母と子のドラマだからこそ見てほしい…!映画『ルーム』に出ているオジサンたちの名演技

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さて先週末から日本公開になった映画『ルーム』(15)。
「ブリー・ラーソンの演技すげぇ!」とか、
「ジェイコブ・トレンブレイ君の演技もすげぇ!」とか、
「トレンブレイ君かわいい」というような感想は既に出尽くしていると思うので、
ここではちょっと違った切り口から映画を観ていきたいと思います。

この『ルーム』という映画、
基本的に「母と子の物語」という構成になっておりまして、

「ママ(=ジョイ)とジャック」
「ばあば(=ナンシー)とママ」
「ばあばとジャック」

…の3人の関係が重要なんですね。
なので”大人の男性”の影が非常に薄い。
いや、影が薄いというより「出番が少ない」と言うべきか。
しかし彼らも少ない出番の中で忘れがたい名演を披露しているので、
このあたりを是非観ていただきたいと思うのであります。

 

■その1:オールド・ニック役、ショーン・ブリジャースの気色悪い怪演

room_bridgers

まずは何と言ってもこの人。
諸悪の根源というか全ての元凶というか、
ヒロインを誘拐・監禁した変態男オールド・ニックを演じたショーン・ブリジャース。
あまり顔と名前に馴染みのない俳優だけに、
どんな行動に出るか読みにくいのがまた恐い不気味なキャラでした。

「オールド・ニックとかいう割には大して老けてないよねー」という見た目ですが、
“Old Nick”というのは英語で「悪魔」の意味でもあるらしい(辞書にも載ってる)。
恐らく監禁犯の本名が分からないので、
ママ(=ジョイ)が”悪魔のような男”的な感じでそう呼んでいるのでしょう。

映画の前半~中盤まで、
むっさいヒゲ面で粘液質のイヤ~~な演技を見せてくれるのですが、
観客の共感を一切呼ばないどころか、
恐らく観客全員から嫌われるであろうこの役を引き受けた勇気(?)を買ってあげたい。

俳優としてこういう役を演じるというのは非常にリスキーで、
例えば『ディアボロス/悪魔の扉』(97)でヘンタイ男の役を演じたクリス・バウアーは、
『8mm』(99)でもヘンタイ男”マシーン”の役を演じていたし、
(現在は『トゥルー・ブラッド』のアンディ役で有名)
『羊たちの沈黙』(90)でバッファロー・ビルを演じたテッド・レヴィンは、
あの強烈なキャラがしばらく抜けきれず、
映画でもしばらく似たような感じの悪役のオファーばかり来て大変だったらしい。
『ヒート』(95)でも最初は悪党のウェイングロー役で出演オファーが来たのだけども、
「演じる役柄が狭くなるから」という理由でボスコ刑事役を選んだのだとか。
その甲斐あってそれ以降は『名探偵モンク』のリーランド役など善人役で見かけるようになりましたね。

The Woman_ Bridgers

で、本作のブリジャースの場合、
オールド・ニック役に選ばれた最大の決め手は、
『ザ・ウーマン 飼育された女』(10)で演じたゲス&クズ男役だったのではないかと思うのです。
監禁ヘンタイ男の役を演じたのはこれで2度目。
しかも安定のゲス男演技。
他人事ながら次回はいい役を演じさせてあげたいな…と思った次第です。
当たり前の話ですが、
映画でゲスいキャラを演じたからといって、
演じた俳優までゲスい人というわけではありませんので。

■その2:ウィリアム・H・メイシーが体現する”実の父親”ゆえの苦悩と葛藤

みんな大好きウィリアム・H・メイシーおじさん。
今回はママ(=ジョイ)の実の父親ロバートを演じています。

監禁犯の魔の手から逃れて病院で両親と再会したジョイ。
「パパとママはずっと自分の帰りを待っていたはず…」と思ったら、
この7年の間に両親は離婚していて、
父親は自分が産んだ子供(=ジャック)を受け入れることが出来ないという、
残酷な現実をジョイに知らしめる重要なキャラクターです。
(出番は少ないけど)

メイシーさんが演技派俳優なのはもはや説明不要ですが、
この映画では家族揃っての食事のシーンで、
「どうしてもジャックの顔を直視出来ない」演技が真に迫っていて見事です。
「何て度量の小さい父親なんだ!」と感情的になって一瞬思ってしまう一方で、
「そういう捉え方をする人もいるのか…」と別な物事の見方があることを思い知らされるような、
リアルな演技を見せてくれています。
決して派手な演技じゃないのだけれども、
これが自然でものすごく巧い。

一方、義理の父親(ばあばの再婚相手)のレオはジョイと血の繋がりがないので、
ジャックのことも、ジョイのことも、
深刻になりすぎずありのままを受け入れることが出来る。
この立場の異なる「2人の父親」の描き方もなかなか巧いなーと思いましたね。

…というわけで、
フツーとはちょっと異なる視点から観た『ルーム』の見どころ紹介でした。
サントラ盤も引き続きよろしくお願いします。
「ハリウッド映画だったらこういう音楽にならないだろうな」という楽曲構成が秀逸です。

 

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