
今月は『機動警察パトレイバー the Movie』(89)と『機動警察パトレイバー2 the Movie』(93)のリバイバル上映があるそうです。
【劇パト1・2連続リバイバル!】<「劇場公開版」音声>&<4K版>での全国リバイバル上映決定!
https://patlabor.tokyo/news/1621
『パトレイバー』は我が青春時代の思い出の作品でして、確か「B-CLUB」を購読していた友人に「『パトレイバー』面白いよ!」と勧められたんだったかな。勧められるがままOVAシリーズ(いわゆる「アーリーデイズ」)を観たら一気にハマってしまったという。
『うる星やつら』の声優さん(古川登志夫さんや千葉繁さん、二又一成さん、池水通洋さんなど)が大勢出ていたから、あのアニメのノリで観られたことも大きかった。
当時の自分は小学校高学年か中学1年生ぐらいで、コンピューターの知識も大して持っていなかった。ファミリーベーシックすらロクに触ったことのないマイコン音痴でした。
だから劇場版第1作を観たときはコンピューター犯罪については仕組みがピンと来ない部分が多く、むしろ聖書の引用のほうが興味があった(通っている小学校がミッションスクールだったから)。
それでも「HOS」の謎解きドラマには見入ってしまったし、レイバーによるアクションも大いに楽しみましたが。
後年パソコンを使うようになってから、「なんて先見性のあるアニメだったんだ!」と作品の本質を理解しました。
自分がWindows UpdateやOSのアップデート、ソフトウェア(アプリ)の更新にすぐ飛びつかず、2週間くらい様子を見てから実施するようになったのは、ほかならぬ劇場版第1作の影響です。HOSに隠された恐ろしい仕様を目の当たりにして「詳細がよくわからない新しいソフトウェアはすぐインストールしないほうがいい」と思うようになったのでした。そういう意味ではパソコンを使うためのよい勉強になった作品でもありました。コンピューター用語とかの知識が身につきましたからね。

劇場版第1作はビデオ(VHS)を買って何度も観ましたし、サントラ盤も繰り返し聴きました。確か自分が初めて買った川井憲次氏のサントラがこれだったと思います。
機動警察パトレイバー メモリアル・コレクション・シリーズ PATLABOR ORIGINAL SOUNDTRACK ALBUM VOL.5“INQUEST” – amazon

サントラの音源データはウォークマンに入っているので今でも時々聴いているのですが、リスナー人気の高い「ヘヴィ・アーマー」を始め、暴走タイラント2000 vs 太田機のシーンで流れた「暴走事件」、”方舟”でのアクションを盛り上げた各種劇伴のテンポがかなり速いということに気づきました。
洋画サントラでいろいろなアクション劇伴を聴いてきましたが、それらに比べてもかなりテンポが速い気がする。ほぼロックのリズムと言うべきか。これが物語に猛烈なスピード感を生み出している。
「とにかくスパッと終わらせたい」という押井監督の意向を汲んで作曲されたエンドクレジット曲「朝陽の中へ」の清々しさは、”1990年代”という時代を感じさせるサウンドでありつつ、快活な第2小隊の面々にふさわしいものだったように思います。
ことほどさように当時の自分はこうしたアップテンポなアクション劇伴に魅了されていたわけですが、サントラ経験値がある程度上がってから改めて本作の劇伴を聴き直したとき、「夏の嘲笑」や「虚栄の街」で聴かれる本作のメインテーマ「帆場暎一のテーマ」や、川井氏曰く「デタラメにシンセを弾いているようでいて実はちゃんと譜面がある」という「HOS」のような楽曲の重要性に気がついた次第です。
川井氏がサントラ盤の楽曲解説でアクションシーンの劇伴を「状況を説明しているだけの曲です」とざっくり紹介しているのとは対照的に、「帆場のテーマ」で細かい解説を書いていたのもよく分かりました。
川井氏が仰るには「帆場のテーマでは、不思議な、自然音に近いもの(がほしい)」と押井監督から言われたそうで、8日と5時間かかって見つけ出した答えがスティールドラムの音だったのだとか。
映画冒頭であの曲が流れたインパクトはものすごかったし、廃墟のような東京の下町の映像とも見事な調和を見せていた。「川井さんの音楽はすごい」と思ったものです。

で、その「帆場のテーマ」の路線をさらに掘り下げていったのが『機動警察パトレイバー2 the Movie』(以下『P2』)の音楽だったのではないかと思うのです。
Patlabor 2 – The Movie (Original Soundtrack) – amazon music
機動警察パトレイバー2 the Movie/オリジナル・サウンドトラック”P2″ – amazon
今回は第2小隊の活躍というより「東京での戦争」という状況と後藤隊長としのぶさんの”大人の関係”を描いた重くシリアスな内容のため、前作のような活劇調の劇伴は聴かれなくなり、アンビエント/ミニマル・ミュージックに接近した深遠な劇伴が流れるようになりました。
映画のメインテーマになるのは、映画冒頭のPKO部隊の悲劇のあとに流れる「outset」と、そのバリエーションとなる「Unnatural City」の1と2でしょうか。あとエンディングテーマ「Hallucination」の旋律も劇中で何度か聴くことができます。前者が「柘植のテーマ」で後者が「戦争のテーマ」という感じなのかな。
“ドン・タタン・ドタンタタン”というリズムパターンが印象的なオープニングタイトル曲「Theme of PATRABOR2」が本作で唯一の躍動感のある曲ではないかと思います。

本作で個人的に印象に残っているのが、終盤の無人有線移動砲台イクストルとの戦闘シーンの曲「IXTL」でした。派手に銃火器を撃ちまくるシーンに、重低音を効かせたミニマル/アンビエント・ミュージック調の劇伴を流すという演出が新鮮だった。この音楽演出が後年『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)のクライマックスでの劇伴に発展していったのではないかと思います。
あと航空総隊防空司令所の”消えたワイバーン”のシーンの劇伴「Wyvern」も、重厚な反復サウンドでヒリヒリするような緊張感を生み出した名曲だったと思います。このシーンを初めて映画館で観たとき、どういう結末になるのか分からず、ものすごく緊張したのを憶えています。
パッと聴いたとき直感的に「あ、なんかいい曲」と認識できるのが劇場版第1作のサントラで、キャッチーな要素は第1作に劣るものの、聴けば聴くほど味わいが増してくるのが『P2』のサントラと言えるでしょう。ま、結論として「どちらも名盤だし名曲」ということですね。
Daryl Hall & John Oates 関連商品 好評発売中!
■Eliot Lewis / Enjoy The Ride+Master Plan
Enjoy The Ride (iTunes)