WALL・E / ウォーリー

ピクサー最新作『WALL・E / ウォーリー』が遂に劇場公開になりました。

ワタクシがサントラ盤ライナーノーツの仕事でマスコミ試写に行ったのが9月18日。
あまりにもいい映画だったので、もう一回観たいな〜と思ったら、仙台では字幕版の
劇場公開がMOVIX仙台のみで、しかも上映は1日2回だけ(12/7現在)。ううむ、
日本語吹替えの上映がデフォルトなのか。字幕で観たいんだけどな…。

ま、それはさておき。映画について既にあちこちのブログやwebサイトで語られて
いるとは思いますが、ゴミ処理ロボット・ウォーリーがとにかく健気で泣けるんです。
友達のゴキブリくん一匹以外誰もいなくなった地球で黙々とゴミを圧縮・整理する
作業に勤しみ、ゴミの中から自分だけの宝物を探す姿は、ウォーリーの愛らしい
仕草のおかげで、寂しそうだけど実は結構楽しんでいるんじゃないかと思えてしまう
のです。何ともいじらしい。

仕事を終えて帰宅したら、キャタピラを脱いで家に上がる仕草なんざ、お行儀の良さに
思わず褒めてあげたくなります。

で、その旧型ロボットのウォーリーは地球に降りてきた探査用新型ロボットのイヴに
一目惚れするわけですが、プレス資料によるとイヴは「真っ白に輝くピカピカのボディ
を持った”天使”」というような事が書かれてあります。しかし彼女はヒロインと言うより、
どっちかというと「姐さん」的なキャラで、おもむろにキャノン砲をブッ放したり、ウォー
リーの部屋でドッカンドッカンと重たそうな音を立ててダンスを踊ったり、ウォーリーの
宝物を壊してしらばっくれてみたり、結構ガサツな一面があるんですな。

言うなれば「ちょっと気の強そうな年上のお姉さんと、彼女に一目惚れして、気を惹く
ためにあの手この手でアプローチを試みる純朴な少年のラブストーリー」といった感じで、
ウォーリーの一生懸命な姿と「無償の愛」に胸を打たれるんですよ、これが。柄にもなく
「純愛っていいなぁ」と思ったり。

ちなみに29世紀のアメリカはBNLという巨大企業が国を動かしているという設定なの
ですが、実際にありそうな話ではないかと思います。つい最近も、アメリカの自動車
業界ビッグ3が公聴会で政府に向かって「俺たちに公的資金を導入しないと国の
経済がとんでもない事になるぜ」と脅しをかけている姿がTVで放送されていましたが、
アレを観ていると「巨大企業のほうが政府より力があるんだろうな」と思わずにはいら
れません。結局、公的資金を導入する方向に進んでるみたいですし…。

話が逸れましたが、『WALL・E』の音楽はアンドリュー・スタントン監督と『ファインディ
ング・ニモ』(03)で仕事をしたトーマス・ニューマンが担当しています。基本的に全編
オーケストラを使ったスコアなのですが、普通SF映画で使わないような民族楽器
(ジュンジュンとかエオリアン・ハープとかヴァリハとか…)を大量に導入しているあたりが
実にニューマンらしいのではないかと思います。聴いていて気持ちいい曲、トボけて
いて微笑ましい曲、シンフォニックな曲などバリエーションも豊富で、もちろんウォーリー
お気に入り『ハロー!ドーリー』(69)の挿入歌も収録されています。

日本盤はテーマ曲「Down to Earth」の歌詞対訳がついているので、詞の内容が
気になった方はぜひぜひエイベックスより発売中の日本盤サウンドトラックを
お買い求め下さい。

『ウォーリー』オリジナル・サウンドトラック

音楽:トーマス・ニューマン
品番:AVCW12706
定価:2,600円

   

スピード・レーサー

映画『スピード・レーサー』のDVDがリリースになりました。

ワタクシがこの映画のサントラ盤ライナーノーツの仕事を担当したのは、
5月中旬頃でした。サロンパスルーブル丸の内の完成披露試写で本編を
見たのですが、極彩色のギラギラしたヴィジュアルに目がヤラレました。
DVDを見る時は、お部屋を明るくして鑑賞することをお勧めします。

資料によると、ウォシャウスキー兄弟は「ファミリー映画を作りたかった」と
言っているようなのですが、ううむ、どうなんだろう。この作品は懐かしの
アニメ『マッハGoGoGo』をハリウッドで実写化したもの。となればターゲットは
「子供の頃にアニメを見ていた大人」なのではないかと思うのですが、
それならシナリオをもっと大人向けにした方がよかったのでは?とワタクシは
思いました。

しかし、来年公開予定の『ドラゴンボール』実写版の出来がかなりヤバそうな
感じなので、それに比べたらこの映画は『マッハGoGoGo』への愛やリスペクトに
溢れていて、真摯な映画になっているんじゃないかと思います。

…とまぁ、内容的には難点もあるのですが、音楽は文句のつけようがありません。
『Mr.インクレディブル』(04)や『M:I:3』(06)のマイケル・ジアッキノが作曲を担当して
いるのですが、全編ド派手なオーケストラ・サウンドをカマしてくれておりまして、
これが実に気持ちよくて最高なのです。

ジアッキノ自身、子供の頃に原作アニメに熱中していたクチらしく、越部信義氏の
作曲したテーマ曲のメロディーをスコアの中に引用しているので、聴いていて
何とも懐かしい気分にさせてくれます(エレキギターの音も何となくレトロっぽいし)。
テクノ/ハードロック系のスカしたサントラにしなかったあたりに、原作のイメージを
大切にした製作スタッフの「愛」を感じます。

CDのハイライトは、何と言ってもエンドクレジットで流れる[20]の”Speed Racer”
でしょう。オリジナル主題歌のインスト・カヴァー曲なのですが、日本の歌謡曲の
雰囲気を忠実に再現したアレンジと、サンプリングされた「マッハGo!」の掛け声に
感涙必至。リップサービスで「日本のアニメは最高だぜ!」とおっしゃって下さる
ハリウッドの方がよくいますが、ジアッキノの『スピード・レーサー』愛はホンモノです。
多分。

国内盤CDはランブリング・レコーズより発売中。

『スピード・レーサー』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ジアッキノ
品番:GNCE7024
定価:2,625円

   

X-ファイル:真実を求めて

本日は今週7日から公開になる『X-ファイル:真実を求めて』についてのお話。

ワタクシこの映画を20世紀FOXさんのマスコミ試写室で拝見させて頂いたのですが、
当日はあのゲリラ豪雨が猛威をふるった日で、試写室に着いた時には全身ズブ濡れに
なっておりました。ま、今となってはいい思い出かも(話のネタとして)。

厳寒のウェストバージニア州でFBIの女性捜査官が失踪。サイキックな透視能力を持つ
ジョー神父がFBIに捜査協力を申し出るものの、当局はその超能力の真偽が判断出来ない。
そこで彼らはFBIを引退したスカリーに接近し、どこかで隠遁生活を送っている超常現象の
プロ、フォックス・モルダーを探し出し、捜査協力を要請する…というのが物語の導入部です。

モルダーはTVシリーズ最終話で第一級殺人(実は捏造)の罪で死刑を宣告され、
スカリーやドゲットの協力で辛くも刑務所から脱走したわけですが、はてさて一体
どうやって現場復帰するのかと思ったら、「捜査に協力すれば過去の事は水に流す」の
ひと言で片付いてしまいました。あっさりしてるなぁ〜(笑)。
あんまり書くとネタバレになるので、これ以降の展開については書かないでおきますね。

1998年の劇場版第1作は宇宙人を題材にした大がかりなSFドラマでしたが、
今回はオカルト/サイコスリラーに仕上がってます。ぱっと見た感じ地味〜な感じは
否めませんが、個人的にはシーズン6への壮大な予告編のようだった前作より、
話がきちっと完結している本作の方が気に入ってます。
思ったよりモルダーもスカリーも老け込んでなかったのもポイント高いかも。

さて前回はスコア盤とコンピ盤の2種類のCDが発売されましたが、今回は1種類のみ。
『X-ファイル』の全エピソードの音楽を手掛けたマーク・スノウによる入魂のオーケストラ・
スコア20曲と、UNKLEがリミックスした「X-ファイルのテーマ」とボーカル曲の”Broken”、
劇中にFBI捜査官役で顔を出しているイグジビットの書き下ろし曲の合計23曲を収録。

TVだと予算の都合でシンセサイザーで補わなくてはいけない部分も、映画版だと
贅沢にオーケストラが使えるので、スノウのスコアも音に重みがあって迫力があります。
また、エンドクレジットで流れるUNKLEのクールでビートの効いた曲もカッコイイです。
特に「X-ファイルのテーマ」のリミックスが耽美的な感じでオススメ。

輸入盤とジャケットの異なる国内盤は、ユニバーサルミュージックより発売中。

『X-ファイル:真実を求めて』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マーク・スノウ
品番:UCCL1130
定価:2,500円

   

ブーリン家の姉妹

今回は25日から公開になった映画『ブーリン家の姉妹』(08)についてのお話を少々。

エリザベス1世の生みの親として知られるアン・ブーリンに実は妹がいて、
時のイングランド国王ヘンリー8世の寵愛を巡って、姉妹の間で壮絶な愛憎劇が
繰り広げられるというストーリー。

ヘンリー8世の寵愛というより、王妃の座を狙うアン・ブーリンをナタリー・ポートマンが
演じ、「清純で心優しい」妹のメアリーをスカーレット・ヨハンソンが演じている…のですが、
ゴシップ紙などでインタビュー中の態度の悪さとか奔放な私生活を度々スッパ抜かれている
ヨハンソンが清純派のメアリーを演じるというのは「ちょっとイメージが違うなぁ」という気もします。

で、映画の中身はと言いますと、アン・ブーリンの狡猾さとヘンリー8世の女ったらしぶりが
印象に残ります。
アンはヘンリー8世を手玉にとって、妹メアリーを宮廷から追い出し、キャサリン・オブ・
アラゴンとの離婚を迫り、ローマ・カトリック教会からも決別させるなどやりたい放題。
ヘンリー8世はいわゆる「アン・ブーリン萌え」状態なので、完全に彼女の言いなりに
なってしまうんですな。この時期イングランドの歴史が大きく動いたわけですが、
その背後にはこういう事情があったというわけです。そう考えると、伝統ある英国王室の
お家騒動も、高尚なんだか低俗なんだかよく分からなくなってきます。

そういえば昔、ハーマンズ・ハーミッツの”I’M HENRY THE VIII, I AM”という曲がありましたね。
『ゴースト ニューヨークの幻』(90)でパトリック・スウェイジが歌ってたアレです。
何だかフザケた感じの曲だった印象がありますが、ヘンリー8世という人物は割と
歌われている歌詞のまんまのお人だったようです。ってことは、やっぱり通俗的な人だったのか。

さて本作の音楽を担当したのは、『潜水服は蝶の夢を見る』(07)のポール・カンテロン。
全編クラシック出身らしい流麗かつ上品なオーケストラ・スコアで纏めています。
メロディーもしっかりしていて、”Opening Titles”で聴けるメインテーマと、”Anne is Exiled”や
“Anne Charms Henry”などで使われるアン・ブーリンのテーマの2つを中心とした主題曲で
構成されています。CDの収録時間62分とコストパフォーマンス的にもお買い得。
クラシック音楽に興味のある方にオススメしたい一品です。

ちなみにこのカンテロンという方は、若い頃に大変な目に遭いつつも努力してプロの
音楽家になったというエピソードがございます。
一体どういう目に遭ったのかは、私が国内盤CDに寄稿したライナーノーツを読んで
頂ければと思います。

その国内盤CDは、ランブリング・レコーズより発売中。

『ブーリン家の姉妹』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ポール・カンテロン
品番:GNCE7033
定価:2,625円

   

P.S.アイラヴユー

先週18日から映画『P.S.アイラヴユー』(07)が公開になったので、本日はそのお話。

アイルランド元首相のご令嬢、セシリア・アハーンの処女小説の映画化作品で、主演はヒラリー・スワンクとジェラルド・バトラー。監督/脚本は『マディソン郡の橋』(95)の脚色を担当したリチャード・ラグラヴェネーズ。

最愛の夫ジェリー(バトラー)を亡くしたホリー(スワンク)が、亡き夫から届けられる「消印のない手紙」によって生きる力を取り戻していくというストーリー。こういう映画は”いかにも”な美男美女をキャスティングすると観ている側はシラケてしまいますが(『スウィート・ノ○ンバー』とか…)、「絵に描いたような美女&二枚目」とはちょっと違う感じのスワンクとバトラーが演じる事でキャラクターに親しみやすさが出たのではないかな、と思います(ジェリーみたいな奔放な旦那さんは現実にも結構いそうな気がする)。

さてこの映画のサントラ盤は劇中で使用されたヴォーカル曲をコンパイルした「コンピ盤」と、ジョン・パウエルが書き下ろした背景音楽を収録した「スコア盤」の2種類がリリースになっておりますが、今回ご紹介するのは「スコア盤」の方です。

パウエルはアクション映画の音楽で有名ですが、数こそ少ないものの『アイ・アム・サム I am Sam』(01)のようなヒューマンドラマでもいい仕事をしてくれてます。

オーケストラにアコースティック・ギターの柔らかな調べを乗せて、ハートウォーミングで甘く切ないメロディーを全編に渡って聴かせてくれているんですが、これがもう最高。癒されます。就寝前とか、入浴中とか、午後の昼下がりのBGMなんかに最適なのではないかと。リラクゼーション・ミュージックをお探しの方にオススメ。

CDはランブリング・レコーズより発売中。

オリジナル・サウンドトラック・スコア『P.S.アイラヴユー』
音楽:ジョン・パウエル
品番:GNCE7030
定価:2,625円

個人的にはぜひぜひ国内盤をお買い求め頂きたいと思います。