ウルフマン

the wolfman

先週『ウルフマン』(10)を観てきました。

ベニチオ・デル・トロとエミリー・ブラントという僕のお気に入りの役者さんが
出てるので、彼らの演技は(個人的に)それなりに楽しめましたが、印象と
してはフツーの怪奇映画という感じでした。事件の真相も「あの人」が登場
した途端に何となく分かってしまいますし。

まぁ、製作中にゴタゴタがあった割にはソツのない仕上がりになっていた
ような気はしますが。

問題はそのゴタゴタだったりするんだなぁ。この前『タイタンの戦い』(10)で
作曲家交代劇があった事を書いたばかりですが、この映画でも交代劇が
起こってしまったのです。しかも、状況的にはこっちの方がもっとややこしい。

この映画、作曲家がダニー・エルフマンからポール・ハスリンガーに一度
交代した後、結局またエルフマンに戻った挙句に、コンラッド・ポープ、エド
ワード・シェアマー、トーマス・リングレンの3人が追加音楽の作曲に加わる
という異常事態になったのでした。

エルフマンがウルフマン、という『X-MEN』(00)のマイケル・ケイメン(K-MEN)
に続くダジャレのような人選なのですが、彼はこの手のジャンルが得意です
ので、これは正しい人選と言えるでしょう。

・・・が、しかし。テスト・スクリーニングを行ったところ、映画本編・音楽ともども
関係者からいまいちウケが悪かったらしく(エルフマンが書き下ろした音楽は
「暗すぎる」とか「古風すぎる」と言われたらしい)、よせばいいのに映画の再編
集&音楽の差し替えが行われる事に。それでエルフマンの代わりに雇われた
のがハスリンガーなのですが・・・うーん、どう考えてもこの映画には不向きな
人選ではないかと。オーケストラ主体のクラシックな音楽を書くエルフマンと、
シンセサイザーを使ってアンダースコアに徹するタイプのハスリンガーでは音
楽のスタイルが違いすぎますから(ハスリンガーも面白い作曲家ですけど)。

もしかして、「エルフマンの音楽は古風すぎる」「じゃあシンセを使う作曲家が
いいな。誰がいる?」「ハスリンガーがいいよ!彼は『アンダーワールド』(03)
で狼男が出る映画のスコアを書いてるから」・・・みたいなノリで選んだんじゃ
ないだろうか。ただの推測に過ぎませんが、ホントにそうだったら嫌だなぁ。

そんなこんなで雇ったハスリンガーの音楽も、案の定19世紀のロンドンには
合わないわという事になり、結局エルフマンのスコアに戻す事に決定。しかし
音楽でゴタゴタしている間に映画の再編集を行ったので、いくつかのシーンで
映像と音楽の尺が合わなくなる事態が発生。そこでエルフマンに曲の作り直
しを依頼したら、「もう『アリス・イン・ワンダーランド』(10)の作業に入っていて
スケジュール的に無理」と言われたので、オーケストレーター/指揮者の
コンラッド・ポープに、エルフマンの譜面を基にした新しいスコアを書かせる事に
したのだそうです(スコアをマイナーチェンジした感じ?)。

で、エンドクレジットを確認したら、ポープの他に前述のシェアマーとリングレン
(よく”T.J. Lindgren”とクレジットされている作曲家)が追加音楽作曲者として
クレジットされているのを発見した次第です。始めっからエルフマンの音楽で
行っていれば、こんなめんどくさい事にならなかったのに。そういえばこの映画、
監督がジョー・ジョンストンに決まる前に、『ストーカー』(02)のマーク・ロマネク
が「クリエイティブ面での相違」が理由でクビになっていたのを思い出しました。

それにしても、スタジオのお偉いさんはエルフマンの音楽の一体何が気に
入らなかったんだか。サントラ盤を聴いて頂ければお分かりになると思いま
すが、彼は『スリーピー・ホロウ』(99)の流れを汲む、シリアスかつゴシックな
雰囲気の良質なスコアを作ってます。テーマ曲のメロディーもしっかりしてるし。
古風すぎると言ったって1890年代の話だし、狼男の話なら暗い音楽になって
当たり前なわけで。

ちなみにサントラ盤には”Tracks 6, 8, 13, 16 Contain Additional Music
by Edward Shearmur and Thomas Lindgren”と記載されてました。曲タイ
トルで言うと”Gypsy Massacre”, “The Funeral”, “Country Carnage”,
“Refrection / 2nd Transformation”の4曲。ポープの追加音楽はCD未収
録っぽいです。

・・・というわけで、結論。エルフマンは悪くありません。
このゴタゴタの責任は、音楽差し換えの指示を出した人にあります。
誰だか分かりませんが。