『ヘンリー』(1986年)の劇伴を作曲したミュージシャンのことが少しずつ分かってきたというお話。

先月からXで何度か書いていますが、映画『ヘンリー』(86)のサントラ盤を中古で手に入れることができました。

このサントラは1990年代に一度だけ中古CD/レコード店で見かけたことがありました。
当時の自分はもちろんマイケル・ルーカーのことは知っていたし、ジョン・マクノートン監督作なら『恋に落ちたら…』(93)と『ワイルドシングス』(98)を観ていたものの、『ヘンリー』は観られるような環境ではなかった(衛星放送でも観たことがなかったしレンタルビデオ/DVDも見かけなかった)ので、「観る機会がなさそうな映画のサントラを買っても意味ないだろう」と考えて購入を見送ってしまったのでした。いま思えばとんでもない判断ミスです。

まあ当時の自分はまだ学生で、しかもバリバリの理系だったので、現在のような仕事(映画音楽物書き/レコードレーベル業)をするなんて想像だにしなかったから仕方がないと言えば仕方がなかったのですが。

やがて時は流れ、『ヘンリー』のカルト的な人気の話を見聞きする度に「やっぱりサントラ買っておけばよかった」と思うようになり、キングレコードの「死ぬまでにこれは観ろ!」シリーズで円盤化されたときに「なんであのときサントラを買わなかったんだ!」と後悔し始め、そして今年『アングスト/不安』(83)と『エヴィレンコ』(03)と共に「これが 彼のやったこと」3部作の先陣を切って8月に劇場公開されると知ったとき、「これは貴重な資料として絶対サントラを買うべきだった」と考えるようになったのでした。

Henry: Portrait of a Serial Killer (Original Motion Picture Soundtrack) Various Artists – amazon music

とはいえ、数年前にWaxwork Recordsから数量限定で発売されていたアナログ盤サントラも既にSOLD OUT、ましてやプレス枚数が少なそうなサントラCDなんて、もう中古レコード店から姿を消しているだろう…と思っていたら、なんとまだ某所で売っていたんですね。しかもプレミア価格にもなっていなくて、ごく標準的な中古CDのお値段で。
この機会を逃したら、たぶんもう一生手に入らないだろうと考え、即オーダーさせて頂きました。

ま、後日デジタル版でもサントラがリリースになっていたということが分かったのですが、こういうものはCDなりレコードなり「モノ」として手に入れることに意義があるわけで。『ヘンリー』のサントラ盤と20数年ぶりの邂逅を果たすことができました。

スコア作曲はロバート・マクノートン、ケン・ヘイル、スティーヴン・A・ジョーンズの3人。

ヘンリー [Blu-ray] – amazon
『ヘンリー』Blu-ray Disc (TOWER RECORDS)

サントラ盤を手に入れてから彼らの情報をネットで調べていたのですが、面白いぐらい情報がなかった。
しかし『ヘンリー』のブルーレイに収録されていた映像特典を観たら3人がメイキング、スティーヴン・A・ジョーンズは本作のプロデューサーだったことが分かりました。音楽の心得があったので、手弁当で音楽制作にも参加したということなのかもしれません(シンセとパーカッション演奏も担当)。

そして最も気になるのがシンセ/ピアノ演奏も担当したロバート・マクノートン。
名前から考えればジョン・マクノートン監督の血縁者(兄弟、イトコなど)ではないかと推測するのが普通ですが、前述のブルーレイのメイキング映像を見てもそういう話は一切出てこなかった。どうもたまたま同姓だっただけで、血縁関係はないらしい。
ロバート・マクノートンは2004年から2012年くらいまでシカゴのパンクバンドThe Effigiesでギタリストを務めていた人物のようです。The Effigiesの前にはThe Indicatorsというバンドでも活動していた模様。ケン・ヘイルと共にマクノートン監督の『ボディ・チェンジャー』(91)と『ボディ・リップス』(96)の音楽も担当していたりする。

本作の音楽は劇伴というより、無機質なリズムやドローン、サンプリングした効果音を組み合わせたサウンドデザイン的な背景音楽と表現したほうがいいかもしれません。先述のメイキング映像で彼らが語ったところによると、ピアノ主体の「ヘンリーのテーマ」を監督に聴かせたら「一般的なホラー劇伴とは違う感じにしたい」と言われたらしい。

曲の中で叫び声や怒声、効果音が入っているものがありますが、楽曲に声や効果音を”後乗せ”したのではなくて、全てが渾然一体になった状態でひとつの「曲」として成り立っているようです。

サントラ盤には劇中でヘンリーが飲食店や車の中で聴いていた歌曲も収録。
Kid Tater and The Cheatersというのはイリノイ州出身のロカビリーミュージシャンのようですな。
Lynne and The Lizardsというのもシカゴのバーで演奏していたバンドのようです。
Enuff Z’nuffもイリノイ州出身のパワーポップ・バンド。
マクノートン監督はシカゴ出身なので、音楽も地元のミュージシャンで固めたらしい。

1980年代と言えばMTV全盛期であり、「ポップな歌モノをコンパイルしたナウいサントラ」がウケた時代だっただろうに、本作のようなマニアックで陰鬱で難解な楽曲が多いサントラをよくリリースしたもんだと改めて思います。
あ、でも『クルージング』(80)なんかもひっそりとサントラ盤が出ていたりしましたからね…。

きらびやかな1980年代の「ダークサイド」が体感できるという意味でも、資料的価値の高いサントラでした。デジタル版でも出ているのでぜひ(いつ配信先から消えるか分からないので早めの購入が吉かと)。

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