマイク・フィギスのように「劇伴も作曲する映画監督」は知っていたけど、劇伴の作曲と編集を兼任する人はオットマンが初めてでした。「オットマン、ひょっとしてこれからガーッと売れてくるかもしれないぞ」と当時まだ学生だった自分ですら思ったほどです。

これは映画音楽経験値が上がってから得た知識なのですが、映画のポストプロダクションで既存の曲をテンプトラック(仮の音楽)として映像にはめていく作業というのは、ミュージック・エディターやサウンドデザイナー、そしてエディターといった編集技師の仕事であることが多いのですね。
映画音楽家は既製曲の選定やテンプトラックをつける作業には(普通)関与しない。どちらかというと監督やミュージック・エディターに「こういう曲がほしい」と言われて、テンプトラックのついた映像を見せられて曲を作る立場ですから。

で、オットマンの場合は「編集技師」と「作曲家」の両方の役割を担っていたから、そのあたりの作業を実にスムーズに進めることができたわけです。

当方の調べによると、当時のオットマンはミュージック・ライブラリー会社で働いていたラリー・グルーペと、南カリフォルニア大学音楽部の学生デイモン・イントラバルトロの3人で『ユージュアル・サスペクツ』の劇伴を制作していたらしい。グルーペはオーケストレーションと指揮、イントラバルトロはピアノ演奏とオットマンのアシスタントといった具合。

音楽に使える予算も少なかったし、レコーディングスタジオは狭くてオーケストラの楽団員を一度に部屋に入れることができず、セクションごとに複数回に分けて録音することになったそうな。最初は弦楽器パート、次は金管楽器、その次は木管楽器、その次は打楽器…という感じ。
で、予算の都合で80人規模のオーケストラは雇えなかったから、30人前後の弦楽器奏者を3層くらいにオーバーダビングして、実際の音よりも壮大に聞こえるサウンドを作り上げたのだとか。ああ、だから『ユージュアル・サスペクツ』の劇伴を聴いてもチープな感じが全くしなかったのかと理解した次第。

そして映像の編集作業にも携わっていたオットマンは映画を熟知していたので、劇伴のレコーディングの際も映像を見ずに録音することができたのだそうです。つまり場面転換のタイミングなどは、クリック音などを頼りにして曲をレコーディングしていったというわけです。こういう作業ができたことで、時間をかなり節約できたそうです。

後日ミックス時に劇伴を映像に合わせて調整したところ、全てぴったりフィットしていたのだとか。このあたりが編集と作曲を兼任したオットマンの”職人技”だったわけです。

こうしたオットマンの妙技が楽しめるのは、やはりラストの”種明かし”のシーンの音楽でしょうかね。映像との同期と画面が暗転したあとの「ジャーン!」という”締め”のオケの音が素晴らしい。フェンスターたちが次々と逮捕されるシーンの曲や、宝石商襲撃シーンの曲も映像との同期が見事です。

メインテーマがピアノ曲というのがまたいいですね。クライムスリラーというより、心理劇のような趣がある(実際心理劇の要素が強い物語ですし)。シンセを多用した劇伴だったら、このような深みのある雰囲気は出せなかったかもしれない。

予算が潤沢でなかったからこそ、創意工夫に溢れた音楽になったとも言えるかもしれません。
いま聴いても『ユージュアル・サスペクツ』の劇伴は本当に素晴らしい。

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