パイプオルガンの響きに「神」を見た… クリフ・マルチネス作曲『オンリー・ゴッド』の音楽のこと

only god forgives

『Only God Forgives』(13)という原題が、
どうしてForgivesを省いて『オンリー・ゴッド』になってしまったのか。
『プレステージ』(06)の没タイトル『イリュージョンVS』に匹敵する、
英文法的にちょっとおかしい「ブツ切り系」の邦題に久々に遭遇した気がする。
まぁ強引に解釈するなら、
原題は「神のみが許したもう」的なニュアンスで”赦し”を強調したもの。
一方、邦題は「唯一神」的な意味合いを強くしたのかなと。
で、その「神」に相当するのが鉄面皮のチャンさんという事なのでしょう。

それにしても、いろんな意味ですごい映画だった…。
チャンさんが俺様ルールで悪党(罪人)を「処刑」する度に、
「残虐行為手当」とか、
「なさけ むよう」とか、
「FATALITY」と字幕が出るんじゃないかという気分になりました。
(分かる人には分かる表現かと)

ライアン・ゴズリング主演×ニコラス・ウィンディング・レフン監督
『ドライヴ』のコンビが映画の既成概念を破壊する――

そんなキャッチコピーの方が合ってるかもしれません。
『ドライヴ』のノリを期待すると「何じゃこりゃ」と面食らう事必至ですので。

ちなみに巷で話題騒然(?)の「チャンさんリサイタル」のシーンですが、
自分には意外とあっさり受け入れる事で出来ました。
なんでかなーと思ったのですが、
恐らく中学生時代に『ブルーベルベット』(86)を観た時、
おかまのベン(ディーン・ストックウェル)がロイ・オービソンを口パクで熱唱するシーンを体験済みだったせいと思われます。
チャンさんのカラオケ大熱唱も、
「ああ、これはデヴィッド・リンチ的世界観なんだな」と脳内で自動的に理解してしまったようです。
「ワケの分からなさが何だか恐い」というあの感覚です。

それにしても、現在人気絶頂のゴズりんを起用して、
こんな奇妙でバイオレントで観る人を選ぶシュールな映画を撮れてしまうのだから、
『ドライヴ』効果は凄かったんだなーと改めて実感しました。
あの映画があそこまで批評的・興行的に成功していなかったら、
『オンリー・ゴッド』は(いろんな意味で)ここまで話題にならなかったのではないかと思います。

 

本編の分析やら感想は他の人のレビューにお任せするとして、
クリフ・マルチネスの音楽について思ったことをちょっとだけ。 

今回のスコアは「いつものマルチネス」と、
「今までにないマルチネス」のサウンドが同居した感じです。
地鳴りのような低音域の持続音とか、
耳障りで不吉極まりない不協和音とか、
随所に登場するアンビエント・テクノ的な音響処理は『ドライヴ』風。
女性キャラのために書き下ろしたスコアも、
クリフ・マルチネス印が刻印されたいつものアンビエント・スコア。
『ソラリス』(02)で印象的だったガムランも随所で使っている模様。
プラハ市交響楽団のオーケストラ演奏が前面に出ているのが新鮮な感じ。

そして『オンリー・ゴッド』のスコアで最も印象的なのが、
荘厳なパイプオルガンの音色。
ここぞという時(チャンさんの処刑タイムとか)、
大袈裟の一歩手前ぐらいの音量でガーン!と和音を鳴らしてます。
やはり「神と対峙する男」の物語でありますから、
人知を越えた存在の象徴として、
そしてその人物が実行する行為の重さ・不吉さを象徴するものとして、
パイプオルガンの神秘的な音が必要だったのではないかと思います。
劇中で強烈なインパクトを残す和音を響かせていました。

一般ウケするスコアとしては、
終盤のゴズりん対チャンさんのファイトシーンで流れるWanna Fightが出色かと。
80年代風のエレクトロビートに乗せて、
前述の荘厳なパイプオルガンの音が被さる展開が激アツ。
チルアウト系のサウンドを身上とするマルティネスのスコアで、
アツくなれる日が来るとは思わなかった。
映画の評価は分かれるでしょうが、サントラ盤はなかなかの力作です。
個人的にはオススメ。

余談ですが、レフン監督がサントラに寄稿したライナーノーツもいい文章ですね。

「僕は歌えないし、楽器も弾けないし、
譜面も読めなければ作曲する事も出来ないし、
ダンスも踊れない挫折したミュージシャンみたいなものだけど、
音楽を聴くことに関してはエキスパートだと思っている」

…というような事が書いてあって、
レフン監督の音楽に対する真摯な気持ちが伝わって参りました。

次回作も是非マルティネスと組んで頂きたいところです。

 

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