『戦場のメリークリスマス』のサントラ盤を初めて聴いたときのことを思い出してみた。

NHK BSシネマで3月28日に『戦場のメリークリスマス』(83)の放送があるので、先週末はこの映画(と音楽)について、昔のことをいろいろ思い出して過ごしました。

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戦場のメリークリスマス (30th anniversary edition) – 坂本龍一 (TOWER RECORDS)

友人間で『戦メリ』の話題になったときに自分がいつも言っているのが、「幸宏さんが教授をオシャレさんに仕立てなければ、あの映画に出ることもなかったのではないか?」ということ。

幸宏さんが教授の『千のナイフ』のジャケット撮影のためにファッションコーディネートをしてあげたから、「キザな伊達男の鬼才、坂本龍一」というキャラが確立したのであって、教授が「ジーンズの下を切りっぱなしでゴム草履、長髪に髭面」という風体のままでいたら、あそこまで洗練されたルックスにはならなかったのではないか…と幸宏派の自分は思うのです。

男性版『マイ・フェア・レディ』(64)的な感じでしょうか。ちょっと違うか。

千のナイフ(SACDハイブリッド)- 坂本龍一(amazon)
千のナイフ(SACDハイブリッド) – 坂本龍一 (TOWER RECORDS)

閑話休題。

自分が『戦メリ』のサントラ盤を聴いたのは小学生の頃でした。
東京から仙台の実家に帰ったとき、3つ年上のイトコ(教授派)が家に遊びに来て聴かせてくれた。
レコードプレーヤーのある応接間ではなく、自分の部屋で聴いた記憶があるから、たぶんカセットテープだったのでしょう。
イトコがカセットでサントラを買ったのか、レコードをカセットテープにダビングして持ってきたのかはもう憶えていませんが。

だから人生で初めて聴いた映画のサントラということになるのかな。
そして初めて聴いたミニマルミュージックでもある。
この映画の劇伴は反復的な側面が強いサウンドなので、広義のミニマルと言えるのではないかと。
メインテーマもいいけど、”The Seed And The Sower”の不思議な高揚感のあるフレーズも素晴らしい。

当時の自分はまだ幼く、音楽知識も乏しかったので、メインテーマを聴きながら「この音は何を弾いて出してるんだろうね」などとイトコに尋ねたものです。

イトコ:「やっぱシンセじゃない?」
ぼく:「この”カーン!”っていうのも?」(←いわゆる「合いの手で入る竹の音のようなパーカッション」のことです)
イトコ:「なにか叩いてサンプリングしてるんじゃないの?『テクノデリック』みたいに」
ぼく:「そっかぁ」

イトコとこういう会話をしたのをいまでもハッキリ憶えています。

イトコとの会話と言えば、YMOのアルバム『SERVICE』で「S.E.T.+YMO」の落盤コントを聴いたとき、「坂本龍一の声、なに言ってるか聞き取りにくいよね」と二人で話していたのも憶えています。
2019年リリースのリマスター盤のライナーノーツを読むと、「『戦メリ』での役柄どおりの何を言っているのかよく分からない怒鳴り方で坂本さんが絡む」…というようなことが書かれてあって、ああ、あれは三宅裕司さん流の『戦メリ』のパロディだったのかと最近になってやっと分かりました。
それ以降、あのコントを聴けば聴くほど教授の演技がヨノイ大尉にしか聞こえなくなりました。「貴様か! なにやってんだ貴様!」「貴様ぁぁぁ!外に出られたらもうただ事じゃ済まんぞ!」のセリフなんて、力み具合と怒鳴り方が完全にヨノイ大尉。「落盤事故に遭った作業員の中にヨノイ大尉がいる」というシチュエーションが実にシュールで笑えます。

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SERVICE – Yellow Magic Orchestra (TOWER RECORDS)

で、『戦メリ』の音楽にまた話を戻しますと、当時は劇伴の不思議な音の正解が分からずじまいでしたが、『戦メリ』30周年記念盤サントラに封入された詳細なライナーノーツによると、メインテーマのガムラン的な音の響きは「E-MU Emulatorの”Wine Glass”という音にProphet-5や生ピアノの音も加えて作ったもの」で、「合いの手の竹を叩いたような音」は「LinnDrumのリムショットを加工して作った音」が正解だったようです。

まあ当時は「この音どうやって作ったんだろうね?」とあれこれ考えながら曲を聴くのが楽しかったし、イトコとの会話も弾んだので、変に正解を知らなくてよかったのかもしれません。「実はこの音はさぁ…」などとしたり顔で解説する小学生というのもちょっとかわいくないですし。

やがて時は流れ、『戦メリ』の音楽(とメインテーマ)は様々なアレンジで聴くことになりましたが、それらを聴いて思うのは「やっぱり原曲が一番いいなあ」ということでした。

キャリア絶頂期で怖いものなし、それゆえやや傲慢で傍若無人ですらあった、あのとき教授にしか作れない音ではないかと思うのです。電子楽器にしても、性能が向上して便利になった現在のシンセではなく、過渡期の電子楽器で試行錯誤しながら作った音だからこそ、あの”味”が出たのではないか。そんな気がします。

教授はよく「昔の自分に会ったら殴ってやりたい」といった旨のコメントをしていましたが、個人的には「鼻持ちならない鬼才音楽家」だった頃の教授の作品のほうが好きだったりします。まあ人間的にはその時期の教授は”いろいろ困った御人”だったのでしょうけど。で、もう少し個人的な好みを言わせて頂ければ、自分はニューヨーク移住前の教授の音楽が好きだった。

もちろん後年の作品にもよいものがたくさんありますが、自分の中では『B-2 UNIT』や『音楽図鑑』のほうが断然思い入れが深い。

だからなのでしょうか、最近アルファやミディからアルバムをリリースしていた頃の坂本龍一の音楽を聴くと、「あの頃はよかったな…」とノスタルジーにも似た思いがこみ上げてくるのです。

在りし日を偲んで聴く音楽は悲しい。

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