96時間

先日の『30デイズ・ナイト』に続いて、日本公開前から楽しみにしていた『96時間』(08)を観てきました。

サエない生活を送っているCIAの元工作員ブライアン(リーアム・ニーソン)が、最愛の娘キム(『LOST』のマギー・グレイス)を人身売買組織に誘拐され、娘を取り戻すために非情な追跡者と化すサスペンス・アクションという事で、期待通りの面白さでございました。

何と言っても主役がリーアム・ニーソンというのがいいですな。こういう「家族を守るために闘う男」といえばハリソン・フォードの十八番なわけですが、あえてアクション俳優というカテゴリに入らないニーソンをキャスティングするのが粋というか何というか。アメリカのプロデューサーではちょっと思いつかない人選かもしれません。

しかし、何があっても沈着冷静そうなニーソンだからこそ、愛娘を取り戻すためにどんな無茶をやっても、演技に説得力があるわけです。ハリソン・フォードとかキーファー・サザーランドあたりがこういう役を演じると、過去に演じたキャラの印象が強くてリアリティが感じられなくなってしまう恐れがあるのだけれども、演じるキャラクターにまだ色がついていないニーソンだと、ブライアンの親バカぶりや「俺の邪魔をする奴は誰だろうと全員ブッ殺す!」的な過激な暴走にも深みやリアリティが出るわけです。オトーサンにここまでしてもらえたら、娘も本望だろうなぁ、と思ったりして。

演出もスピーディーでよい感じです。回想シーンとか、誘拐先での娘の描写、娘の安否を気遣う母と義父の描写など、映画の流れを悪くするようなシーンは一切ナシ。「娘が自分の全て」というブライアンの「非情なまでにエモーショナル」な描写だけで、93分の上映時間を一気に突っ走ります。立ち塞がる敵を3秒で瞬殺する「リーアム拳」も破壊力抜群。ニーソンは殺陣だけでなく、肉弾戦もイケるという事が判明しました。彼は身の丈2m近くあるので、格闘戦も絵になるのです。『アルティメット』(06)を監督したピエール・モレルの演出も、今回はさらにテンポがよくなってます。

ブライアンの別れた妻レノーア役はファムケ・ヤンセン。ファムケ姐さんは長身なので、「ニーソンと並んでも身長差が出ない女優」という点がキャスティングの決め手になったのではないかと思います。あとパンフには載ってませんが、レノーアの再婚相手(=キムの義父)を演じているのは『24 -TWENTY FOUR-』のジョージ・メイソン役でおなじみザンダー・バークレーでした。ま、見せ場がほとんどない役どころでしたが・・・。

音楽担当はナサニエル・メカリー。本作以前にリュック・ベッソンがプロデュースしたガイ・リッチーの怪作『リボルバー』(05)の音楽を手掛けたので、それが今回の起用に繋がったと思われます。この人、これから担当する作品によっては結構ブレイクしそうな気がするのですが、どうでしょう。

今回は「静かに燃える」タイプのスコア、というのでしょうか。オーケストラ・ミーツ・エレクトロニカといった感じで、ヨーロッパ的なカッコよさがありますな。サウンド的にはアトリ・オルヴァルッソンの『バンテージ・ポイント』(08)に近いかな?民族音楽色はありませんが、電子音の使い方とか、リズムの構成に近いものがあるような印象を受けます(ニカ色は本作の方が強め)。

挿入曲ではLupe FiascoをフィーチャーしたJoy Denalaneの”Change”が出色です。カーティス・メイフィールドの”I Want to Go Back”をサンプリングしているのですが、これが最高にソウルフルでイカス。劇中ではホリー・ヴァランス演じる売れっ子歌手シーラの持ち歌、という設定になってます。

キムのおバカな友達アマンダが、パリのアパルトマンに着くや否や大音量でプレイするのはThe Hivesの”Tick, Tick Boom”。そしてエンドタイトルで流れるのが、Ghinzuの”The Dragster Wave”。ラストでベタなスローバラードとか流さないところにセンスの良さを感じさせます。日本映画だったら絶対(以下略)。

映画本編同様、サントラもクールかつスタイリッシュな感じです。ハンス・ジマー一派の音が好きな方にオススメ。輸入盤で入手可能ですのでぜひ。