『キャプテン・フィリップス』でヘンリー・ジャックマンが描く「単純じゃない世界」の音楽

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今回は『キャプテン・フィリップス』(13)の音楽について。
作曲は『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11)のヘンリー・ジャックマン。
ポール・グリーングラス作品の常連、ジョン・パウエルではありません。

まず起用されたのがパウエルではなくジャックマンだった事に驚いたのですが、
近年のパウエルはアニメ映画の作曲機会が増えてきたので、
作品傾向が若干変わってきたのかもしれません。
とはいえ、リモート・コントロール所属のジャックマンも、
過去にパウエルの作品(『ハンコック』(08)など)で追加音楽を作曲しているので、
全く繋がりがないというわけでもないでしょう。
「パウエルに作曲を依頼したらジャックマンを推薦された」なんて経緯もあったかもしれません。
(あくまで推測)

今回の『キャプテン・フィリップス』の音楽、
サウンド的にはメロディーレスで打楽器の強烈なリズムが印象的なスコアです。
強いて言うなら『グリーン・ゾーン』(10)のサウンドに近い感じ。
打楽器を多用するパウエルの音楽とも傾向が似ている印象。
よほどのサントラマニアでなければ、
音楽担当が変わった事に気づかないかもしれません。
エンドクレジットで名前を確認して初めて、
「あ、今回はジョン・パウエルじゃなかったんだ」と気づくような。

もしこの映画の音楽にメロディー的な盛り上がりを期待するならば、
本作のジャックマンの音楽は「地味」という事になると思います。
でも何度もアルバムを聴いていると、
この打楽器のビートと、ヴァイオリンの不吉な音色がクセになってくる。
『ダークナイト』(08)の”Why So Serious?”が好きならハマれる音楽です。

そして、この映画の音楽はこういう曲調でなくてはいけなかったのだと思うのです。

もしこの映画が『沈黙の戦艦』(92)のような、
「フィリップス船長がソマリア海賊を片っ端から撃退する話」だったら、
勇猛なメロディーの「フィリップスのテーマ」を作って、
「フィリップス船長=西洋的なオーケストラ」「海賊=アフリカ音楽」と色分けして、
善悪の対立構造を明確にした音楽が鳴っていたでしょう。多分。

しかしこの映画のフィリップスは普通の真面目な船長。
海賊もプロの傭兵とかではなくて、武装した元漁師。
スーパーヒーローもヴィランも不在のドラマに、どんな音楽をつけるべきか。
その答えがサントラ盤に詰まっているように思います。
言わば「ケイオス(Chaos)の音楽」。
明快さのない音楽は、そのまま世界の複雑さを表しているようにも聞こえます。
「世の中そんな単純に割り切れるものなんてない」と言っているかのように。

確かにフィリップス船長は「スーパーヒーロー」ではありません。
特殊なスキルも持ってないし、超人的なパワーも持っていませんので。
しかし危険な海域を通らざるを得ない輸送任務を全うしようとし、
「乗員・乗客の安全が最優先」という船長の責務”Duty”を守り、
(原作のノンフィクション小説のタイトルは”A Captain’s Duty”です)
乗員の身代わりに自ら人質となって、
海賊相手に粘り強く心理戦を続けて生還したフィリップス船長は、
オバマ大統領に「アメリカ人の鑑」と讃えられた、
“スーパー”ではない”リアル”な「英雄」ではないかと思います。
一般人がなかなか出来ない事を実行した、強靱な精神力の持ち主とも言えるでしょう。

アルバム16曲目の”Safe Now”は、
ジャックマンなりの「等身大の英雄を労る歌」なのかもしれません。
(ちょっと『インセプション』(10)の”Time”っぽい曲調)

ところで今回の『キャプテン・フィリップス』、
クライマックスで『ユナイテッド93』(06)のパウエルのスコアを再使用しています。
何故?という事になるわけですが、
自分なりの考えをライナーノーツにまとめてみたので、
もし興味がございましたら、サントラ盤を手にとって拙稿に目を通して頂ければと思います。

まぁ真相は「グリーングラス監督のみぞ知る」なわけですが、
こういうスコアの聴き方をしてみると、
ラストの感動も3割増ぐらいになるのではないかなと思います。
パウエルのスコアの再使用にちゃんと演出的な理由があったのだとしたら、
グリーングラス監督のセンスに脱帽でございます。

 

『キャプテン・フィリップス』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ヘンリー・ジャックマン
品番:RBCP-2722
発売日:2013/11/06
価格:2,520円

 

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