ディザスター、サバイバル、そして頭文字Zのアイツ―― 『ワールド・ウォー Z』

world war Z

いくらお盆休み中でブラピの主演作だからと言って、
真っ昼間からゾンビ映画を観に行く人はそれほどいないだろう…と思ったら、
予想以上にお客さんが入っていてビックリ。
「ゾンビ映画であること」を徹底して隠した宣伝戦略が功を奏したという事でしょうか。
(観終わった後で何と言われるかは分かりませんが…)

 

まぁ最近の映画の予告編は重要なシーンを見せすぎたり、
ネタバレ同然のキーワードやキービジュアルを出し過ぎたりしていたので、
「パニックアクションと思って観に行ったら実はゾンビ映画だった」
…というのも結構インパクトがあるような気もするし、
これはこれでいいのかもしれないなーと思いました。
情報過多のこの時代、あえて情報をシャットアウトする見せ方もアリかなと。

そんなわけでこの『ワールド・ウォーZ』(13)、ゾンビ映画ではあるものの、
かなりいろんな要素が入っているように思います。
感染者が襲いかかってきて街中大パニックになるのはディザスター映画風。
主人公パーティーが手持ちの装備だけで何とか生き延びようとする展開はサバイバル映画風。
治療法を求めて世界中を飛び回り、
道中で様々な人々と一度限りの出会いと別れを経験するのはロードムービー風といった感じ。
カメラが近すぎ&揺らしすぎで見づらいシーンがいくつかあるのが難点ですが、
残虐描写が控えめなので、
「走るゾンビ映画入門編」としてはよく出来た作品ではないでしょうか。

 

基本的にシリアスかつ緊張感溢れる物語だとは思うのですが、
車がクラッシュしようが、ゾンビの血が口に入ろうが、飛行機が墜落しようが、
病原体のウィルスを注射しようが、
血色のいい顔で奮闘するブラッド・ピットのダイ・ハードっぷりとか、
若いウィルス学者が呆気なくアレするところとか、
バリケード内の避難エリアで大合唱していたら、
音に敏感なゾンビの皆さんを呼び込んでしまったイスラエル市民とか、
製作側の意図しないところで妙な笑いを誘う場面があるのがポイント。

ブラッド・ピットが全編出ずっぱりの映画なので、
共演のキャストは「地味だけどよく見かける顔」の役者で揃えてます。
一番メジャーなのは歯無しの元CIAエージェント役デヴィッド・モースでしょうか。
『ザ・ロック』(96)『グリーンマイル』(99)のあの人。
名も無き空挺部隊員役で顔を出すのは『LOST』のジャック・シェパードことマシュー・フォックス。
本当は続編を見越したもっと大きい役だったのに、続編企画が棚上げになって出番が減ったらしい。
在韓米軍奇襲隊司令官役は近頃売れっ子になってきたジェームズ・バッジ・デール。
『ローン・レンジャー』(13)でアーミー・ハマーの兄役を演じていた人。
WHO職員役でes[エス](02)のモーリッツ・ブライブトロイも出てました。
儲け役はイスラエル軍のセガン中尉を演じたダニエラ・ケルテスかな。
「イスラエルのクリステン・スチュワート」みたいな感じで印象に残ります。

 

音楽はここ数年売れに売れているマルコ・ベルトラミ。
「噛みつく」というゾンビの習性を音に反映させるため、
ペッカリーの顎関節を使って歯を鳴らす音を打楽器として使ったそうです。
そしてペッカリーの頭蓋骨を勧めたのは、あのトミー・リー・ジョーンズらしい。
ベルトラミがジョーンズの監督作『The Homesman』(13)の音楽を担当していたので、
その時に「実は今ゾンビ映画の音楽をやっててね…」みたいな話になったのでしょう。
『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』(05)、
『エレクトリック・ミスト 霧の捜査線』(09)と、今やベルトラミとジョーンズはすっかり親友のようですね。
他にも緊急警報放送のサイレン音を使ったり、
なかなか実験的なスコアを作曲しています。
ベルトラミのトレードマークとなりつつある、畳み掛けるようなストリングスも健在。

「チューブラー・ベルズ風の曲」とブラピが惚れ込んで使ったらしいMUSEの曲は、
ストリングスの質感がベルトラミと違うので、
もしかしたらちょっと浮いていたかも(特にエンドタイトル曲)。
とはいえ、本編の雰囲気と全く合っていない歌モノを流すよりは、
遙かにセンスのよい選曲ではありますが。

 

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