『フランシス・F・コッポラ -終わりなき再編集-』で上映される作品のサントラ盤を集めてみた話 その1:『カンバセーション…盗聴…』『ワン・フロム・ザ・ハート』編

11月29日からコッポラ作品の4Kレストア版上映企画『フランシス・F・コッポラ-終わりなき再編集-が始まるので、上映作品4タイトルのサントラ盤を集めてみました。

『カンバセーション…盗聴…』(74)
『ワン・フロム・ザ・ハート』(82)
『ハメット』(82)
『アウトサイダー コンプリート・ノベル』(83)

別に「サントラ盤を集めてみた」と言っても、このブログを書くためにわざわざ買い揃えたわけではなく、以前から所有していたものを仕事場に持ってきただけです。

企業様から依頼を受けて音楽解説を書くお仕事であれば、詳細かつ丁寧に1作ずつ解説原稿を書いていくところですが、今回は自分のブログでご紹介する程度なので、簡単に聴きどころをご紹介する程度とさせて頂きたいと思います。
とはいえ4作品を一気にご紹介するとテキストが長くなってしまうため、2回に分けて書きます。

『カンバセーション…盗聴…』

The Conversation OST (2023 Remaster) – amazon
The Conversation OST (2023 Remaster) TOWER RECORDS

この映画の音楽(およびサントラ)については、以前のブログで比較的詳しくご紹介済みでした。

『ゴッドファーザー』(72)の絵画のように重厚でリッチな雰囲気から一転、盗聴のプロが疑心暗鬼になっていく姿を描いた内省的な雰囲気のスリラー映画。音楽もデヴィッド・シャイアによるアンニュイなピアノ劇伴が出色です。
リマスター盤サントラではスタインウェイのピアノの音色が楽しめるのはもちろんのこと、伝説的音響技師ウォルター・マーチによるサウンドコラージュ的な曲も楽しめるのがポイント。ジャズコンボ曲”Blues for Harry (Combo)”と”Theme from THE CONVERSATION (Ensemble)”もアルバムのよいアクセントになってます。

『ワン・フロム・ザ・ハート』

One From The Heart / Music from the Motion Picture (Remaster) – amazon

「ゾエトロープ・スタジオ内にラスベガスを完全再現して全編セット撮影を敢行!」という無茶な撮影手法が祟って製作費がかさんだ上に、映画が興行的に全く振るわずスタジオが破産してしまったことで有名な作品。

コッポラのキャリア的には「負の歴史」と言われても仕方がない作品ではありましたが、その一方で映画音楽史において重要な役割を果たしたこともまた事実でありました

それは何かというと、音楽をトム・ウェイツに任せたこと

それまで「知る人ぞ知る玄人好みのシンガーソングライター」だったウェイツに映画の音楽(歌曲と劇伴の両方)を任せ、ジャジー&ブルージーなサウンドとハスキーな歌声、そしてクリスタル・ゲイルとのデュエットで映画を彩り、「古典的なミュージカル映画とは趣の異なる音楽映画」を作り上げたのでした。コッポラがサントラ盤に寄せたライナーノーツによると「男と女(ゼウスとヘラ)の対話を音楽によって成立させ、男女間の微妙な心の駆け引きに言及するような歌」をイメージしていて、ウェイツの曲はピッタリだと思ったのだとか。

ウェイツは「酔いどれ詩人」の異名をとる個性派シンガーソングライターだし、『Dr.パルナサスの鏡』(09)のMr.ニック役や『ドミノ』(05)のワンダラー役など、どこか人間離れした雰囲気があるので、コッポラが「ゼウスとヘラの対話」をイメージしていたなら本作の音楽担当にうってつけの人材だったとも言えますね。

映画はコケてもウェイツがアカデミー歌曲賞にノミネートされたあたり、本作の音楽のクオリティの高さが分かるというものです。

この作品を経てウェイツの人気が出て、彼の曲が多くの映画で使われるようになったような気がします。だからもし『ワン・フロム・ザ・ハート』が世に出ていなかったら、ウェイツが『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)の音楽を担当することもなかった…かもしれないわけです。
そしてコッポラがこの後『アウトサイダー』、『ランブルフィッシュ』(83)、『コットン・クラブ』(84)、『ドラキュラ』(92)でウェイツを役者として起用したことによって、「超個性派俳優トム・ウェイツ」を誕生させたことも忘れてはならない大きな功績と言えるでしょう。

自分が買った『ワン・フロム・ザ・ハート』のサントラは2004年リリースのデジタル・リマスター盤。そのときは映画本編を観る機会に恵まれなかったものの、『スモーク』(95)や『シー・オブ・ラブ』(89)、『バスキア』(96)などでウェイツの音楽に興味を持ち始めた頃だったので、「まあいつか映画を観る機会もあるだろう」と思ってサントラを買って聴いていたのでした。この時期のウェイツはまだ声にツヤがあった感じがします(後年の作品ほどガラガラ声ではない)。

コッポラがどういう経緯でウェイツの曲を知ったのかずっと疑問だったのですが、サントラに寄せたコッポラのセルフライナーノーツによると、息子のジャン=カルロ・コッポラがアルバム「異国の出来事」を持ってきて、ウェイツとベット・ミドラーのデュエット曲を耳にしたコッポラが「こういう曲こそ『ワン・フロム・ザ・ハート』の音楽にふさわしい」と思ったらしい。

ジャン=カルロは1986年にまだ若くしてボート事故で亡くなったから(享年22歳)、その数年前の出来事ということになりますね。名優兼お騒がせ俳優ライアン・オニールの放蕩息子、グリフィン・オニールの操縦するボートに同乗しての事故死でした。

ブログを書くために久々にサントラを聴きましたが、ジャジーなサウンドに乗せてウェイツの渋い歌声とゲイルの伸びやかで艶のある歌声が絡む楽曲構成が素晴らしく、つい何度もリピートして聴いてしまいました。
聴けば聴くほど「味」が出てくるアルバムではないかと思います。『リービング・ラスベガス』(95)のような音楽世界が好きな方ならハマるかなと。なお2004年発売のデジタルリマスター盤サントラでは”Candy Apple Red”と”Once Upon A Town/Empty Pockets”がボーナストラックで追加されました。

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