Mr. ブルックス 完璧なる殺人鬼

こういう映画を「面白い!」と言ってしまうのは、このご時世ヒジョーに不謹慎なのかも
しれませんが、まぁでもフィクションですからね。そのあたりは勘弁して下さい。

…というわけで、本日は2月6日DVDリリースの『Mr. ブルックス 完璧なる殺人鬼』(07)のお話。

ワタクシ、ケビン・コスナーが「アメリカの良心」的なキャラを演じていた頃(『ボディガード』
(92)とか『ワイアット・アープ』(94)のあたり)は何だか「俺はアメリカン・ヒーローなんだぜぇ」
という俺様オーラが出ていてあまり好きではなかったのですが、「自称エルヴィスの非嫡
出児」のイカレたカジノ強盗を演じた『スコーピオン』(01)を観て「コスナーもやるじゃん」と、
彼の役者根性を見直した次第です。

コスナーも悪役を演じる面白味のようなものが分かったのか、今回の『Mr. ブルックス』でも
タイトルロールのブルックス氏を余裕たっぷりに演じてくれています。

ブルックス氏は「表向きは良き父・良き夫で成功した実業家。その正体は殺人依存症の
シリアルキラー」という矛盾したキャラクターなわけですが、その別人格「マーシャル」を
演じているのがコスナーではなくウィリアム・ハートというところがミソ。

ある時はブルックス氏の殺人衝動を煽る邪悪な存在として、またある時は窮地に陥った
ブルックス氏の参謀役としてサポートするマーシャルを演技派ハートが演じる事によって、
人物描写に深みが増しているんですな。

ここでコスナーが一人でブルックス氏とマーシャルの両方を演じていたら、この映画は
ラジー賞確定だったハズ(一人二役とか三役とか演じると、だいたいロクな映画になり
ませんので…)。

本編を観ればお気づきになると思いますが、ブルックス氏とマーシャルが並んで座っている
シーンなどでは、同じ方向を振り返ったり、笑い出したりするタイミングが両者の間でピッタリ
合ってます。さすが同一人物の別人格、という感じでしょうか。作り込みの細かさに感心します。

そう、この映画は細部まで徹底的に作り込まれているのですね。ブルックス氏をゆする胡散
臭い青年、一連の連続殺人を捜査する女刑事アトウッド(デミ・ムーア)、彼女の離婚した
亭主と、訴訟担当の女弁護士、アトウッドに恨みを持つ脱獄犯、そしてブルックス氏の一人娘
ジェーン…と、一見何の繋がりもなさそうなエピソードが終盤で一気に収束する脚本が秀逸です。
ちゃんと前半で伏線も張られているし、実に緻密かつフェアな作り。

ま、ラストは賛否両論あるみたいですが、あれはアレでいいのではないかと。「あの一歩手前の
シーンで終わった方がいいのでは?」という意見も分からんでもないんですが、それだとブルッ
クス氏の理知的で狡猾な部分が弱くなってしまいますからね。あの終わり方で正解でしょう。

この映画の音楽はラミン・ジャワディ(Ramin Djawadi)が担当しております。最近だと『アイアン
マン』(08)の音楽で有名ですが、サウンド的にはTVシリーズの『プリズン・ブレイク』の時の
音楽に近い感じです。打ち込みとかサンプリングを多用したサウンドというか。時折ノイジーな
ギターリフなんかを挿入したりして、ポスト・ロック風のかなりカッコイイ音楽に仕上がっております。
オススメ曲は「The Thumbprint Killer」かな。

ブルックス氏のテーマも「善人モード」と「悪人モード」の2つが用意されていて、なかなか芸が
細かい。割とメロディーもしっかりしているので、ジマー系サウンドが好きな方は”買い”の一枚
でしょう。

ラストで流れるザ・ヴェイルズの「Vicious Traditions」もしっかり収録。

サントラ盤はビクターエンタテインメントより発売中。

『Mr. ブルックス 完璧なる殺人鬼』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ラミン・ジャワディ
品番:VICP-64112
定価:2,520円

   

第81回アカデミー賞ノミネート作品(作曲賞について)

先日、今年のアカデミー賞のノミネート作品が発表されました。

まぁ、ワタクシもこういう仕事をしている関係上、ノミネート作品や受賞結果は
いろいろ気になるわけでございまして、特に最優秀作曲賞に関しては毎年
「誰が受賞するのかなぁ」と自分なりに予想を立ててみたりしています。

今年の作曲賞ノミネートは下記の通り。

アレクサンドル・デプラ / 『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
ジェームズ・ニュートン・ハワード / 『ディファイアンス』
ダニー・エルフマン / 『ミルク』
A.R. ラフマーン / 『スラムドッグ$ミリオネア』
トーマス・ニューマン / 『WALL・E / ウォーリー』

ううむ。これは予想が難しい。

デプラは『真珠の耳飾りの少女』(03)、『シリアナ』(05)のゴールデングローブ賞ノミネートを
経て『The Painted Veil』(06)で同賞受賞、『クィーン』(06)でアカデミー賞ノミネート、と最近
勢いづいているので、『ベンジャミン・バトン』で念願のオスカー初受賞という可能性も大。

ラフマーンは「『ムトゥ踊るマハラジャ』(95)の音楽の人」として有名ですが、最近は
クレイグ・アームストロングと共同で『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(07)の音楽を
担当していたりします。アカデミー賞は非西洋圏の音楽を高く評価する傾向があるので、
その線から受賞という流れになるかもしれません。もしくは作曲賞ではなく歌曲賞の方で
受賞する可能性もあり。

JNHとニューマンは共に「無冠の帝王」といった様相を呈しておりますが、二人とも才能の
ある作曲家である事に疑いの余地はありません。ただ、『ディファイアンス』は思ったより
賞レースで話題にならなかった事、『WALL・E』はアニメ作品である事が「ノミネートまでは
アリだけど受賞はねぇ…」と判断される要因になりそうな気もします。

『ミルク』は先日試写で観て参りましたが、素晴らしい映画でした。エルフマンの音楽も
すごく流麗なスコアで、終盤の音楽は切なくて泣けました。音楽のクオリティは申し分ありません。
ただ、『ミルク』は実在のゲイの活動家を描いた作品なので、保守派の評価がどうなるかが
運命の分かれ道といった感じです(音楽の評価にはそれほど影響ないかもしれませんが)。

個人的には『WALL・E』と『ミルク』のサントラ盤の仕事をしたので、どちらかの作品に
受賞して貰いたいのですが、私情を挟まずに受賞結果を予想するなら、

本命:アレクサンドル・デプラ
対抗:A.R. ラフマーン
大穴:ダニー・エルフマン

…ではないかな、と思います(ハズレたら恥ずかしいなぁ)。

去年の予想(『つぐない』(07)のダリオ・マリアネッリ)は当たったんだけど。
皆様の予想はいかがでしょうか?