追悼「グルーヴ派の巨匠」ラロ・シフリン 〜個人的に思い入れのあるシフリンのサントラ盤のお話〜

『スパイ大作戦』(68)や『燃えよドラゴン』(73)などの音楽が世代を超えて愛されている巨匠音楽家、ラロ・シフリンが2025年6月26日に亡くなりました。

『スパイ大作戦』(ミッション・インポッシブル)のテーマ曲ほか
映画音楽作曲家のラロ・シフリン死去(amass)
https://amass.jp/183445/

シフリンの翁が90代なのは知っていましたし、93歳で亡くなったと聞くと十分長生きされたとは思うのですが、それでも巨匠の死はやはり悲しい。

おそらくシフリンのような音楽家は今後現れないと思うし、ヒーロー映画とフランチャイズ映画が幅を利かせている現在の映画音楽界では、シフリンが作ってきたような音楽を若手が受け継ぐ流れもなさそうだし、そういった劇伴も需要がないような気がするので、「またひとつの時代が終わってしまった」という気持ちが強くなって寂しくなるのです。

閑話休題。

自分が初めて買ったシフリンのサントラ盤は何だったかなと思い出してみると、『ダーティハリー』のアンソロジー盤でした。この写真(↑)の仏ワーナーから発売されたものではなく、1990年代後半にAleph Records(シフリンのレーベル)から発売になったジャケ写が風景写真のものです。第1作と第2作、第4作からシフリンの劇伴を数曲ずつ選んでコンパイルしたアルバムでした。

Dirty Harry Anthology – amazon music
(アルバムのページがうまく表示されない場合は、再読み込みをしてみて下さい)

自分くらいの歳(ちなみに就職氷河期世代です)だと、シフリンの音楽なら少年時代に『燃えよドラゴン』のテーマ曲を聴いて興味を持つパターンが多いのかもしれませんが、1980年代に少年時代を過ごした当時の自分はカンフー映画に全く興味がなく、どちらかというと刑事もの(『特捜刑事マイアミ・バイス』や『西部警察』)を好んで観ていたのでした。

だからシフリンの音楽も地上波で放送していた『ダーティハリー』でまず興味を持ったのですね。

前述のアンソロジー盤を買ったのは学生時代…高3の頃だったのかな。「ああ、こんな曲が流れてたっけ」と思いながら何度も聴いたものです。あの劇伴がCDで聴けるようになったのが嬉しかった。

『ダーティハリー』のサントラ盤については、以前書いたブログをご覧下さい。

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『あの歌を憶えている』劇場用パンフレットに書いたプロコル・ハルム「青い影」コラムの補足 その3: 法廷闘争について思うこと

セテラ・インターナショナル様からのご依頼で、映画『あの歌を憶えている』(23)の劇場用パンフレットにプロコル・ハルムの「青い影」に関するエッセイを書かせて頂きました。

字数の都合や話の本筋から離れてしまうという理由から、パンフのエッセイでは書けなかったネタをブログで補完させて頂きますということで、これまで難解極まりない歌詞と「青い影」が出来上がるまでの経緯について書きました。

今回は著作権を巡る法廷闘争について書かせて頂こうかなと思います。

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パンフレットにエッセイを書くにあたって、一連の「青い影」法廷闘争の流れをまとめてあるサイトなどを読み漁っていったのですが、毎日のように記事を熟読していくうちに、果たして自分は『あの歌を憶えている』のエッセイを書いているのか、「青い影」訴訟のレポートを書いているのかどっちなんだ?…とよく分からなくなってきました。
なのでパンフレットでは要点だけ簡潔にまとめた感じです。あと、当方の好きなマシュー・フィッシャーの苦悩を知って頂きたいな…という思いも少なからずあったかもしれません。

そんなわけで、詳しい話はブログで書かせて頂きます。
今回もテキストが長いです。

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『あの歌を憶えている』劇場用パンフレットに書いたプロコル・ハルム「青い影」コラムの補足 その2: 「青い影」ができるまで

セテラ・インターナショナル様からのご依頼で、映画『あの歌を憶えている』(23)の劇場用パンフレットにプロコル・ハルムの「青い影」に関するエッセイを書かせて頂きました。

字数の都合や話の本筋から離れてしまうという理由から、パンフのエッセイでは書けなかったネタをブログで補完させて頂きますということで、前回は解釈が難しい歌詞について書きました。

今回は名曲「青い影(A Whiter Shade of Pale)」ができるまでの過程について少し補足させて頂こうかなと思います。

作詞家(詩人)のキース・リードが、バンドマネージャーのガイ・スティーヴンス宅のホームパーティーで気分を悪くした夫人にガイが「顔色が悪いぞ(You’ve gone a whiter shade of pale)」と言った言葉にインスパイアされて書いた歌詞だった、というのは有名すぎる話なのでパンフのエッセイでは割愛しました。

自分はコロナ禍の不要不急の外出を控えていた時期にプロコル・ハルムのアルバムを集中的に聴いていて、初期3作のアルバムのことや、「青い影」を含む彼らの曲ができた過程を知りたくなったので、ゲイリー・ブルッカーやマシュー・フィッシャー、リードのインタビューを読み漁っていました。

パンフに寄稿したエッセイは、そのときに得た情報をもとに書いたとも言える気がします。しかし、それを全部書くと話しが長くなる上に『あの歌を憶えている』の話から逸脱してしまうので、要点をまとめて書いた感じです。

パンフに書ききれなかった細かいトピックはこれから書いていきたいと思いますが、ハッキリ言って長いです。お暇なときに目をお通し下さい。

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『あの歌を憶えている』劇場用パンフレットに書いたプロコル・ハルム「青い影」コラムの補足 その1: 難解な歌詞について

セテラ・インターナショナル様からのご依頼で、映画『あの歌を憶えている』(23)の劇場用パンフレットにプロコル・ハルムの「青い影」に関するエッセイを書かせて頂きました。

ミシェル・フランコの映画と言えば劇伴/主題歌の類を一切使わず、挿入歌は生活環境音扱いで、エンドクレジットも無音というのが定番なので、当初は「音楽について何か書くことあるんだろうか?」と思いました。
しかし「青い影」が劇中で重要な役割を担っているということで、プロコル好きの当方としては「それでしたらぜひ」とお引き受けした次第です。

そして試写を拝見したところ、「ミシェル・フランコの映画を見終わってこんなにホッとした気分になったのは初めてだな」と思いました。
『父の秘密』(12)にしろ『或る終焉』(15)にしろ『母という名の女』(17)にしろ『ニューオーダー』(20)にしろ、心の底から打ちのめされる静かで憂鬱な展開を見せておいて、無音のエンドクレジットで更に沈んだ気持ちにさせられるのがフランコ映画のトレードマークと言えるわけですが、今回はヘヴィなテーマを描きつつも、最後に「これ本当にフランコの映画なの?」というささやかな救いのある作品でした。

個人的に一番驚いたのは「ミシェル・フランコ映画でエンドクレジットに曲がある」ということでした。このことは予備知識なしで映画を観たときに「おやっ?」と新鮮な驚きを体験して頂きたかったので、パンフにはあえて書きませんでした。

このように字数の都合や話の本筋から離れてしまうという理由から、パンフのエッセイでは書けなかったネタもいくつかありますので、そのあたりは当方のブログで何回かに分けて書いていこうかなと思います。

まずは今も議論が交わされている「青い影」の難解な歌詞について少し書かせて頂こうかなと。

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『フランシス・F・コッポラ -終わりなき再編集-』で上映される作品のサントラ盤を集めてみた話 その2:『ハメット』『アウトサイダー』

11月29日からコッポラ作品の4Kレストア版上映企画『フランシス・F・コッポラ-終わりなき再編集-が始まるので、上映作品4タイトルのサントラ盤を集めてみました。

『カンバセーション…盗聴…』(74)
『ワン・フロム・ザ・ハート』(81)
『ハメット』(82)
『アウトサイダー コンプリート・ノベル』(83)

…の4作品。

前回のブログで『カンバセーション』と『ワン・フロム・ザ・ハート』のサントラをご紹介したので、今回は『ハメット』と『アウトサイダー』について書きたいと思います。

『ハメット』

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先日久々にDVDで本編を観たのですが、いま改めて観てもこの作品は「ヴィム・ヴェンダースが撮った映画」というより「製作総指揮のコッポラが撮った映画」という印象を受けました。
ドイツの俊英ヴェンダースをハリウッドに招いて映画を撮らせてはみたものの、コッポラと方向性の違いで揉めて製作現場がゴタゴタしていたとか。

それではこの映画が失敗作かというと、(当時の評価はさておき)個人的には案外そういう感じでもなく、スローテンポで進むドラマ(強いて言えばこのへんがヴェンダース的という気もする)もいい味を出しているし、最近はこういう古典的なノワール映画を作ってくれなくなったので、結構新鮮な気持ちで観られました。

そして何より素晴らしいのがジョン・バリーのジャズ音楽。「クラリネットとピアノ」をメイン楽器に据えたのが実に秀逸なチョイスです。
トランペットをメイン楽器に使うとゴールドスミスの『チャイナタウン』(74)と比較されてしまうし、フレデリック・フォレストが体現したハメットの独特な物腰と雰囲気には木管楽器のほうが合っている気がします。
オーディオでサントラを聴いていると、部屋の奥の方から聞こえてくるようなクラリネットの「奥行きのある音」が実に味わい深くてよい感じです。

DVDの裏面に「サックスの悲しげな音楽」と書かれていますが、メインテーマのことを言っているならこれはサックスではなくクラリネットだと思うんですけどね…。

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