BANGER!!!コラムの補足/『フリードキン・アンカット』を見て分かってきたフリードキン監督の為人(ひととなり)

フリードキン・アンカット(Amazonプライムビデオ)

先日、BANGER!!!でウィリアム・フリードキン監督作品の音楽についてコラムを書きました。

鬼才、それとも奇人? 孤高の映画監督ウィリアム・フリードキンの音楽世界を『恐怖の報酬』ほか代表作から振り返る
https://www.banger.jp/movie/65959/

今月のBANGER!!!でなにを書こうかなと思っていたのですが、ムービープラスで『恐怖の報酬 【オリジナル完全版】』(77)とドキュメンタリー『フリードキン・アンカット』(18)の放送があるし、自分もフリードキン監督作のサントラを8種類くらい持っていたので、せっかくだからこの機会に音楽についてなにか書くかと思った次第です。

大体のことはBANGER!!!で書いたのですが、字数の都合や話の趣旨から逸れるので書けなかったネタがいくつかあったので、当方のブログで少し補足させて頂きます。

■その1:『エクソシスト』(73)で大御所作曲家を情け容赦なくクビにした話の補足

まずは映画の製作中、フリードキンが悪魔的な所業を次々と行ったことで有名な『エクソシスト』。
拙稿で「ラロ・シフリンを情け容赦なくクビにした」と書きましたが、より詳しく書くならば、「シフリンが作った音楽をフリードキンが全く気に入らず、デモテープをスタジオの駐車場に投げ捨ててクビを通告した」のだとか。
リアルな表情が撮りたくて演技未経験の神父の顔をひっぱたいたとか、恐怖で驚いた顔を撮りたくて俳優のそばで拳銃やショットガンの空砲をぶっ放したとか、この時のフリードキンはイカレていたというか「リアルなものを撮るために悪魔に魂を売った男」という感じ。

しかしこの件については、『フリードキン・アンカット』の中でジーナ・ガーションが「彼は”メソッド監督”ね」と言っていたのを見て納得しました。悪魔を題材にしたオカルトスリラーをリアルに撮るなら、自分も悪魔と同化しなければならないと思ったんでしょう。

また『フリードキン・アンカット』の中で、『恐怖の報酬』の製作時にスタジオの重役たちと昼食会をすることになった時、重役の言いなりになりたくなくて、わざと泥酔した姿(芝居)を見せたエピソードが語られていました。
それを観ると、シフリンのデモテープを投げ捨てた件もその意図がなんとなく分かった気がするのです。
つまりフリードキンという人は、自分の気に入らないものを押しつけられそうになったら、わざと”コイツには何を言っても無駄だな”と思われるような態度を取ることで、自分の意志を貫こうとしてるんだろうなと。
たぶん、狂っているようでいて全部計算尽くでやってると思う。
シフリンを推したのもスタジオ側(ワーナー)らしいので、フリードキンからすれば「なんで自分が全く興味のない作曲家を使わなきゃならんのだ」と思ったのでしょう。この件についてはとばっちりを受けたシフリンが本当に気の毒だと思いますが。

■その2:ワン・チャンの”Wait”が好きすぎる話の補足

ワタクシがフリードキン監督作で一番好きな『L.A.大捜査線/狼たちの街』(85)。
サントラ盤にフリードキンが寄せたライナーノーツにも書いてあるとおり、彼はワン・チャンのアルバム「Points On The Curve」を気に入ってこの映画のスコア作曲を依頼したわけですが、『L.A.大捜査線』のブルーレイ映像特典収録のワン・チャンのインタビューを見ると、フリードキンはとりわけ”Wait”がお気に入りだったご様子

だからスコアのリズムも”Wait”のテンポが基本になってます。”City Of The Angels”や”Black-Blue-White”を聴くと「ああ、確かにそうだなぁ」と分かる。

当初フリードキンは挿入歌を必要としていなさそうな感じだったのに、ワン・チャンが勢いで書いた”To Live And Die in L.A.”を聴いたらえらく気に入って、この曲を使うためにオープニングの映像を撮り直した上に、結局挿入歌も新しく書いてもらうことになったという異例の好待遇(さらに彼らのヒット曲”Dance Hall Days”も劇中で使ってる)。
『エクソシスト』でシフリンをクビにした時のように「なんだこの曲は!」とデモテープを投げ捨てたりしなかった

『エクソシスト』の時とは別人のような作曲家への理解を示したフリードキンでしたが、これも『フリードキン・アンカット』を見たら何となく分かった気がするのです。
フリードキンは「自分が気に入った相手や物に対しては寛大な態度で接する」人なのだろう、と。その代わり、気に入らない相手に対しては適当にあしらっておしまい。気さくなのか気難しいのかよく分からない御仁です。

■その3:マーク・アイシャムの”On The Threshold of Liberty”が好きすぎる話の補足

マーク・アイシャムがニューエイジ系レーベルのウィンダム・ヒルに所属していた時リリースしたアルバム「Vapor Drawings」。
その中の1曲”On The Threshold of Liberty”をフリードキンが気に入っていて、『英雄の条件』(00)の音楽をアイシャムに依頼した上でこの曲の新録版を作ってもらったというお話。この件について補足するならば、新録版を使うよう説得したのはむしろアイシャムのほうだったみたいです。

フリードキンはこの曲を「愛国的でアーロン・コープランド的な音楽」と思ったようで、アイシャム自身は(ウィンダム・ヒル時代の作品であることからも分かるように)おそらく別の意図で書いた曲だったと思われます。だからこの曲を映画の中でそのまま使われるのは「ちょっと違う」と考えたのかもしれません。
その結果、勇ましく愛国的なアレンジになった”On The Threshold of Liberty”が映画の中で使われることになったと。

テレビ映画『C.A.T.スクワッド』シリーズ(86/88)でモリコーネの既存楽曲を使っていることも含めて、本当にフリードキンという人は既製曲から演出のインスピレーションを得るタイプの人なんだなと思いました。

■その4:ズービン・メータが『ジェイド』(95)を気に入っているらしい話

『フリードキン・アンカット』にも登場している高名な指揮者ズービン・メータ。
フリードキンにオペラの舞台監督の話を持ちかけたそうですが、「彼の作品はほとんど観ている」と豪語するメータは『ジェイド』が特にお気に入りらしい(サントラ盤のライナーノーツに書いてあった)。
ストラヴィンスキーの「春の祭典」の使い方に唸らされたのかもしれませんね。あるいはリンダ・フィオレンティーノに魅せられたか。

フリードキンは数ある「春の祭典/祖先の儀式」の演奏の中でも、ケント・ナガノが指揮したロンドン・フィルハーモニック・オーケストラのものが特にお気に入りだそうで、映画の中で使われているのもこのバージョンです。

ちなみにこの映画の中ではロリーナ・マッケニットの”The Mystic’s Dream”も使われていますが、この曲を使うことにしたのはスコア作曲を担当したジェームズ・ホーナーの発案だそうです(これもサントラ盤ライナーノーツの情報)。

…と、まぁこんな感じでしょうか。
以前は「役者やスタッフに過酷な仕事を強いる割に扱いが雑な奇人監督」だと思っていましたが、『フリードキン・アンカット』の中で俳優やスタッフたちが嬉々として思い出話を語っているのを見て、案外気さくなおっさんなのかもしれないなと思いました。あれでも歳を取って少し丸くなったのかもしれません。

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