検証:『ウルヴァリン:SAMURAI』の音楽はなぜマルコ・ベルトラミでなければならなかったのか

wolverine

先頃映画館に観に行った『ウルヴァリン:SAMURAI』(13)。
今の時期に映画本編のレビューを書いても、
何だかタイミング的にビミョーな気がするので、
テーマを音楽に絞って何か書いてみようかなと思います。

『ウルヴァリン:SAMURAI』の監督ジェームズ・マンゴールドは、
作品ごとに毎回異なる作曲家と組んできた人。
(それが意図的なのか単にご贔屓の作曲家がいないのかは不明)
ところが今回、過去に起用した作曲家と初めて再び組む事になりました。
その作曲家はマルコ・ベルトラミ。
傑作西部劇『3時10分、決断のとき』(07)以来、実に6年ぶりのタッグです。

『X-MEN』シリーズなら『ナイト&デイ』(10)で組んだジョン・パウエルでもいいだろうし、
(パウエルは『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』(06)の音楽もやってるので)
『アベンジャーズ』(12)や『キャプテン・アメリカ』(11)、『G.I.ジョー』(09)など、
近年アメコミ映画づいている『”アイデンティティー”』(03)のアラン・シルヴェストリという選択肢もあったのに、
なぜベルトラミに白羽の矢が立ったのか。


これはあくまで自分の推測ではありますが、
決め手になったのは「サムライ」「西部劇」というテーマだったのではないかと思うのです。

今回の映画ではウルヴァリンを「浪人(=サムライ)」に重ね合わせた、
とマンゴールド監督は語っているそうですが、
サムライ、特に浪人というのは西部劇のアウトローとも非常に親和性が高い。
となると、『3時10分』の音楽でアカデミー賞にノミネートされ、
異色西部劇『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』(05)の音楽も評価の高いベルトラミがうってつけ、という結論に至ったのではないかと思うのです。
しかもベルトラミは『ブレイド2』(02)でアメコミ流サムライ音楽も作曲済みですので、
これ以上の人選はないと言えるでしょう。
『ブレイド2』のスコアで”アバヨ”なんてタイトルの曲もあったし。
(正確には「Wind & The Willows (Abayo)」)

というわけで今回の『ウルヴァリン:SAMURAI』の音楽、
他のアメコミ実写映画とは一線を画すスコアに仕上がっております。

いい意味で音と音との隙間を感じさせる、
ベルトラミ特有のエッジィで風通しのいいオーケストレーション。
アメコミ然としたメロディーとはひと味違った、
実質2音で奏でられる究極の倹約型メインテーマ。
(2音のメロディー×2回で1セットという感じでしょうか)
一見目立ちませんが、ちゃんとメインテーマがあるスコアです。
時折ハーモニカで奏でられるメロディーがそれ。
そして『ブレイド2』の作風をさらに押し進めた和太鼓ビートが繰り出すリズム。
『X-MEN』シリーズの中でもかなり異色の部類に入る音楽ではないかと。
しかしこれが「クールジャパァァァン!!」な映像にハマるハマる。

ベルトラミは『ワールド・ウォーZ』(13)もやってるし、
リメイク版『キャリー』(13)とか『ウォーム・ボディーズ』(13)とか、
売れに売れてますね。
そのうち追加音楽を担当しているバック・サンダースやマーカス・トランプも、
映画音楽ソロデビューを果たすようになっていくのでしょう。

映画音楽の没個性化が囁かれるこのご時世、
「ちょっと聴いただけで誰の音楽か分かる」スコアを生み出し続けるマルコ・ベルトラミ。
ハリウッド映画音楽業界で貴重な存在ではないかと思います。

 

 

Mychael Danna & Jeff Danna『A Celtic Romance』好評発売中!
レーベルショップ
iTunes A Celtic Romance: The Legend of Liadain and Curithir - Mychael   Danna & Jeff Danna