幸宏さんのEMI時代のリマスター盤を買い揃えていっています(『A DAY IN THE NEXT LIFE』編)

幸宏さんの「大人の純愛三部作」の「来世編」にあたる『A DAY IN THE NEXT LIFE』の最新リマスター盤を買いました。

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A DAY IN THE NEXT LIFE<限定盤> SHM-CD (TOWER RECORDS)

このアルバムの旧・初回生産盤は、透明プラケースと透明フィルム、名刺サイズの橙&紫のカードなどを使った信藤三雄氏デザインのユニークなジャケットアートが目を引きましたが、リイシュー盤ではあのデザインが中途半端な形で再現されていて少々ガッカリしました。

製品を手に取ったとき、「これは紙ジャケの表面を透明フィルムにしてあのデザインを再現してくれたのかな?」と一瞬ワクワクしたのですが、何のことはない「単なる印刷」でした。
だから「ひとつとして同じデザインになることはなく、十人十色のデザインが楽しめる」という旧初回盤のデザインコンセプトは今回再現されておりません

一応、旧盤にあった名刺サイズのカラーカードと細長いタイトルロゴの紙は封入されていました。
ちなみに旧盤だとカードの裏にオフィス・インテンツィオの住所が書かれていましたが、今回のリイシュー盤だと裏面は白紙です。

本作以降、幸宏さんのアルバムは透明プラケースの特性をフル活用したジャケットアートになるので、そもそもこのリイシュー企画は紙ジャケではなく、プラケースで実施した方がよかったのではないか…とも思った次第です。

そして気になるリマスターの音質ですが、『BROADCAST FROM HEAVEN』の方は違いがあまり分からなかったものの、『A DAY IN THE NEXT LIFE』は旧盤より音の輪郭がハッキリしたような気がします。全体的に音が前に出ている感じとでも申しましょうか。
ちなみに幸宏さんはこのアルバムの制作当時、プリファブ・スプラウトの『ラングレー・パークからの挨拶状』に影響を受けて、わざわざあの作品を手掛けたエンジニアに頼んだそうです。

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幸宏さんのEMI時代のリマスター盤を買い揃えていっています(『BROADCAST FROM HEAVEN』編)

昨年の暮れに紙ジャケ+SHM-CD仕様でリイシューされた幸宏さんのアルバム『EGO』と同時購入したのが、1990年リリースの『BROADCAST FROM HEAVEN』。いわゆる「大人の純愛三部作」の「天国編」です。

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BROADCAST FROM HEAVEN<限定盤> SHM-CD (TOWER RECORDS)

このアルバムは当時母が買いました。確かテレビの歌番組で「1%の関係」を聴いて「いい曲だったから買った」と言っていたような記憶があります。
既にその時「1%の関係」のシングルが出ていたはずですが、幸宏派YMOリスナーの母は即アルバムを買ってしまったのでした。

このアルバムでも『EGO』同様に繊細かつ神経質そうな音は健在。
違いと言ったらアルバムタイトルのように「天国を連想させる音(編曲)」の楽曲があるということでしょうか。
具体的には「6,000,000,000の天国」と「Forever Bursting Into Flame」の2曲。ゴスペル調のコーラスが加わった「Rehabilitation」もそのカテゴリーに入るかな。
このアレンジの妙は、”Additional Arranger”としてクレジットされている上野耕路氏の手腕によるところも大きいのではないかと。
ビートニクス名義の曲のアレンジには、もうひとりの”Additional Arranger”の鈴木慶一氏が携わっていると思いますが。

このアルバムから、スタッフクレジットでしばらく”All songs arranged & performed by Yukihiro Takahashi”という表記になるので、幸宏さんがどの曲で何の楽器を演奏しているのか分からなくなってしまいました。
『EGO』の時は”Vocals, Keyboards, Percussions & Drums”と明記されていたのですが、もっと漠然とした感じのクレジットになってしまった。まあこのアルバムでもいくつかの曲でドラムを叩いているのではないか…と思います。

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『フォロウィング』HDリマスター版が4月公開らしいので、以前買ったサントラ盤をご紹介します。

『オッペンハイマー』(23)の興行的/批評的成功を受けたこともあるのか、クリストファー・ノーラン監督のデビュー作『フォロウィング』(98)のHDリマスター版が4月に日本公開になるそうです。

自分の場合、確かこの映画は衛星放送で観たような記憶があります。
近所の店でソフトを取り扱っていなかったから、ビデオ/DVDレンタルでは観ていないはず。
『メメント』(00)か、あるいは『バットマン ビギンズ』(05)のBS/CS初放送か何かで、ノーラン監督作品の特集放送があったときにこの映画もラインナップに加わっていて、その時に観たのだと思います。

「尾行癖のある自称”作家志望”の男が、狡猾な男にそそのかされて尾行/家宅侵入のスリルに魅せられていき、やがてトラブルに巻き込まれてドツボにハマる」というお話で、観ていてちょっと不快というか、「まあ主人公も自業自得よね…」と思いながら観ていたものです。
ちなみに主人公をインモラルな世界に引きずり込む怪しい男の名前が、『インセプション』(10)の主人公と同じ”コブ(コッブ)”というのはノーラン信者の間でつとに有名。

ストーキング癖のある主人公には全く共感できませんでしたが、ストーリーへの没入感はすごかったと記憶しています。
シャッフルされた時系列、意味深長なモノクロ映像、勿体つけたような会話、嘘と陰謀が幾層にも重なったプロットなどなど、ノーラン映画の特徴がデビュー作に全部詰め込まれている。ノーランにはこのままサイコロジカルスリラー路線で行ってほしかったなぁ…。

当時の自分はノーラン映画にとても関心があり、初期作品の音楽を担当していたデヴィッド・ジュリアンのスコアにも興味があったので、『フォロウィング』もしっかりサントラ盤を買いました。

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『π』のデジタルリマスター版が劇場公開になるので、音楽のことなどを振り返ってみる。

3月14日に映画『π』(98)のA24版デジタルリマスター版が劇場公開になるそうです。

自分がこの映画を観たのは、某理系私大の学生だった頃でした。
フェニル基を持った有機化合物のねじれ角ポテンシャルパラメータだか何だかを算出する作業に明け暮れていた時期で(卒業研究のテーマがそんな感じの内容だったのです)、毎日研究室でも自宅でもPCの画面で数字とにらめっこしていたので、『π』の主人公マックスの苦悩が他人事とは思えなかった。

この映画を観たあと「あまり根を詰めて実験したり測定したりすると病んでしまいそうだから、程々にしておこう…」と思った次第です。

この時期はテクノ系のアーティストのアルバムをよく聴いていたし、『ワイプアウトXL』なんかでもよく遊んでいたので、オービタルやマッシヴ・アタック、エイフェックス・ツインらが参加した『π』のサントラは大変魅力的で、映画を観る前に購入しました。
「踊れるテクノ」というよりも、実験音楽色の強いIDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)のコンピレーションという内容。ちなみにポップ・ウィル・イート・イットセルフ(以下PWEIと表記)のことをよく知らなかった自分が初めて買ったクリント・マンセルのサントラでもありました。

で、先にサントラを聴いて映画本編を観たら、劇中で使われていない曲がいくつもあったのでした。
「え? これインスパイア盤だったの?」と思ってサントラ盤をよく見てみると、「MUSIC FROM THE MOTION PICTURE」ではなく「MUSIC FOR THE MOTION PICTURE」と意味深長なことが書いてある。

この記述は一体…!? としばらく悩んだものの、答えが見つからず、その後すっかり忘れておりました。
しかしリマスター版が公開になるということで、ちょっと調べ直してみることにしました。

π(パイ) ― オリジナル・サウンドトラック – amazon

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BANGER!!!で書いた『テルマ&ルイーズ』音楽コラムの補足

2月16日から『テルマ&ルイーズ』(91)の4Kレストア版の上映が始まるということで、映画情報サイト「BANGER!!!」で音楽紹介コラムを書かせて頂きました。

実はブラピの出世作『テルマ&ルイーズ』が4Kリバイバル上映! アカデミー賞受賞の傑作ロードムービーを彩るハンス・ジマーの音楽 | https://www.banger.jp/movie/110781/ #BANGER

当初はハンス・ジマーのスコアをメインに紹介して、挿入歌は数曲ざっくりご紹介すればいいかな…と考えていたのですが、映画本編をじっくり観直したところ、挿入歌の使い方もかなり凝っていたので「これは出来る限りきちんと紹介しなきゃダメだな」と思い直し、結局挿入歌もかなりの字数を割いてご紹介することになりました。

最近疲れているので少し楽をさせて頂こうと思ったのですが、そんなにうまくは行かないのでありました。

BANGER!!!のコラムで重要なことはほとんど書いたので、当方のブログではもう少し補足したほうがいいかなというネタをいくつかご紹介いたします。

Thelma and Louise – Original Motion Picture Score (TOWER RECORDS)

1990年代当時のハンス・ジマーについて

BANGER!!!のコラム内で「90年代初頭のジマーは冷遇されていたこともあった」と書きましたが、『ドライビング Miss デイジー』(89)で一体何があったのか。このあたりのところをもう少し詳しくご説明したいと思います。

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