BANGER!!!で書いた『ミッション:インポッシブル』シリーズ音楽コラムの補足的なお話

先日、BANGER!!!で『ミッション:インポッシブル』シリーズの音楽に関するコラムを書きました。

『ミッション:インポッシブル』歴代テーマ曲全解説! 最新作『デッドレコニング』から元祖『スパイ大作戦』まで逸話&トリビア満載|BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/99743/

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(23)のサントラ盤の発売日は7月26日とアナウンスされていたので(その後発売日が延びました)、これは原稿の締め切りまでにサントラは手に入りそうにないなと思い、当初『デッドレコニング』は最後にチョロっと触れる程度にして、シリーズ6作の音楽をおさらいするような内容のコラムにする予定でした。

しかしデジタル版のサントラなら原稿締め切り前に入手出来そうだということが分かり、サントラCDを予約注文していたにもかかわらず、わざわざデジタル版サントラを買って
『デッドレコニング』の音楽紹介もざっくりと書くことにしたのでした。


ハッキリ言って余計な出費でした…。

しかし「サントラの音源を聴かずに推測で音楽コラムを書く」などという行為はあまりにも危険かつ無責任なので、そういうところはちゃんとしておかなければ…と自分で自分を納得させてデジタル版サントラを買いました。ちなみにサントラCDの予約をキャンセルするつもりもありません。ええ、両方買いますとも。

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※2023年8月9日追記
予約注文していた『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のサントラ盤が届きました。ジャケットがリバーシブル仕様です。

…というわけで、今回も字数の都合などでBANGER!!!のコラムに書けなかったネタを当方のブログで補完させて頂きます。

その1:「スパイ大作戦のテーマ」のモールス符号ネタについて

自分はことさらトリビアネタを得意気に紹介するスタイルの文章があまり好きではないのですが、編集部から何かテーマ曲のネタがほしいと注文があったので、以前自分が見聞きしていたネタで、きちんと情報の裏付けが取れるものをいくつか書かせて頂きました。

モールス符号のネタについては「マニアがそういう分析をしただけなんじゃないの?」と思っていましたが、ちょうど最近サイモン・ペッグとレベッカ・ファーガソンも動画インタビューでこの件に言及していて(動画の6分20秒あたりから)、割と有名なネタだったんだなと思った次第です。

その2:『ミッション:インポッシブル』(96)のスコア作曲の期間について

『ミッション:インポッシブル』第1作の音楽紹介で「短期間でのレコーディングを余儀なくされた」と書きましたが、実際どのくらいだったかというと1ヶ月くらいだったそうです。ブロックバスター映画の作曲期間にしては明らかに短い。ダニー・エルフマンもこの短期間でよくあのスコアを書き上げたなあ…と改めて思いました。「スパイ大作戦のテーマをミッション完了時のファンファーレ的に使う」というアイデアは、エルフマンが生み出したようなものですから。

その3:『M:I-2』(00)の”バンド”について

『M:I-2』でジマーさんが仲間のミュージシャンと”The Mission: Impossible II Band”を結成したと書きましたが、スコア盤のブックレットにそのメンバーがクレジットされています。
クラウス・バデルト、マイケル・ブルック、デイヴ・ガムソン、リサ・ジェラルド、ニック・グレニー=スミス、オリヴァー・リーバー、エイトール・ペレイラ、ジェフ・ローナ、マーティン・ティルマン、メル・ウェッソンにジマーさんという面々。
やはりギタリストが多めですね。マイケル・ブルックのギターは音色に特徴があるので、スコアを聴くと「このギターがブルックかな」と分かります。

その4:『M:i:III』(06)のレコーディング秘話について

俳優のダーモット・マローニーがチェロでレコーディングに参加しているという話ですが、サントラ盤のブックレットを見ると、ちゃんとチェロ奏者のクレジットで彼の名前があります。ジアッキーノさんは「ダーモットが演奏で参加したのはヴァチカンのシーンのスコア」と言ってたかな。

その5:『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)の音楽について

これは特に補足するネタはないのですが、ここまで分かり易く物語の舞台の地域色がスコアに反映されるのは『ゴースト・プロトコル』がシリーズ初だったのではないかなと思います。モスクワやドバイ、ムンバイのシーンでここまで分かり易い「ご当地音楽風の劇伴」が流れるのは、今のところ『ゴースト・プロトコル』だけだと思います。

その6:ジョー・クレイマーはなぜ『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15)だけで降板したのか

コラムで書いた”クレイマーは諸般の事情で『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(18)には不参加”の件ですが、クレイマーはプロデューサーの一人に「君の芸術性なんて誰も気にしちゃいないよ」と言われたとか。で、そのプロデューサーはクレイマーを捨てて『フォールアウト』の音楽には別の作曲家(ローン・バルフですね)を雇ったと。

まあここまでは映画音楽業界ではよくある話だったものの、その後クレイマーがツイッターでこの一件の不平不満と業界の裏事情をぶちまけたのがマズかった。「作曲家のアシスタントになるべきかどうか」みたいな誰かのツイート(リプライ)か何かに答えたんだったかな。
「アイツはZimlingするために自分を捨てた」(Zimling=ジマー組と仕事をすること、みたいな意味だと思う)「ハリウッドのメインストリームの作曲家で、全ての音楽を自分で書いている人は片手で数えられるほどしかいない(=ほかの作曲家はアシスタントに曲を書かせている)」みたいなことを書いてしまった。
現在、物議を醸した当該ツイートは(およびクレイマーのアカウントも)削除された模様。自分も当時この投稿を読みましたが、「言いたいことは分かるけれども、言い分が一方的すぎたかな…」という印象がありました。クレイマーは芸術家肌が強すぎて世渡り下手なところがあったのかもしれません。マッカリーとの再タッグはもう実現しない気がします。少なくとも当分は。

クレイマーは『誘拐犯』(00)と『アウトロー』(12)の音楽がよかったし、『すばらしき映画音楽たち』(16)ではメインビジュアル(後ろ姿だけど)を務めるまで注目されていたのに、残念です。『ローグ・ネイション』の音楽もシリーズ屈指の完成度だったのに…。

その7:『フォールアウト』と『デッドレコニング』に連続登板したローン・バルフについて

まあそんなわけで”Zimling”などと揶揄されたバルフではありましたが、『トップガン マーヴェリック』(22)の音楽プロデュースの仕事もうまくまとめたので、クルーズとマッカリーからも絶大な信頼を寄せられている模様です。
そうじゃなければ『デッドレコニング PART ONE』で総勢555人のミュージシャンが参加するようなレコーディング形式にゴーサインなんて出しませんからね…。

バルフのスコアの特徴は?と聞かれると答えるのが難しいのですが、シフリンの”The Plot”の使い方がエルフマンやジアッキーノとも違う感じなのが特徴かな、と思います。”The Plot”をここまで重々しいアレンジで使うのは『フォールアウト』前までは聴かれなかったかなという気がします。

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