クロッシング -Brooklyn’s Finest- (映画について)

アントワン・フークアの新作という事で、アメリカ公開時から楽しみにしていた本作。メジャースタジオ作品ではないので、日本ではどこが配給してくれるのかなーと思っていたら、プレシディオさんがやってくれました。素晴らしい。

自分はサントラの仕事絡みで9月に試写を見てきたので、ざっと見所というかネタバレしない程度に感想など書かせて頂きます。

物語の主人公は3人の刑事。それぞれが何かしらの問題を抱えていて、ひとつの事件をきっかけに3人の運命が交錯するという構成。その3人の刑事のエピソードはこんな感じ。

エディ(リチャード・ギア):
退職まであと1週間のベテラン制服警官。「波風立てず、よけいな事には首を突っ込まない」をモットーに職務を淡々とこなしているため、新人警官や上司から「腰抜け」とか「無能」呼ばわりされる始末。私生活では妻と別居。しかも熱を上げている娼婦とも「お得意様」以上の関係になれない何とも情けない状態。「俺の人生って一体何なんだ?」と思った時、彼の取った行動とは・・・?

サル(イーサン・ホーク)
信心深く家族思いの麻薬捜査官。ハウスダスト(?)で体調不良気味の身重の妻と子供たちのため、新居の購入を約束。ところが安月給で頭金の工面すらままならず、「どうせ悪党の汚れた金なんだから・・・」と、捜査中に目にしたドラッグディーラーの金を横領しようと考える。警官としてのモラルをギリギリの所で保っている彼が最終的に下した決断とは・・・?

タンゴ(ドン・チードル)
潜入捜査官。ブルックリンのギャング・キャズの組織に潜入中。長期の囮捜査で心身共に疲れ果て、上司に操作から外してくれと説得するも全く聞き入れられず。挙げ句の果てには「キャズを囮捜査で逮捕したら昇進させてやる」と提案される。キャズは悪党だが、タンゴが潜入捜査中に心を通わせた”ダチ”で、しかも命の恩人。果たしてタンゴは昇進のためにキャズを売るのか、それとも仁義を貫くのか・・・?

キャストもなかなか豪華なんですが、皆いい演技をしているんです。リチャード・ギアは『背徳の囁き』(89)以来の制服警官役かと思いますが、こんなに覇気のないギアも珍しい(注:褒め言葉です)。弾丸の入ってない銃を口にくわえてカチカチやる姿には、「生きる気力もないけど死ぬ気もない」という無気力中年男の悲哀が漂ってます。”イケてる俺”をこれ見よがしに見せつけた『アメリカン・ジゴロ』(80)の頃の面影は全くありません。迫真の名演技といえるでしょう。

イーサン・ホークも相変わらず巧い。家の頭金の事で頭がいっぱいで常に焦っているというか、なかばヤケクソ&自暴自棄になっている自己破滅的な演技が観客のシンパシーを誘います。決して悪い人じゃないところがまた泣ける。『その土曜日、7時58分』(07)で演じたダメ弟に通じるものがあるかな? 「俺がこんなに祈ってるのに、神様は何もしてくれない。ひょっとして神様は仕事をサボってんじゃないのか?」と神父に悪態をつくシーンもやりきれなくて泣けてきます。

ドン・チードルは『ホテル・ルワンダ』(04)で見せた”耐える”演技を今回も披露。ただでさえ幸薄そうな顔つきなのに、潜入捜査官となるとさらに悲壮感が増してます。上司役のウィル・パットンとエレン・バーキンにネチネチとイジメられるシーンは、チードルの真骨頂と言えるでしょう。ちなみにタンゴと親交のあるギャングのキャズを演じているのはあのウェズリー・スナイプス。脱税事件でキャリアにケチがついて以来B級・C級映画にばかり出てましたが、久々に本格派の映画に登場。これはウェズリー復帰の布石でしょうか。というか、脱税の件はケリがついたんだろうか。

何しろ監督が『トレーニング デイ』(01)のフークアなので、決して後味のいいラストは用意されていませんが、この男臭いドラマはハマる人にはかなりハマります。おまけに主人公3人がいろんな意味でかなり危なっかしい警官なので、彼らがどんな行動を取るか、そして彼らにどんな結末が待っているのか、なかなか先が読めずスリル満点。見ていて一番ハラハラするのは、いつ道を踏み外すか分からないサルのエピソードかな。必見です。

余談ですが、映画の冒頭でホークと車の中で喋っているチンピラを演じているのは、他ならぬヴィンセント・ドノフリオ。たった1シーンだけの出番なので、マニアな方は彼の怪演(というほどではないか?)をお見逃しなく。

音楽についてはまた後ほど。