地球が静止する日(音楽について)

さて、今回は昨夜のブログで予定外に話が長くなってしまった『地球が静止する日』のつづきです。
本日は音楽について。

何故ワタクシがこの映画の音楽について(ブログを2部に分けてまで)お話ししたいかと申しますと、
国内版CDにライナーノーツを執筆するに当たって、作曲家のタイラー・ベイツさんご本人に
インタビュー出来たからなのですね。

ベイツさんといえば、ロックバンド”PET”の元メンバーで、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)や
リメイク版『ハロウィン』(07)などホラー映画御用達の作曲家として知られておりまして、
いろんな意味でクセ者ミュージシャンなんじゃないかと内心ハラハラしていたのですが、
それは杞憂に終わりました。実際のベイツさんは、当方のひとつひとつの質問に丁寧に答えて
くれるナイスガイでございました。しかもルックス的にもなかなか男前だったりします。
「イケメン映画音楽家」みたいな売り文句で紹介したら、結構人気が出るかもしれません(笑)。

そのベイツさんが「今回はナラティブな音楽は必要なかったんだ」とインタビューで語ってくれた
ように、『地球が静止する日』の音楽は喜怒哀楽の感情が明確なメロディーで表現されているような
タイプのスコアではなく、抽象的なイメージのサウンドになっています。もっとも、数々のホラー
映画で世紀末的ムードを漂わせたスコアを書き下ろしてきたベイツさんなので、今回の「人類が
滅亡すれば、地球は生き残れる」というテーマを掲げた本作の音楽担当にはピッタリの人選と
いえるでしょう。

スコアは「オーケストラ+合唱隊+打楽器隊」の構成で、なかなか迫力ある音を聴かせてくれます。
『地球の静止する日』と同様テルミンも使っているようですが、今回はあまり印象に残る使い方では
ないような気も致します。

その代わり、ベイツさん自ら「ギターヴァイオル」という楽器を弾いております。この楽器、CDのクレジット
などでは”bowed guitar”などと書かれる事もありますが、バイオリンのように弓を使って弾くギターと
イメージして頂ければよろしいかと。レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジやシガー・ロスなども自身の
アルバムで演奏した事があるので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。
で、この楽器がなかなかドクトクな音色を発しておりまして、謎めいた宇宙人のドラマにマッチした
音世界を作り出しております。

…というわけで、ランブリング・レコーズさんからリリースになる国内盤には、ライナーノーツの中で
タイラー・ベイツさんご本人が話してくれた曲作りのプロセスや、キャリアの方向性を決定づけた
思い出の映画、ロブ・ゾンビ監督の某作品を担当した時の苦労話など、いろいろ書かせて頂きました
ので、興味のある方は輸入盤ではなく国内盤をお買い求め頂ければ幸いに存じます。

国内盤の発売日は来年1月21日となっておりますので、ひとつよろしくお願い致します。

『地球が静止する日』オリジナル・サウンドトラック
音楽:タイラー・ベイツ
品番:GNCE7040
定価:2,625円

   

地球が静止する日

本日はweb上で賛否両論巻き起こっている映画『地球が静止する日』について。

この映画はロバート・ワイズ監督の古典SF作品『地球の静止する日』(51)のリメイク
なわけですが、冷戦下の核戦争の脅威を描いていた前作と異なり、今回は環境破壊
への警告がテーマとなってます。

例によって宇宙からの使者クラトゥ(キアヌ・リーブス)は「地球外文明の代表」として
地球にやって来るわけですが、リメイク版はこの時点で既にある「任務」を遂行する
気でいるので、核戦争を放棄するよう「説得」に来た51年版のクラトゥ(マイケル・
レニー)に比べると今回は非情な感じに描かれてます。

ま、それも無理ないかなと思うわけです。51年版同様、地球に降り立ったクラトゥは
おもむろに米軍に発砲されて負傷するし、「国の代表(=大統領とか)に会わせて
ほしい」と頼んでも拒まれるし、オリジナル版から57年経っても人類(特にアメリカ人)が
全然進歩していないんですな。相変わらず米軍は「未知なるもの」に攻撃を仕掛ける
ことしか考えてないし…。これだから「友好的な態度で説得を試みても聞く耳持たない
だろう」ってな発想になるのも分かる気がするのです。

で、クラトゥ氏は「人類が滅亡すれば、地球は生き残れる」とのたまうワケですが、
これも何となく納得してしまうんですよ。特にアメリカは環境問題に取り組みたがら
ない国ですからね。そういえば『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』でも、シャアは
アクシズを地球に激突させて人類を粛清しようとしていましたし、『機動戦士Vガン
ダム』ではタイヤ付き戦艦で地球上のあらゆる建造物をブッ潰す「地球浄化作戦」
なんてのもありましたな。「人類が生きている事自体、地球にとって有害である」
という発想は、割とよくある考え方なのかもしれません。

原作では、クラトゥが人類に警告を発するため、30分だけ世界中の電気をストップ
させるシーンが物語の中盤にあるのですが、今回のリメイク版ではその場面がラスト
シーンに移されているのです。これはヘレン(ジェニファー・コネリー)やバーンハート
教授(ジョン・クリース)が「危機に瀕したとき、人類は変わる事(進化)ができる」と
言った事を受けてのラストなのでしょう。

「そんなに人間が変われるというなら、この状況から変わってごらん」という、クラトゥ
から出された地球人への課題というか試練というか…そんな感じかな、と。「ここまで
切羽詰まった状況にならないと、人間って行動を起こさないモンかなぁ〜」とも思うの
ですが、そういやワタクシ自身も来年の年賀状を数日前にやっと書き終えたばかり
でした。うーむ、そう考えるとなかなか深いメッセージだ(笑)。

映画の中身について言えば、キアヌのクラトゥ役はなかなかハマっておりました。
この人はこういう無表情なキャラクターを演じると神秘的な感じになりますからね。
薄幸のヒロインを演じたジェニファー・コネリーもステキでよかったなぁ。ウィル・スミスの
息子はちょっとイラっと来たのでノーコメント。
脇役で『プリズン・ブレイク』のロバート・ネッパー(ティーバッグ役の人)と、『24 -TWETNY
FOUR-』のロジャー・クロス(カーティス役の人)が軍人役で出てましたね。多分、ネッパー
の演じた軍人はバグの大群に巻き込まれてお亡くなりになったかと。

さて『地球の静止する日』の音楽といえば、バーナード・ハーマンのテルミンを使った
音楽が有名ですが、今回のリメイク版の音楽を手がけたタイラー・ベイツは、51年版は
意識せずに全くのオリジナル音楽を書き下ろしました。

今回、音楽についてもいろいろ書こうと思ったのですが、文章が予想以上に長くなった
ので「次回につづく」という事にさせて頂きます。

なお、国内版サウンドトラックCDはランブリング・レコーズより1/21に発売です。

『地球が静止する日』オリジナル・サウンドトラック
音楽:タイラー・ベイツ
品番:GNCE7040
定価:2,625円

   

ワールド・オブ・ライズ

今回は20日から劇場公開になる映画『ワールド・オブ・ライズ』のお話。

デイヴィッド・イグネイシアスの小説『Body of Lies』をリドリー・スコット監督が映画化した作品で、テロ組織とCIA、ヨルダン情報局との熾烈な情報戦(騙し合いとも言いますが)を描いた物語です。

近年のアクション/スリラー映画で悪役に描かれる事の多いCIAですが、本作もまた然り。テロ組織壊滅のためなら部下の使い捨ても辞さない(もちろん、一般市民に犠牲者が出てもお構いなし)という冷酷非情かつ身勝手な一面を見せております。

その無慈悲な作戦を立案するCIA局員ホフマンをメタボ体型のラッセル・クロウが演じているのですが、このキャラが実に憎たらしい(笑)。自分自身はアメリカ国内の安全な場所から動かず、家事とか子供の送り迎えをしながら、衛星電話を使って中東の”戦場”にいる部下のフェリス(レオナルド・ディカプリオ)に命令を送ったりするわけです。この部下のコキ使い方とか、ヨルダン情報局に対する慇懃無礼な態度を見ていると、ホフマンというキャラクターはCIAのみならず、現代アメリカの「イヤな部分」を象徴する存在なのではないか、と思ってしまいます(他国の文化に全く敬意を払わないあたりが特に)。こりゃアメリカも嫌われるわ、と思わず納得。

メジャースタジオ製作の娯楽映画で、こういうアメリカの暗部を赤裸々に描けるリドリー・スコット監督はやっぱりすごい人だなぁと思った次第。御年71歳になっても全然日和ったりしていません。

レオ様とアンマン在住の看護婦アイシャのロマンスのシーンがイマイチ説得力に欠けるのを除けば、スパイ映画としてなかなか見応えのある作品に仕上がっているのではないかと思います。
ロマンスシーンが魅力に欠けるのは、リドリーというよりウィリアム・モナハンの脚本がマズいのでしょう。『ディパーテッド』の女医さんとのシーンもとってつけたようなノリだったし。

さて本作の音楽は、ここ最近リドリー・スコットの専属作曲家となっているマーク・ストレイテンフェルドが担当しています。この方、ハンス・ジマーのアシスタントとして長く下積みをしていた作曲家なのですが、今回のスコアでは所謂”ジマー節”が全く登場せず、重低音を効かせたシブイ音楽を披露しています。

ストレイテンフェルドの前作『アメリカン・ギャングスター』(07)も相当シブイ音楽でしたが、あの映画の「フランク・ルーカスのテーマ」が中近東テイストになったスコアとイメージして頂けると分かりやすいかと。キャッチーさには欠けますが、中東由来の楽器とリズム隊の重厚なグルーヴが心地よい酩酊感を生み出しており、何度もリピートしてCDを聴いていると、このドンヨリしたサウンドがクセになって参ります。エスノ・サウンドに興味がある方にオススメ。

ちなみにストレイテンフェルドは作曲のインスピレーションを得るために、映画のロケ地であるモロッコへ行ったそうなのですが、「中東が舞台の映画なのに、モロッコに行ってリサーチになるの?」と思った方もいらっしゃるかと思います。実際、僕もライナーノーツを書いていてそう思いました(笑)。まあ単身アンマンへ行くのは危険だったでしょうし、モロッコはアフリカとはいえアラブ
文化が入ってきている国でもあるので、リサーチには事欠かなかったのでしょう。多分。

ちなみに本作のエンドクレジットではGuns N’ Rosesの新曲”If The World”と、ストレイテンフェルド、マイク・パットン、サージ・タンキアンの3人による書き下ろし曲”Bird’s Eye”がフィーチャーされています。この2曲はサントラ盤未収録ですが、”If The World”はガンズの新譜”Chinese Democracy”で、”Bird’s Eye”はiTunes Music Storeで聴く事が出来ますぞ。

国内版サウンドトラックCDはランブリング・レコーズより発売中。

『ワールド・オブ・ライズ』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マーク・ストレイテンフェルド
品番:GNCE7038
定価:2,625円

   

スピード・レーサー

映画『スピード・レーサー』のDVDがリリースになりました。

ワタクシがこの映画のサントラ盤ライナーノーツの仕事を担当したのは、
5月中旬頃でした。サロンパスルーブル丸の内の完成披露試写で本編を
見たのですが、極彩色のギラギラしたヴィジュアルに目がヤラレました。
DVDを見る時は、お部屋を明るくして鑑賞することをお勧めします。

資料によると、ウォシャウスキー兄弟は「ファミリー映画を作りたかった」と
言っているようなのですが、ううむ、どうなんだろう。この作品は懐かしの
アニメ『マッハGoGoGo』をハリウッドで実写化したもの。となればターゲットは
「子供の頃にアニメを見ていた大人」なのではないかと思うのですが、
それならシナリオをもっと大人向けにした方がよかったのでは?とワタクシは
思いました。

しかし、来年公開予定の『ドラゴンボール』実写版の出来がかなりヤバそうな
感じなので、それに比べたらこの映画は『マッハGoGoGo』への愛やリスペクトに
溢れていて、真摯な映画になっているんじゃないかと思います。

…とまぁ、内容的には難点もあるのですが、音楽は文句のつけようがありません。
『Mr.インクレディブル』(04)や『M:I:3』(06)のマイケル・ジアッキノが作曲を担当して
いるのですが、全編ド派手なオーケストラ・サウンドをカマしてくれておりまして、
これが実に気持ちよくて最高なのです。

ジアッキノ自身、子供の頃に原作アニメに熱中していたクチらしく、越部信義氏の
作曲したテーマ曲のメロディーをスコアの中に引用しているので、聴いていて
何とも懐かしい気分にさせてくれます(エレキギターの音も何となくレトロっぽいし)。
テクノ/ハードロック系のスカしたサントラにしなかったあたりに、原作のイメージを
大切にした製作スタッフの「愛」を感じます。

CDのハイライトは、何と言ってもエンドクレジットで流れる[20]の”Speed Racer”
でしょう。オリジナル主題歌のインスト・カヴァー曲なのですが、日本の歌謡曲の
雰囲気を忠実に再現したアレンジと、サンプリングされた「マッハGo!」の掛け声に
感涙必至。リップサービスで「日本のアニメは最高だぜ!」とおっしゃって下さる
ハリウッドの方がよくいますが、ジアッキノの『スピード・レーサー』愛はホンモノです。
多分。

国内盤CDはランブリング・レコーズより発売中。

『スピード・レーサー』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ジアッキノ
品番:GNCE7024
定価:2,625円

   

ブーリン家の姉妹

今回は25日から公開になった映画『ブーリン家の姉妹』(08)についてのお話を少々。

エリザベス1世の生みの親として知られるアン・ブーリンに実は妹がいて、
時のイングランド国王ヘンリー8世の寵愛を巡って、姉妹の間で壮絶な愛憎劇が
繰り広げられるというストーリー。

ヘンリー8世の寵愛というより、王妃の座を狙うアン・ブーリンをナタリー・ポートマンが
演じ、「清純で心優しい」妹のメアリーをスカーレット・ヨハンソンが演じている…のですが、
ゴシップ紙などでインタビュー中の態度の悪さとか奔放な私生活を度々スッパ抜かれている
ヨハンソンが清純派のメアリーを演じるというのは「ちょっとイメージが違うなぁ」という気もします。

で、映画の中身はと言いますと、アン・ブーリンの狡猾さとヘンリー8世の女ったらしぶりが
印象に残ります。
アンはヘンリー8世を手玉にとって、妹メアリーを宮廷から追い出し、キャサリン・オブ・
アラゴンとの離婚を迫り、ローマ・カトリック教会からも決別させるなどやりたい放題。
ヘンリー8世はいわゆる「アン・ブーリン萌え」状態なので、完全に彼女の言いなりに
なってしまうんですな。この時期イングランドの歴史が大きく動いたわけですが、
その背後にはこういう事情があったというわけです。そう考えると、伝統ある英国王室の
お家騒動も、高尚なんだか低俗なんだかよく分からなくなってきます。

そういえば昔、ハーマンズ・ハーミッツの”I’M HENRY THE VIII, I AM”という曲がありましたね。
『ゴースト ニューヨークの幻』(90)でパトリック・スウェイジが歌ってたアレです。
何だかフザケた感じの曲だった印象がありますが、ヘンリー8世という人物は割と
歌われている歌詞のまんまのお人だったようです。ってことは、やっぱり通俗的な人だったのか。

さて本作の音楽を担当したのは、『潜水服は蝶の夢を見る』(07)のポール・カンテロン。
全編クラシック出身らしい流麗かつ上品なオーケストラ・スコアで纏めています。
メロディーもしっかりしていて、”Opening Titles”で聴けるメインテーマと、”Anne is Exiled”や
“Anne Charms Henry”などで使われるアン・ブーリンのテーマの2つを中心とした主題曲で
構成されています。CDの収録時間62分とコストパフォーマンス的にもお買い得。
クラシック音楽に興味のある方にオススメしたい一品です。

ちなみにこのカンテロンという方は、若い頃に大変な目に遭いつつも努力してプロの
音楽家になったというエピソードがございます。
一体どういう目に遭ったのかは、私が国内盤CDに寄稿したライナーノーツを読んで
頂ければと思います。

その国内盤CDは、ランブリング・レコーズより発売中。

『ブーリン家の姉妹』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ポール・カンテロン
品番:GNCE7033
定価:2,625円