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『ピッチブラック』(00)などでコアなファンの多いデヴィッド・トゥーヒー監督・脚本、そしてダーレン・アロノフスキーが脚本(原案)・製作を手掛けた2002年作品。第二次大戦中のアメリカ海軍潜水艦内を舞台にした密室スリラー映画。

公開当時はあまりヒットしたという話は聞きませんでしたが、ザ・シネマで放送していたのを久々に見たら、結構面白かった。

「潜水艦に女を乗せるのは不吉」というジンクスを上手く利用したオリヴィア・ウィリアムズのキャラの使い方とか、潜水艦という逃げ場のない場所でジワジワと精神を蝕まれていく乗組員の描写とか、事件の真相の見せ方(『羅生門』風と言えなくもない?)とか、クセ者脚本家ふたりの持ち味がよく出てるんじゃないかと。

映画の中盤で「俺たちは独軍艦なんか沈めてないんだ。沈められたのは実は俺たちの方なのさ」なんて観客のオチ予測を先読みしたかのようなセリフを乗組員に言わせちゃうあたりも、ひねくれ者(多分)のトゥーヒーらしい脚本だなーと思ったり。

この映画、キャストが地味だとよく言われますが、演出上それが功を奏しているとも言えるでしょう。絶対死ななそうな安全パイのビッグスターがいない事で、「いつ、どこで、誰が死ぬか分からない」というスリルが生まれるわけで。ちなみに主役扱いのマシュー・デイヴィスは『イントゥ・ザ・サン』(05)のセガール親父の相棒FBI捜査官役で割と顔を知られている人ではないかと。

地味とは言っても、艦長・機長など上司役の多いブルース・グリーンウッドを筆頭に、『フェリシティの青春』のノエル役の人(スコット・フォーリー)とか、ジェイソン・フレミングとデクスター・フレッチャーの『ロック、ストック…』(98)コンビとか、『ティアーズ・オブ・ザ・サン』(03)、『リディック』(04)の任侠顔俳優ニック・チンランドとか、いろんな映画で顔を見かける人たちが揃ってます。『ハングオーバー!』(09)、『デュー・デート』(10)のザック・ガリフィアナキスが真面目な演技をしているのが意外な感じ(食玩集めが趣味の乗組員役)。余談ですが、トゥーヒー監督も映画のラストに英国艦艦長役でチラっと顔を出してます。

音楽は『ピッチブラック』、『リディック』(04)でもトゥーヒー監督と組んでいるグレアム・レヴェル。前回『セイント』(97)の事を書いたばかりですが、レヴェルとしてはああいう作風の方が珍しくて、どちらかというと本作のような無調・特殊奏法・ノイズを駆使した音作りこそ彼の真骨頂という感じです。

個人的には、『デッド・カーム/戦慄の航海』(89)で披露した「ハァー、ハァー」というブキミな呼吸音(レヴェル本人が吹き込んだもの)をサンプリングしたスコアが絶品。海底の息苦しさとか、閉所恐怖症を誘発しそうな潜水艦内の様子が伝わってきて、実に効果的な使い方と言えるでしょう。僕はこの人のこういう音楽、結構好きです。

正当派のフィルムスコアを楽しみたい人にはお勧め出来ませんが、フツーの音楽に食傷気味の方なら、こちらのサントラ盤を楽しんで頂けるかも。ランブリング・レコーズさんから国内盤もリリースになってます。

そんなレヴェルの近作は、ドイツ映画『es エス』(01)のリメイク『エクスペリメント』(10)と、先頃日本公開延期になった『4デイズ』(10)。この人の作風を考えると、思わず納得の作品選び。