『エターナル・サンシャイン』を観たのはジョン・ブライオンの音楽にハマっている頃だった。

昨日(2025年12月12日)から『エターナル・サンシャイン』(04)のリバイバル上映が始まったそうですね。

先日Xにもチラッと投稿しましたが、当方は2005年の劇場公開当時サントラ盤に音楽解説を書きました。

Eternal Sunshine Of The Spotless Mind Original Soundtrack – amazon music

ただし当初の予定と異なり、ほかの音楽ライターの方がエッセイを寄稿することになったので、当方の原稿の文字数は普段の半分くらいになってしまったのですが。

そういう事態になってしまったとき(当時の自分はまだ若かったので)ちょっと落ち込みましたが、数日冷静になって考え直してみたら「仕事にありつけただけ運が良かった」と思えるようになりました。

当時の自分はまだ駆け出しの映画音楽物書き。
厳格な契約書を書いたわけでもない担当さんとの約束なんて、「この前の話ですけど、別なライターさんにお願いすることになったので。すいません」と”なかったこと”にされる可能性だってあったわけです。
でも担当さんは当方のぶんのライナーノーツの文字数を確保してくれた。
それなら自分は普段より少ない文字数の中で最大限努力して、担当さんの恩義に報いなければならないと思ったのでした。

だから文字数の割には結構頑張って音楽解説を書いたのではないかな、と思います。

これもXでチラッと書きましたが、普通のロック系音楽ライターだったら「どんなミュージシャンか分からないが」と書くか、あるいはライナーノーツで触れずにスルーしてしまうような情報が出回っていないミュージシャンも、あらゆる手を尽くしてご本人にコンタクトを取ってきちんと拙稿の中で紹介したりとか。
本編で”Some Kinda Shuffle”と”Nora’s Bounce”が使われたドン・ネルソンはそういう感じで情報を集めました。「君はモリー・リングウォルドを知ってるかね? 私は彼の親父さんとバンドをやっていたんだよ」と仰っていたのが印象的でした。先日ちょっと調べてみたら、ネルソン氏は2013年に亡くなっておりました。86歳だったそうです。

あとThe Willowzとコンタクトが取れたのも思い出深いですね。
「The Willowzってどんなバンドなんだろう?」と当時インターネットで検索していたら、彼らが所属しているプロダクションのサイトがヒットしたんだったかな。
で、そこに取材を申し込んだら女性マネージャーの方が「日本からのメールは初めて!何でも聞いて!」と言ってくれて、バンドの情報をライナーノーツでご紹介できたのでした。

もうひとつ嬉しかったのは、当時好きで聴いていたジョン・ブライオンの作品に音楽解説を書けたことでした。

本職は音楽プロデューサー/シンガーソングライターであるブライオンは、当時映画音楽の分野ではポール・トーマス・アンダーソン監督のご贔屓作曲家という感じでした。
『ハードエイト』(96)はサントラ未発売でしたが、『マグノリア』(99)のスコア盤サントラと『パンチドランク・ラブ』(02)のサントラをよく聴いていました。
あと自主製作盤でリリースしたソロアルバム「Meaningless」が名盤だという話を聞いて、わざわざCD Babyという海外の通販サイトでアルバムを買ったこともありました。
こういったブライオン作品への投資や入手に苦労した経験が『エターナル・サンシャイン』の仕事で報われたわけで、喜びもひとしおといった感じでした。

『パンチドランク・ラブ』の劇伴もそうでしたが、ブライオンの作曲する劇伴は柔らかい雰囲気があるのだけれども、全体的にどこかねじくれた感じがあって、ラブストーリーの音楽でも決して甘々な感じではないところが面白い。
特に『エターナル・サンシャイン』の場合は”イタい”ラブストーリーなので、ブライオンの捻った劇伴が抜群の相性を見せている。

Jon Brion / Meaningless – amazon music

前述のソロアルバムの「Meaningless」にしても、当初はメジャーレーベルからの発売を想定して作っていたのに、レーベル側から「シングル向けの曲(=一般ウケする曲)がない」と言われたため、自主製作盤としてリリースすることになったという経緯がありました。

実際「Meaningless」を聴いてみると、全曲ビートルズ系のポップな楽曲揃いではあるのだけれども、やっぱりどこか(編曲とかコード進行とか)ヒネリを効かせた作りになっていて、「王道ポップス集だけど玄人向け」という不思議なアルバムでした。「だがそれがいい!」のですけども。
「Meaningless」は一時期サブスクでも取り扱いがなくて、アルバムを聴く方法が限られていたのですが、最近はデジタル版で聴けるようになったみたいですね。

で、そんなブライオンの歌曲は『エターナル・サンシャイン』のサントラにも1曲入っています。
“Strings That Tie to You”という曲で、メインテーマ(サブテーマかもしれない)に歌詞をつけて歌ったものです。これがまた名曲なんですよ…。
甘く切ないメロディにブライオンのちょっと鼻にかかった感じの歌声が抜群に合う。
なぜこの曲を本編で使わなかったのか…と思ったものの、本編ではベックの”Everybody’s Gotta Learn Sometimes”(コーギスのカヴァー)が素晴らしかったですからね…。ちなみにブライオンはこの曲のプロデュースも手掛けております。

サントラ盤は国内盤も輸入盤もすでに廃盤なので、音源に関してはデジタル版で聴いて頂ければと思います。
当方が書いたライナーノーツは、まあどこかで中古盤を見かけたら手に取ってみてくださいということで。

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