マイケル・ダナ名作選/『トランセンデンス』(2014)

transcendence

弊社リリース作品『ケルティック・ロマンス』の売上報告などで、先日マイケル・ダナさんと少しやり取りする機会がありました。

ちょうど『トランセンデンス』(14)公開直前だったので、「『JM』(95)以来の本格的なSFスコアが聴けるので楽しみにしてるんですよー」…と言ったところ、
「君にも、日本の人たちにも映画を気に入ってもらえるといいな。アメリカではイマイチだったんだけどね…」…と、ちょっと残念そうにしていたのが何だか気になってまして。

で、公開第1週に『トランセンデンス』を観てきたのですが、まぁ予告編からイメージしたよりも地味な(淡々とした)展開の映画だったな、とは思いました。
予告編だと「超現実的な能力を得たジョニー・デップが、全知全能のパワーで人類に反旗を翻す!」…みたいな内容という印象を受けたのですが、いざ本編を見てみたら、確かにジョニデがネットの世界から全知全能の力を駆使していろいろやってるんだけども、映画本編ではニューメキシコの荒れ地での騒動が描かれているだけという、スケールが大きいのか小さいのかよく分からない話ではありました。
『インセプション』(10)のようなノリを期待すると肩すかしを食らうこと必至でしょう。

が、しかし。

この映画はSFスリラー大作ではなく、「夫を愛するあまり、科学者としてのモラルを逸脱してしまった妻と、肉体を失ってサイバー空間の意識体になってもなお、妻の夢を叶えようとする夫のラブストーリー」だったのだと解釈してみたら、自分でも意外なほど納得出来てしまいました。

製作総指揮がクリストファー・ノーランで、撮影監督がノーラン組のウォーリー・フィスターなら、音楽もハンス・ジマーかリモート・コントロール・プロダクションズ組アーティストの壮大なスコアで行くという選択肢もあったでしょう。
それでも音楽にマイケル・ダナが抜擢されたという事実は、この映画が最小単位での人間ドラマ(今回の場合は「夫と妻」)を描いた内容であることを暗に示しているのではないかと思うのです。

 

マイケルさんにとって久々のSFスコアとはいっても、ミニマリスティックなピアノの旋律とか、異国情緒を漂わせたメタル・パーカッションの響きなどは、アトム・エゴヤン監督作の音楽を手掛けた時とほぼ同じ質感を持ってます。
エゴヤン映画の中で、表情をなくしたような人たちが、心の奥底に苦しみや悲しみを押し込んだまま、漫然と日常を生きている時のあの音楽。
そのエッセンスがこの『トランセンデンス』にも感じられるなー、と。
(この映画のジョニー・デップも無表情な演技をしてますからね)
この切なさがいいのです。

SF的な音作りとしては、ぶぅーんと唸っているような低音域の持続音とか、時折ぶぉぉん、ぶぉぉんと挿入されるノイズのような電子音など、アンビエント・スコアとでも表現できそうな冷たい音の質感が特徴的です。
サントラ19曲目の”Why Did You Lose Faith?”がアルバムのハイライトっぽい感じ。

そして特筆すべきはクワイア/チャントの使用でしょうか。一種の教会音楽的な要素を持たせたそれは、ウィルが神の領域に近づいたことを暗示すると同時に、彼の行為が悪意に満ちたものではなく、純粋な動機(=善意)に基づくものであることをほのめかしているのではないか…と、マイケル・ダナの音楽を研究して20年の自分は考えてしまうのです。
アダルト・クワイアとボーイズ・クワイアをわざわざ使い分けているので、きっと何かそこに意味があると思うんですよね…。

…とまぁそんなわけで、映画本編の評価はさておき、マイケル・ダナの音楽はいつものようにクオリティ高いです。
しかしサントラはCDプレス盤として発売されず、ダウンロード版かamazon.comのCD-R盤のみのリリースという悲しい現実。
「ダナマニア」を自認するワタクシはあえてCD-R盤を買いましたが、amazon.comの作り方が雑なのか、ブックレットに同じページが2枚(4ページ相当)余分に織り込まれてました。明らかにミスプリ…というか綴じ込み作業ミスですね…。

自分だったら表1(ジャケット)の写真を映画の日本版ポスターと同じにして、ライナーノーツ用にマイケルさんに独占インタビューを敢行して、ちゃんとCDプレス盤にしてリリースするんだけどなぁ。それだけやる価値のある音楽なんだけどなぁ…と、切ない妄想を抱きつつ、『トランセンデンス』のサントラを聴きながら今回のブログを書いたのでした。

 

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