
Klaus Schulze / ANGST (amazon music)
Klaus Schulze / ANGST (CD, amazon)Klaus Schulze / Angst – TOWER RECORDS
2026年11月6日から『アングスト/不安』の4K版上映があるそうです。以前『ヘンリー』(86)のブログで書いた、『エヴィレンコ』(04)との実録犯罪映画3作連続上映企画ですね。
『アングスト』は2020年に「日本の劇場で初上映!」と(一部で)話題になっていたので、あまり間を置かずにまた上映するんですねぇ(しかも4K版で)という感じ。
2020年と言えばコロナ禍の真っ只中。『アングスト』は以前某サントラ盤の仕事で試写の手続きをして下さったアンプラグドさんが「ぜひご覧になってください!」とA4用紙のプレス資料とチラシと一緒にサンプルDVDを送ってくれて、そのとき初めてこの映画を拝見しました。
そしてブツブツ独り言を言いながら行き当たりばったりに凶行を重ねるK.の姿を見て、多くの人が思ったであろう「なんだこの気持ち悪い狂人は…」という感想を抱いたのでした。
このK.という男はレクター博士のようなスマートかつ知的に凶行を繰り返すシリアルキラーではなかった。何を考えているか分からないし、行動は無計画で全く洗練されていない。「実在の異常犯罪者なんてこんなものです」という突き放した冷徹さと生々しさ、グロテスクさが異常に怖かった。「よく分からないけど、なんだかとんでもないものを見てしまった気がする…」というモヤモヤした余韻が残る怪作です。
で、『アングスト/不安』の音楽の話になるわけですが、劇中音楽を作曲したのは元タンジェリン・ドリーム、アシュ・ラ・テンペルのクラウス・シュルツェ。
本作のプレス資料にも書いてあったとおり、シュルツェの音楽が好きだったジェラルド・カーグル監督が彼にスコア作曲を依頼し、「脚本に沿って作曲され、出来上がった音楽に沿って撮影した映像を編集していった」のだそうです。映像に合わせるためにシュルツェの作った音楽をいじる(=編集する)ようなことはしなかったと。

Sorcerer / Tangerine Dream – amazon
Sorcerer / Tangerine Dream – amazon musicTangerine Dream / Sorcerer – TOWER RECORDS
そういえばウィリアム・フリードキンも『恐怖の報酬』(77)のスコア作曲をタンジェリン・ドリームに依頼したとき、映像を見せずに脚本とあらすじだけバンドに伝えて曲を作らせて、曲に合わせて映像を編集していったんだっけ。
当時の鬼才監督たちは電子音楽に無限の可能性を感じて、ミュージシャンに余計な制約を設けずに曲を作ってほしいと思ったのかもしれません。
本作のカーグル監督が好きだったのはシュルツェのアルバム「X」で、その中の収録曲に神秘的で催眠的な魅力を感じたのだとか。そこでウィーンでコンサートを行っていたシュルツェに連絡を取り、未編集の映像を観たシュルツェもすぐに乗り気になって「『アングスト』はカルト映画になるだろう」と言ってくれたとか。で、その勢いのまま2日間くらいで曲を作り上げてしまったと。

Klaus Schulze “X” (Remastered 2017) – amazon musicKlaus Schulze / X – TOWER RECORDS
作曲に当たって伝統的な記譜法は一切使用せず、脚本から得たインスピレーションをもとに何時間も即興演奏し、カスタムシーケンサーを使ってそれらを編集・接続して、まとまりのあるトラックに仕上げたのだとか。機材としてはフェアライトCMIやリンドラム、ARP Odyssey、ミニモーグなどいろいろ使っているらしい。
『アングスト』のサントラはシュルツェ書き下ろしの曲が6曲と31分あるボーナストラックが1曲という構成。全ての曲が映画の中で使われているというわけではなくて、K.が行き当たりばったりに行動するシーンで流れた4曲目の”Surrender”が一番印象に残るかな。”Freeze”は映画本編ではアルバムバージョンになる前の段階(いわゆるプロトタイプ)のような曲が使われていたと思う。”Freeze”に関しては『刑事グラハム/凍りついた欲望』(86)で収監されたレクター博士のシーンで使われたので、あのシーンの曲として広く知られているかもしれない。
ボーナストラックの”Silent Survivor”は一体何の曲なんだ?と思ってこちらも調べてみましたが、どうやら『アングスト』の劇伴とは無関係な曲で、1980年代初頭にアーカイブされたシュルツェのベータPCMテープから録音されたものだそうです。蔵出しスペシャル曲ということかな。
これらの事実を考えると、このアルバムは『アングスト』のサントラ盤というよりも、映画のために書いた曲を元に作り上げたシュルツェのソロアルバムという位置づけなのかもしれません。コンセプト・アルバムという感じでしょうか。
したがって本作のサントラは「『アングスト』の劇伴を収録したアルバム」として聴くと「この曲って映画の中で流れたっけ?」と違和感を覚えるかもしれません。ま、当方は”Freeze”と”Surrender”の2曲で十分元は取れましたが。

Next of Kin (Music from the Motion Picture Soundtrack) – amazon music

Body Love (Original Motion Picture Soundtrack / Remastered 2017) – amazon musicKlaus Schulze / Body Love – TOWER RECORDS
ちなみに当時のシュルツェは『アングスト』のほかに『悪夢の系譜/日記に閉ざされた連続殺人の謎』(82)や『呪われた毒々魚 人類滅亡の危機』(78)の音楽なども担当しているのですが、『Body Love』(78)なんていうX指定の映画(いわゆるポルノ映画というやつですね)の音楽も担当してます。
なぜシュルツェほどのミュージシャンがポルノ映画の音楽を…?と思いましたが、どこかで読んだインタビュー記事では「誰もポルノ映画でセリフなんて聞いてない(=セリフが重要じゃない)から、役者のセリフを気にせず自由に曲が作れるのがいいんだよ」というようなことを語っていて、ああなるほど、音楽表現の実験の場としてそういう作品を選んだのねと(自分なりに)納得した次第です。
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