目黒シネマで『ザ・セル』が1週間上映になるので、ハワード・ショアの音楽のことなど書いてみる。

別に目黒シネマでの【ターセムと石岡瑛子 美しき幻想】特別上映を予測していたわけではないのですが、先頃『ザ・セル』(00)のサントラ盤を中古で手に入れました。

Xにも書いたとおり、劇場公開当時国内盤サントラを買ったものの、仕事場も自宅も実家もいくら探してもアルバムが見つからず、学生の頃に売ったか、東日本大震災のときに被害に遭ったCDの中の一枚になってしまって完全に紛失したようでした。
「こんなマニアックな映画のサントラ、中古でも出回ってないだろうな…」とダメ元で調べてみたら、某所で至って標準的な中古価格で売られていたのを見て即購入した次第です。例えばamazonで出品されている中古品だとこんな感じ。いろいろ調べてはみたのですが、デジタル版はリリースになっていないのかな。

『ザ・セル』オリジナル・サウンドトラック(中古品) – amazon

で、久々に、本当に10数年ぶりくらいに『ザ・セル』の劇伴をしっかり聴いたのですが、「すごい、いや、すさまじい音楽だな」と改めて思いました。
モティーフとかメインテーマのバリエーションで聞かせるような、西洋的な文脈で作曲した劇伴ではない。エキゾティックなサウンドが強烈な印象を残す「異界の音楽」とでも申しましょうか。

ひとくちに「エキゾティックなサウンド」と言っても、「これは一体どこの国の音なのか?」という疑問にまず直面するわけですが、演奏を担当しているのが「ザ・マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカ」なのでモロッコのスーフィー音楽/トランスミュージックということになります。

サイコキラーのカール・スターガー(ヴィンセント・ドノフリオ)のいびつな精神世界を、エキゾティックなトランスミュージックで描き出したというわけですな。

ダンシング・イン・ユア・ヘッド (UHQCD) – amazon
ダンシング・イン・ユア・ヘッド(UHQCD)- TOWER RECORDS

それではなぜショアはジャジューカを本作に起用することを思いついたのかというと、その発想の源はオーネット・コールマンの1970年代のアルバム「Dancing In Your Head」だったようです。
ショアとコールマンは『裸のランチ』(92)で劇伴を作曲しており、そのときもコールマンの前述のアルバムの音が『裸のランチ』の曲作りに大きな影響を与えていたのだとか。
そしてショアは「ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とジャジューカとの共演で劇伴をレコーディングしたい」とずっと思い続けていた。だから『ザ・セル』はショアの8年越しの宿願を果たした劇伴ということになるわけです。

Naked Lunch (The Complete Original Soundtrack Remastered) – amazon music

少々話が逸れますが、1990年代半ば~2000年代前半は西洋的なオーケストラに非西洋的なサウンドを融合させる劇伴が(一部で)流行った時期でもありました
ショアの『ザ・セル』もそうだし、マイケル・ダナさんの『8mm』(97)などもそう。「日常に潜む非日常(=異世界の存在)」とか、「喜怒哀楽では表現出来ない複雑な深層心理」を民俗音楽の音で描く実験的な試みが気鋭の作曲家の中で数多く行われていました。ダナさんはアトム・エゴヤン監督作で積極的にそういった劇伴に取り組んでいた。

8MM: Eight Millimeter (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music

ちなみに以前マイケルさんから聞いた話だと、『8mm』の音楽はプロデューサー(映画スタジオ重役だったかな?)から「なんだこの音楽は!書き直せ!」と言われて、監督のジョエル・シュマッカーに相談したら「自分のやりたいようにやりなさい」と背中を押してくれたので、最終的にあのような音楽で行くことが出来たのだとか。

と、まあこのような感じでワールドミュージック要素の強い個性的はプロデューサー/スタジオ受けが悪かったらしく、映画音楽界での民俗音楽ブームは割と短期間で終わってしまったような気がします。

こういった経緯を鑑みると、昨今の映画音楽が画一的でつまらないものになりつつあるのも、プロデューサーや映画スタジオが「一般受けする無難な曲にしろ」と余計な口出しをしているせいかもしれません。以前ジェシー・ハリスさんにブルーノート東京でインタビューしたときも「最近は映画音楽がつまらなくなってる」と仰っていたし。


誰とは言いませんが、最近も「誰もキミの芸術性なんか気にしちゃいないんだよ」と結構ヒドいことを言われた作曲家さんもいましたし。

まあそんなわけで、『ザ・セル』でショアの尖った音楽を存分に楽しんで頂きたいなと思う次第です。

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