『ザ・ファン』のサントラ盤にアルバム未収録曲を追加して拡張版サントラを自作した話

以前からやろうやろうと思っていながら、面倒くさくて先送りしていた『ザ・ファン』(96)の拡張版サントラ作りを実施しました。
最近ザ・シネマで放送していたし、サントラ盤を棚から取り出して久々にハンス・ジマーの19分のスコアメドレー”Sacrifice”を聴いたら、重厚で凝ったアレンジの力作スコアだったので、せっかくだからこの勢いでやってしまおうと思い立った次第です。

まずサントラ盤の収録曲はこんな感じ。


この時期TVT Soundtraxから発売されたサントラに顕著なのですが、劇中使用曲の中に未使用曲(インスパイアソング)を数曲忍ばせてます。そして権利関係の都合で入れられなかった歌曲がいろいろと。今回はそれを補完していきます。

その1:ギル・レナードの”幸せだった頃”を象徴するローリング・ストーンズの曲

劇中ではローリング・ストーンズの曲が効果的に使われていますが、ストーンズの曲は「仕事もプライベートもどん詰まりの窮地にいるギル(ロバート・デ・ニーロ)にとって数少ない心の拠り所」という重要な役割を果たしています。彼の幸せだった頃を象徴する曲なのかもしれません。
だから劇中でストーンズの曲が流れている時のギルはテンション高めでウッキウキ。ストーンズ世代ではない自分の息子や、誘拐したボビーの息子にストーンズの曲解説を一方的に聞かせるギルの姿が痛々しいです。

というわけで劇中で使われたストーンズの曲は以下の通り。

アルバム「Beggars Banquet」から”Sympathy for the Devil”

アルバム「Tattoo You」から”Start Me Up”

アルバム「Let It Bleed」から”Gimme Shelter”

アルバム「Some Girls」から”Shattered”

その2:ギルの危険な内面が表出してきた時に流れ出すナイン・インチ・ネイルズの曲

仕事をクビになり、元妻と息子からも絶縁されて人生のどん底に落ちたギル。彼の中で何かが壊れて危険な男と化した時、殺伐とした音を響かせるのがナイン・インチ・ネイルズの楽曲群。”Art of Self Destruction”なんてギルの心理状態そのものの曲タイトルです。ギルがプリモ(ベニチオ・デル・トロ)への凶行に及ぶシーンでの”Closer”の使い方が強烈でした。

エンドクレジットだと使用曲は”Closer (Further Away)”と書かれていましたが、”Closer (Precursor)”も使われていたと思います。『セブン』(95)のオープニングタイトルで使われたあのリミックスバージョンですね。あれと同じチリチリした音が聞こえてきたので。

そんなわけでNINの使用曲は以下の通り。

アルバム「Further Down The Spiral」から”The Art of Self Destruction, Part One”

アルバム「Closer to God」から”Closer to God”
“Closer (Further Away)” 
“Closer (Precursor)”

その3:プリモのために使われたラテン・ナンバー

劇中でボビーと険悪な雰囲気になるライバル選手のホアン・プリモ。
ラテン系ということで彼のシーンでは下記の曲が使われています。

Gipsy Kings – Bem Bem Maria(プリモの活躍シーンで使用)

Santana – アルバム「天の守護神」から”Samba Pa Ti”(プリモの追悼イベントのBGMとして使用)

補完すべき主だった曲はこのぐらいなので、あとは余力があったらお好みで未収録曲を追加して頂くのがよろしいかと。というわけであとは雑感です。

劇中ではマッシヴ・アタックの”Hymn of the Big Wheel”(サントラ盤にも収録)と”Hot Knives”の2曲が使われてます。
前者はボーカル部分をカットして使っているので、原曲のソウルフルな雰囲気とは違う不吉なインスト曲になっています(ボビーが三振するシーンとエンドクレジット後半で使用)。
“Hot Knives”はマッシヴのスタジオアルバムにそういうタイトルの曲はなかったし、たぶんこの映画のために書き下ろした曲なのではないかと推測されます。
曲のタイトルから考察すると、ギルが怖い顔でナイフのセールスに回っているシーンの曲ではないかと。

あとアーロン・ネヴィルが 開幕戦のセレモニーで”The Star Spangled Banner”を歌ってます。

以下の曲はサントラ盤に収録。
ヒップホップ/ダンスミュージック系の曲はボビーが車内で聴いていたり、球場のロッカールームで流れていたり、選手行きつけのバーの店内で流れていたりします。
Sovoryの”Did You Mean What You Said”はギルがボビーの自宅で語らうシーンで使われていました。

Honky – What’s Goin Down
Black Grape – Little Bob
Johnny “J” and Big Syke – Forever Ballin’
Foreskin 500 – Deliver Me
Sovory – Did You Mean What You Said
Kenny Wayne Shepherd – Let Me Up (I’ve Had Enough)
Terence Trent D’Arby – Letting Go

テレンス・トレント・ダービーの”Letting Go”はハンス・ジマーの劇伴(メインテーマ)に詞をつけて歌ったもの。テーマソングですね。

余力のある方は下記の曲を追加して頂ければと。

Buppy & The Uplifters – Do You Want Some
Corrosion of Conformity – Mano de Mono
Mitch Ryder & The Detroit Wheels – Devil with a Blue Dress

ジマーさんの劇伴は「オケ+電子音」でなかなか聴きごたえがあります。
“Sacrifice”(犠牲フライ)はスコアメドレーなのですが、ギルの恍惚感、ギルとボビーの苦悩、焦燥、そしてギルの狂気という流れがうまくまとめられている印象。
監督のトニー・スコットから「NINみたいな感じで」とでもリクエストがあったのか、インダストリアルノイズっぽい音を積極的に導入したスコアのように感じました。
ちなみにスコットはその後『マイ・ボディガード』(04)でもNINの曲を使い、トレント・レズナーに音楽コンサルタントをさせていました。

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