アイルランドとアメリカ、2つの国の間で絶妙なバランスを保つ『ブルックリン』の音楽。

brooklyn

移民女子のメロドラマ『ブルックリン』(15)を先日やっと観てきました。
いやーシアーシャ・ローナンお綺麗ですねぇぇぇ。
眼差しだけでも喜びや悲しみを全て表現出来てしまう演技力も素晴らしい。

演技力といえば、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(12)で検事補のボンクラ息子を好演していたエモリー・コーエンが、
今回は全くタイプの異なる純朴なイタリア移民青年のトニー役を演じておりまして、
この人も若いのになかなかの演技派だなーと思った次第です。

エイリシュが会社設立を夢見る配管工のトニーを選ぶか、
何だか資産もありそうなアイルランドのマジメ青年ジム(ドーナル・グリーソン)を選ぶか、
結構ハラハラして観てしまいました。
(ちなみに自分はトニーに共感したタイプ)

ワタクシ『ブルックリン』は映画本編を観る前にサントラを買って聴いておりました。
なぜならこの映画の音楽を手掛けたマイケル・ブルックというアーティストに以前から興味があったからです。

 

最初にブルックの曲を聴いたのは、
『ヒート』(95)のサントラに収録されたUltramarineという曲。
これでブルックの音楽に興味を持って、
初めてスコアの作曲を手掛けた『アルビノ・アリゲーター』(97)のサントラをショップでめざとく見つけて買ってみたり、
『M:i-2』(00)や『ブラックホーク・ダウン』(01)のサントラにギタリストとして参加しているのをこれまためざとく見つけてみたり、
『白い刻印』(98)や『イントゥ・ザ・ワイルド』(07)のスコア盤を買ってみたり、
結構いろいろブルックの音楽を追いかけてきたわけです。

michael brook_albums

ブルックはメロディーメーカーというより、
音響系というかアンビエント/実験音楽系というか、
「旋律」よりも「音」そのものの面白さを引き出すタイプのアーティストなので、
スコアに旋律美を求めるサントラ・ファンからの注目はそれほど多くはなかった印象です。
ところが今回の『ブルックリン』では美メロを聴かせてくれておりまして、
ブルックのメロディーメイカーとしての一面が垣間見える作品になっておりました。

ヒロインがアイルランド移民ということで、
当然音楽もアイリッシュ風味な感じなのですが、
あくまで”アイリッシュ風味”に留めてあるのがポイントではないかと。
アイルランドが舞台だからといって、
イリアン・パイプスやティン・ホイッスル、リコーダーなどを使った本格的なアイルランド音楽にはならない。

これは一体なぜだろう?と考えてみるわけですが、
劇中エイリシュは故郷の「アイルランド」と新天地の「ブルックリン」という二つの世界で揺れ動くので、
音楽がどちらかに偏ってしまってはいけなかったのではないでしょうか。
もしスコアがアイルランド音楽寄りになってしまったら、
「エイリシュにとってやっぱり故郷の方が大切なのね」と解釈されてしまうかもしれない。
新天地での生活も楽しいけど、
時々故郷が恋しくなってしまう。
そんな二つの世界の間で揺れ動く乙女心をうまく表現した、
絶妙なバランス感覚の音楽だなーと思いましたね。。

そんなブルックのバランス感覚は楽器の編成にも表れていて、
ヴァイオリン・ソロとマンドリン(その他ギターなど)というアイルランドを連想させる楽器と、
クラリネットとアップライト・ベースというアメリカを暗示する楽器を、
スコアの中でうまく使ってます。
アイリッシュな旋律を奏でるヴァイオリン・ソロの演奏は、
マイケル・ブルックの奥様(ジュリー・ロジャース)だそうです。
たぶんこの旋律が「エイリシュのテーマ」ということになるのでしょう。

1950年代の話なので音楽もアコースティックで古風なスタイルですが、
ピアノの音の響かせ方が時々アンビエント・ミュージック風だったりして、
このあたりはブルックらしいなぁ、と思ったりもしました。
(ブルックはReal Worldや4ADなどのレーベルでブライアン・イーノとも仕事をした人です)

 

マイケル・ブルックは重いテーマの映画や難解な映画の音楽を手掛けることが多かったのですが、
(『白い刻印』と『アルビノ・アリゲーター』はマジで観ていて憂鬱になりましたよ…)
『ブルックリン』では瑞々しくて、爽やかで、ポジティブさも併せ持った音楽を書いていて、
ああ、こういうブルックの音楽もいいなぁと思いました。

サントラ盤は全24曲で収録時間は40分弱。
モダンなアイリッシュ・テイストの音楽が心地よいアルバムになっております。
そしてもしこの映画をご覧になって、
もっとアイルランドのルーツに根ざした音楽を聴いてみたいと思った方は、
是非ぜひ弊社リリースのアルバム「ケルティック・ロマンス」を聴いて頂ければと思います(↓)。

 

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