追悼アンジェロ・バダラメンティ 『ツイン・ピークス』『ロスト・ハイウェイ』ほかテレビシリーズ/映画音楽作品を振り返る

『ツイン・ピークス』(90~91)ほかデヴィッド・リンチ作品の音楽で知られる作曲家、アンジェロ・バダラメンティが亡くなりました。

デヴィッド・リンチ作品の作曲家アンジェロ・バダラメンティ死去 『ツイン・ピークス』『ブルー・ベルベット』等
https://amass.jp/163110/

享年85。かなりのお歳だったので、いずれそういう日が来るだろうと覚悟はしていましたが、やはり偉大な音楽家の訃報を聞くと悲しくなります。
特にこの方は自分の青春時代に魅惑的な音楽をたくさん聴かせてくれたので、何だか自分の中の大切なものがひとつ欠けてしまったような気持ちになってしまうのです。

当たり前すぎて申し訳ないのですが、自分の場合、バダラメンティの音楽に触れるきっかけとなったのは『ツイン・ピークス』でした。
あのアンビエント/ニューエイジともエレベーターミュージックとも表現出来そうな、幻想的な雰囲気のテーマ曲を聴いた途端、一気にバダラメンティの音楽にハマったものです。受験勉強中もCDウォークマンでサントラ盤をよく聴いてました。

だから2007年くらいにリンチのレーベルからシーズン2のサントラが発売された時は嬉しかった。(プレス枚数的にはそれほど多くなかったようですが)。

『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(92)は当時レンタルビデオで見た時ワケが分かりませんでしたが、バダラメンティの音楽がますます怪しい感じになっていて「すごい音楽だな」と思ったのを覚えています。

『ローラ・パーマー最期の7日間』のサントラ最大の特徴は、”A Real Indication”と”The Black Dog Runs At Night”でバダラメンティの味わい深すぎるボーカルが聴けるということでしょう(特に前者で)。”歌”というより”語り”といった感じですが。

『ブルー・ベルベット』(86)と『ワイルド・アット・ハート』(90)は、『ツイン・ピークス』から遡るようにして観た映画でした。
前者は確かテレビの深夜映画で放送していたのを観て、後者は衛星の映画チャンネル(スターチャンネルだったと思う)で観た記憶があります。『ブルー・ベルベット』の音楽を聴いて、『ツイン・ピークス』のミステリアスな音楽の原点はここにあったのかと思ったものです。


『ワイルド・アット・ハート』は歌曲の割合が多い映画でしたが、バダラメンティの”Cool Cat Walk”という曲が、『ツイン・ピークス』の”Audrey’s Dance”に近い雰囲気があるなと思いました。

『ストレイト・ストーリー』(99)はアンビエント/ニューエイジ系のレーベル、ウィンダム・ヒルからの発売というのが興味深かった。バダラメンティの音楽の中にある美しさと心地よさが前面に出た作品でした。

そして『ロスト・ハイウェイ』(97)の音楽も忘れがたい。
我が推し俳優のビル・プルマンが一気にカルト俳優化した罪な作品でもありますが、バダラメンティのダークな音楽は、サウンドトラックのプロデューサーを務めたトレント・レズナーのインダストリアル・サウンドと渾然一体となって、終わらない悪夢のような(←褒め言葉です)音世界を生み出しておりました

『マルホランド・ドライブ』(01)は個人的にバダラメンティの最高傑作ではないかと思っておりまして、なぜアカデミー賞はバダラメンティを作曲賞に選ばなかったのかと憤慨したほどです。甘美なメロディと音響系のサウンドデザインを絶妙なバランスで組み合わせた劇伴は、もっと評価されて然るべきだった。

おそらくバダラメンティの音楽の集大成となったのは『ツイン・ピークス The Return』(17)だったのでしょう。
シーズン2終了から25年近く経ったのに、バダラメンティの音楽は全く古さを感じさせなかったし、新進気鋭のミュージシャンたちの楽曲の中にあっても全く引けを取らない、新しい感覚を持ち合わせていました。

ことほどさようにバダラメンティはリンチ作品で語られる機会が多い作曲家ですが、リンチ以外の映画監督との仕事では、ジャン=ピエール・ジュネが最も相性がよかったような気がします。
『ロスト・チルドレン』(95)も『ロング・エンゲージメント』(04)も、ヨーロッパ的ロマンチシズムと陰のあるムード、そして異世界的な雰囲気のある音楽でした。

逆に言えば、リンチ以外の監督でバダラメンティのポテンシャルを最大限に引き出せる人はあまりいなかった。『迷宮のヴェニス』(90)、『人妻』(99)、『ボブ・クレイン 快楽を知ったTVスター』(02)のポール・シュレイダーぐらいかな。
スティーブン・シャインバーグの『セクレタリー』(02)の音楽は、バダラメンティがリンチ映画で聴かせるような官能的なサウンドが楽しめましたが。

『ザ・ビーチ』(00)はダニー・ボイルが監督ということで期待したんですが、既存のポップミュージックの中にバダラメンティのスコアが埋没してしまっていたような感じでした(メインテーマの旋律は『ツイン・ピークス』っぽかったけど)。
『ロスト・ハイウェイ』や『ワイルド・アット・ハート』は、既製曲多めの構成でもバダラメンティの持ち味を発揮出来ていたので、やはりこのへんは監督やミュージック・スーパーバイザーのバダラメンティへの思い入れの差なのだろうなと思います。

そういえば『仄暗い水の底から』をハリウッドリメイクした『ダーク・ウォーター』の音楽も担当していましたが、あれもバダラメンティならもっとネットリした妖しい音楽を作れたはずなのにな、と思ったものです。


そんな中で『隣人は静かに笑う』(99)の音楽はダークな雰囲気が出ていて結構面白かったかなと思います。

意外な作品としては『25年目の弦楽四重奏』(13)を挙げなければならないでしょう。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲が物語のメインになっている作品で、いかにして自分のスコアを聴かせるかという難題に取り組んでいるわけですが、スコアでは木管楽器を用いることで違いを持たせるという手法を用いています。

もっとバダラメンティの音楽を聴きたかったなと思います。
ここ数年は高齢でメジャースタジオ作品の仕事が困難だったこともあったのでしょうけれども、バダラメンティの音楽が必要とされるような映画が少なくなってしまったこと、彼の持ち味を存分に発揮出来るような作品が少なくなってしまったことがつくづく惜しまれます。

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