【聴いたら最期】『ヒッチャー』のシンセスコアは時代の先を行くサウンドだったと思う

『ヒッチャー』(86)ニューマスター版が劇場公開中ということで、サントラ(音楽)のお話でもと思いブログを書きました。

…というのも、1月のBANGER!!!コラムで『ヒッチャー』と『キング・オブ・シーヴズ』(18)のどちらを書こうか悩んだのですが、諸般の事情で後者を選んだため、コラムのために温めていた『ヒッチャー』のネタが使えなくなってしまいました。
そのままお蔵入りさせるのも勿体ないので、当方のブログで再利用させて頂いた次第です。

『ヒッチャー』の音楽を担当したのはマーク・アイシャム。
ワタクシの好きな作曲家さんのひとりです。
『蜘蛛女』(93)と『ハートブルー』(91)は特に好きなサントラですねー。

アイシャムはかつてグループ87やルビサ・パトロールなどのアヴァンギャルドなバンドで活動していた時期があって、ジャズ・ミュージシャンとして知られる一方で、エレクトリック・ミュージックにも強い関心を持っているアーティストでもあります。
ブライアン・イーノに強い影響を受けたことをインタビューなどでも公言しており、1983年にはアンビエント/ニューエイジ系のレーベル”ウィンダム・ヒル”からソロアルバム「Vapor Drawings」をリリースしておりまして、『ヒッチャー』はその3年後に作曲を手掛けた映画音楽作品でした。

だから『ヒッチャー』のスコアもオーケストラではなく、全編シンセによるエレクトリック・ミュージックで、シンセ以外の楽器はパーカッションとベース(ルビサ・パトロールのビル・ダグラスがゲストミュージシャンとして参加)、アイシャム自身が演奏するフリューゲルホルンくらい。前述のブライアン・イーノからの影響を感じさせるミニマルなスコアです。
サントラ盤ブックレットに記載のライナーノーツによると、使用機材はオーバーハイムとプロフェット5のようですね。

映画のメインテーマはアルバム1曲目の”Headlights – Main Title”で、アイシャムのフリューゲルホルンが、もわっとした電子音の中でテーマ曲の旋律を奏でています。

『ヒッチャー』はジャンル的にはホラー/スリラー映画ということになるわけですが、サウンド面で言えば、いかにもホラー映画的な”音でビビらす”ショック演出は皆無に等しい。
無機質な電子音とシーケンサーの反復音で、ジム(C・トーマス・ハウエル)の虚無感や、ジョン・ライダー(ルトガー・ハウアー)につきまとわれる理不尽な恐ろしさを表現しています。
このクールネスに貫かれた電子音楽が『ヒッチャー』にある種の格調の高さというか、アートな感覚をもたらし、「究極の恐怖とは?」という哲学的な雰囲気すら感じさせるのが素晴らしい
現在クリフ・マルティネスやトレント・レズナー&アッティカス・ロスが定番化させた映画音楽のスタイルを、アイシャムは80年代半ばの時点で既にモノにしていたとも言えるわけです。

だから映画公開から35年経ったいま聴いても、アイシャムの音楽は全く古さを感じさせない。もちろん使用機材などは古くなっているけれども、使い方が革新的なので音楽表現は新鮮さを失っていないんですね。

そして『ヒッチャー』で披露したアイシャムの音楽テクニックは、のちの自身の作品にもしっかり反映されているのが興味深い。

例えばアクションシーンにおける荒ぶるパーカッションの連打(アルバム9曲目の”Cars and Helicopters”や12曲目の”Endgame”)は、『ミスト』(07)のスーパーマーケットで凄絶な死闘が展開するシーンの音楽にも通じるものがあるし、キレのある電子音の使い方はリメイク版『メカニック』シリーズでも聴くことが出来る。『ブレイド』(98)や『クラッシュ』(04)も電子音の割合が多めのスコアでした。

エレクトリック・マイルスならぬエレクトリック・アイシャムの原点を知る意味でも、いまこのタイミングで是非『ヒッチャー』の音楽をじっくり聴いて頂きたいなと思います。“Cars and Helicopters”のスコアがとにかくスタイリッシュでカッコいいので必聴です

サントラ盤は1991年にSilva Screen Recordsから発売になったものの現在は廃盤。
『ヒッチャー』のサントラを聴くことはもう出来ないのか…と思ったら、なんと2016年にデジタルダウンロード版がひっそりとリリースされていました。公開30周年記念リリースということなのかな。

The Hitcher (Original Soundtrack Recording) – amazon MP3

『ヒッチャー』ニューマスター版の公開を機に、デジタルダウンロード版のサントラを買ってしまうのもアリかと思います。聴いたら最後、クールな電子音の反復サウンドの虜になってしまうこと間違いなし。

ちなみに監督のロバート・ハーモンは『ヒッチャー』以降も『ボディ・ターゲット』(93)、『ゴッチ・ザ・マフィア 武闘派暴力組織』(96)、『ハイウェイマン』(03)でもアイシャムにスコア作曲を依頼しています。彼もまたアイシャムの音楽に魅せられた監督の一人ということなのでしょうね。

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