『アルゴ』のサウンドトラックを補完してみる

Argo

仕事場から遠くてちょっと不便なMOVIX利府まで出掛けて、
ベン・アフレック監督・主演作『アルゴ』(12)を観てきました。

結論から申しますと、実に見応えのある映画でした。
利府まで遠出して観に行った甲斐があったというものです。

「架空のSF映画『アルゴ』をデッチ上げて、イランの過激派に命を狙われているアメリカ大使館員6人を『アルゴ』の撮影クルーに偽装させて出国させた実在のCIAエージェントの物語」という、ある意味「既に結末が分かっている」ストーリーなわけですが、それをここまでスリリングかつ面白く作れるというのは大したもんです。
終盤のバザールや空港のシークエンスなどは観ていてハラハラさせられるし、それ以外にも結末に至るまでの”過程”を緻密かつ丁寧に描いていて、最後まで観客の興味を引きつけるストーリーテリングがなされています。

たぶんアフレック的には政治的メッセージとか愛国主義的な思想はそれほど重要じゃなくて、「ニセのB級SF映画作り」と「70年代の空気感の完全再現」という部分に本人のシネフィル魂が刺激されたんだろうなーと思います。良くも悪くもいい加減な感じのハリウッド業界を楽しそうに描いているのも好印象。ジョン・グッドマンとアラン・アーキンの貫禄たっぷりな演技がまたいいんだな。合言葉のように「アルゴ、クソ食らえ!」とお互い言い合うところなんか最高ですね。

映画本編については、既にいろんな人がブログとかでレビューを書いていると思うので、ここでは音楽について少々。というか、サントラ補完企画的なコーナーで扱う事にしたいと思います。

オリジナル・スコアの作曲は売れっ子のアレクサンドル・デスプラ。アフレックの監督作品はこれまでハリー・グレックソン=ウィリアムズが音楽を担当していましたが、どうも今回は製作のジョージ・クルーニーの意向が働いた模様。クルーニーは自身のプロダクションで製作した『シリアナ』(05)、監督を手掛けた『スーパーチューズデー 正義を売った日』(11)でデスプラを起用しているので、デスプラがお気に入りらしい。

今回のデスプラの音楽は『シリアナ』の流れを組む中東音楽ミーツ西洋音楽(オーケストラ)の構成。ナーイ、ケマンチェ、ウードなどの中東由来の楽器が効果的に使われていて、静かな音楽ではありますが結構耳に残ります。

ブウゥーーンと低音域の持続音を強調してみたり、エキゾティックなヴォーカル(スキャット的な感じ)を使って独特なリズム感を出してみたり、キャッチーな要素は弱いものの、なかなか面白い事をやってます。

しかしその地味さが災いしてか、賞レースに絡みそうな作品なのにサントラが配信のみのリリースという事態に。仕方がないからiTunesで買ったけど、ちゃんとCDプレスで出してほしかった…。

ちなみに、映画本編で使われた既製曲は以下の通り。
恐らくこれで全部…かな?
使用料が高そうな曲も結構使ってますね。

■Upside Down (from In The Valley Of Elah) / Mark Isham
■Charlie’s Tune / Bobby Short (Revlonの香水”Charlie”のCMソング)
■March To The Dead City (from Battle For The Planet of The Apes) / Leonard Rosenman
■Hip-Hug-Her / Booker T. & The MG’s
■Little T&A / The Rolling Stones
■Sultans of Swing / Dire Straits
■Dance The Night Away / Van Halen
■Concrete Jungle / The Specials
■Adhan Call To Prayer / SHAAM
■Abwoon Call To Prayer / Jahanara Laura Mangus
■When The Levee Breaks / Led Zeppelin
■Stalking Stars / Andrew Lockington
■Al Adhan / Youssef El Mejjad
■Do You Miss London (from Spy Game) / Harry Gregson Williams
■Hace Tuto Guagua / Familion

個人的には、映画『告発のとき』(07)からマーク・アイシャムの”Upside Down”が使われたのが実に興味深い。トミー・リー・ジョーンズが星条旗を逆さに掲げる(国家の救難信号の意味)シーンの曲だっただけに、アフレックも単にテンプ・トラックとして使ったというより、何か意図があってこの曲を選んだんじゃないかなーと思います。

あとは『スパイ・ゲーム』(01)からHGWのスコアを1曲使っているのもポイントですね。HGWを『アルゴ』の作曲家に起用出来なかった代わりに、過去のスコアを使ったのかな。次回の監督作ではまたこのコンビが復活してほしいところです。

というわけで、『アルゴ』を隅から隅まで味わい尽くしたいという方は、上記リストを参考に「自分だけのサントラ」を作ってみてはいかがでしょうか。

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