WALKER

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そろそろデンゼル・ワシントン主演の世紀末アクション『ザ・ウォーカー』(09)が公開になりますが、僕の場合”ウォーカー”というタイトルを聞くと、どうしてもこっちを思い出してしまうのです。

アレックス・コックス監督、エド・ハリス主演の『ウォーカー』(87)です。


19世紀半ばに「58人の不死隊」を率いてニカラグアに乗り込み、自ら大統領となってテロ政治を断行した実在の人物ウィリアム・ウォーカー(エド・ハリス)を描いた伝記映画・・・なんですが、何しろアレックス・コックス監督作品なのでフツーの映画じゃない。

何と言ってもプロダクション・デザインがヘン。19世紀の話なのにパソコンが出て来たり、登場人物がニューズウィーク誌を読んでたり、コカコーラやマルボロ、挙げ句の果てにはリムジンやヘリコプターまで登場する始末。

でも、これは別にコックスがイカレているわけではなく、ちゃんとした理由があるのです。

映画のエンドクレジット映像を見れば一目瞭然なのですが、この映画が製作された1980年代のアメリカは、レーガン政権がタカ派的な対中米政策をとっていて、ニカラグアとかエルサルバドルの内戦に干渉しては膨大な数の犠牲者を出しておりました(内戦がどんな状況だったかは『サルバドル 遙かなる日々』(86)をご覧下さい)。つまり、ウォーカーが19世紀にやっていたのと同じような事を現実に繰り返していたわけです。

この事実から考察すると、19世紀の話なのに現代のアイテムが出てくる演出というのは、「アメリカって国は今も昔も変わってねぇのさ!」という生粋のパンク野郎、コックス監督がアメリカに向けて放った痛烈なメッセージだったわけです。深いなぁ。ラストのレーガン大統領のシーンは蛇足とよく言われますが、映画の公開から20年以上経とうとしている今ならば、あのシーンがあった方が当時の事を理解し易くていいかなーと思います。

そしてこの映画、音楽をザ・クラッシュの故ジョー・ストラマーが担当してます。といっても、パンクロック調のスコアをつけているわけではありません。

“It’s all acoustic. I thought let’s be 1850, nothing plugged in.”

と自身が語っているように、ギター、チャランゴ、バンジョーといった弦ものから、マリンバ、ヴィブラフォン、コンガ、ボンゴ、フィドル、トランペット、ピアノなど生楽器をふんだんに使った、全編ラテン・フレーヴァー溢れるスコアを書き下ろしています。これがまた味があっていいんだな。

本編がブラックユーモアに満ちた殺伐とした内容なのに、音楽が割と明るい調子なのがミソというか何というか。意外と(?)メロディーラインもしっかりしているし、ストラマーのヴォーカル曲も3曲収録。そして彼自身がスコアのストリングスとホーンのアレンジを手掛けているのが素晴らしい(Dick Brightと共同名義)。つくづく彼の早すぎる死が惜しまれます。

ちなみに、以前『オールタイム・ベスト 映画遺産 映画音楽篇』の事をブログに書きましたが、アンケートで一番悩んだのが「西部劇・時代劇映画の映画音楽ベスト10」という項目でした。あれも入れたいよな、でもこれも捨てがたいよなーと考えた結果、悩みに悩んだ末にニール・ヤングの『デッドマン』(95)を選んでしまったため、『ウォーカー』をベスト10に入れられませんでした。

ストラマー先生、ごめんなさい。