グリーン・ゾーン

green zone

監督ポール・グリーングラス×主演マット・デイモン×編集クリストファー・
ラウズの『ボーン・アルティメイタム』(07)のスタッフが再結集(撮影監督は
オリヴァー・ウッドではなく『ユナイテッド93』(06)、『ハート・ロッカー』(08)の
バリー・アクロイド)という事で、楽しみにしていた『グリーン・ゾーン』(10)を
観て参りました。

映像的には期待通りのデキ。例によって、ブレにブレまくる手持ちカメラの
映像を細かいカットで繋ぎ、スピード感溢れる映像を見せくれています。
かなり激しく画面が揺れるので、映画館だと目線の高さより前の席で観た
ら頭が痛くなったり乗り物酔いにも似た症状を引き起こすかも。この映画を
観る時は、あまり前の席に座らない方がいいと思います。

『アルティメイタム』のタンジールで見せた超絶チェイス(あの民家の屋根
伝いに殺し屋を追いかけたアレ)も凄かったが、今回も映画の終盤の追跡
シーンが凄かった。逃げるイラクの将軍と、その身柄を確保しようとするミラー
(デイモン)、ミラーを殺そうとする特殊部隊の少佐(ジェイソン・アイザックス)
との、三つ巴の追跡戦が圧巻。夜のシーンだったし、カメラが激しく揺れるので
よく見えない部分もあるんだけど、手持ちカメラの荒削りな映像と神懸かり的
な編集、俳優の熱演が奇跡の融合を果たし、迫力のチェイス・シーンを作り
上げています。

が、しかし。『ボーン・スプレマシー』(04)や同『アルティメイタム』と比べて
どうかと言われると、個人的にはあっちの方がよく出来ているような気が
する。というか、映像的には確かに似ているけれども、『ジェイソン・ボーン』
シリーズと『グリーン・ゾーン』は似て異なる映画といっていいかもしれない。

『JB』シリーズの方は記憶を失ったスパイの「自己探求」の戦いを描いて
いるので、キャラクター描写にも厚みがあるのですが、こちらはMET隊隊長
が限られた時間内に大量破壊兵器の捏造疑惑を暴くドラマなので、とにかく
展開が早く、キャラクターに感情移入の余地がないのです。ま、作り手側も
この映画にはそういう事を求めていないのかもしれませんが。

音楽担当はグリーングラス監督のお気に入り作曲家のジョン・パウエル。
実はこの映画、音楽が一番の主役なんじゃないかというくらい印象的だった。

パウエルと言えば、『ボーン・アイデンティティー』(02)あたりからパーカッ
ションを多用した曲作りをするようになったわけですが、本作のそれは
ハンパじゃない。CD1曲目の”Opening Book”からドンドコドコドコドン!
ドドン!ドンドコドコドコドン!ドドン!と打楽器を鳴らしまくり。映画が
始まってからエンドクレジットが終わるまで、このテンションがずーーっと
続きます。まさに1曲目からクライマックス。バングラドールとかドゥンベッ
クなどのライブ・パーカッションに加え、打ち込みやサンプリングのリズム
をもミックスさせたスコアは腹にズシリと来るド迫力でございます。

この自分の身体を体内から揺さぶられるような強烈なビートは、軍用
ヘリのローター音とか装甲車両の駆動音、銃声や爆発音を疑似体験
させてくれます。「114分間、あなたは最前線に送り込まれる」という
キャッチコピーは、単に映像の事だけではなくて音楽の事も言っていた
のではないかと一瞬思ってしまったほど(多分このコピーを作った人は
そこまで考えてなかったと思うけど)。

『ジェイソン・ボーン』シリーズでパウエルのファンになった方は、この
サントラ盤を買って損ナシ。是非この強烈なリズムを大音量で体感して
下さい(他人様の迷惑にならないよう、ヘッドホン推奨)。