先日『シーズンズ ２万年の地球旅行』(15)のサントラ盤にライナーノーツを寄稿しました。
この映画、動物さんたちはかわいいし、
映像もキレイだし、
何より繊細かつ流麗な音楽がすごくよかったので、
なかなかいい感じでした。
…映画が始まって50分くらいは。
その後「人間」が登場するあたりになってから物語の流れが変わってきて、
「自然界が変わっていったのは森林を伐採した人間が悪い！」みたいなテーマが前面に出てくるようになって、
何だか映画の作り手側からお説教されているような気分になったんですよね…。
「人間が必要以上に自然を恐れ、全てを支配しようとした」といった内容のナレーションが流れてきたりするのですが、
映画を観ていて「一方的にそう決めつけるのもいかがなものでしょうね…？」と思ったり。
確かに人間もいろいろ地球によくないことをやってきたわけですが、
ことさら「自然を支配しようとした」わけでもなくて、
良かれと思って取った行動が、
最終的にそういう結果を生んでしまったということもあるんじゃないかなと。
「全ての物事は、人の善意から発しているものだということは、覚えておいた方がいい」
「その善意を否定してしまったら、この世は闇だよ」
…と『機動戦士ガンダムUC』のダイナーの老主人も言っていたわけですし。
まぁこの映画の監督はあの『オーシャンズ』(09)のジャック・ペランなので、
後半の説教臭い展開も推して知るべしといった感じなのですが…。
で、その説教臭さを中和するために、
日本語ナレーションに笑福亭鶴瓶を起用したのだと思いますが、
鶴瓶の関西弁ナレーションがすごく下町チックな感じで、
「２万年の地球旅行」というスケール感がなくなってしまったような気がして、
個人的にはミスキャストだったんじゃないかというような気がします。
…と、まぁことほどさように違和感が拭えなかった映画本編ではありましたが、
これだけは言わせて頂きたい。
映画本編は残念な感じだけど、
『シーズンズ ２万年の地球旅行』の音楽はとてもいいですよ！…と。
音楽担当はブリュノ・クーレ。
『WATARIDORI』(01)とか『オーシャンズ』などのドキュメンタリー映画の音楽を手掛けておりますが、
『コララインとボタンの魔女』(09)や『マリー・アントワネットに別れをつげて』(12)のような、
普通の劇映画やアニメ映画の音楽も多数手掛けているベテランです。
『シーズンズ』の音楽はオーケストラ＋隠し味にシンセを加えたタイプのサウンド。
全体的に透明感のあるキレイな音に仕上がってます。
風を受けてたわむクモの巣の映像にハープの音色を合わせてみたり、
流れる川や”つらら”を伝って滴る水の映像に、
マレット楽器っぽい澄んだ音（たぶんシンセで作ったサンプリング音源）を合わせてみたり、
自然の景色と調和した音がなかなか心地よい。
一般的にドキュメンタリー映画の音楽は淡々としたものが多いのですが、
この映画の場合、良くも悪くも「ドキュメンタリー」の範疇を超えた撮り方をしているので、
（ストーリーボードを使った撮影とか再現映像とか）
音楽もどちらかというと劇映画寄りのテイストになっているのですね。
だから程よく抑揚が効いていて聴きやすい。
なおクーレの音楽は中立性が保たれているので、
「悪者の人間たちのテーマ」みたいなあざといメロディーは出てこないのでご安心を。
なお映画のプレス資料によると、
撮影スタッフはジブリ映画の大ファンで、
ラッシュフィルムの編集作業中に『もののけ姫』と『風の谷のナウシカ』の音楽をBGMにしていたのだとか。
その話を読んでからサントラ１曲目の「The Magic Wood」を聴くと、
何となく「ナウシカ・レクイエム」っぽい雰囲気が感じられるかなーとも思いますね。
（あどけない感じの少女声ボーカルがフィーチャーされているところが）
というわけで今回の『シーズンズ ２万年の地球旅行』、
後半の説教臭い展開とミスマッチなナレーションでだいぶ損をしている感じですが、
もしかしたらこの映画、
ナレーションをオフにして映像と音楽だけで環境ビデオのようにして観れば、
また違った印象になるのではないかなーと思います。
（DVD／ブルーレイにそういう機能がつくかどうかは分かりませんが）
『シーズンズ』の音楽は”癒し系”のサウンドなので、
日常生活のリラクシング・ミュージックとしてもお使い頂けるのではないかと。
『シーズンズ ２万年の地球旅行』オリジナル・サウンドトラック
音楽：ブリュノ・クーレ
レーベル：Rambling Records
品番：RBCP-2981
発売日：2016/02/10
価格：2,400円（＋税）
