作曲家ハリー・グレッグソン=ウィリアムズの魅力が凝縮された 『ブレス あの波の向こうへ』のメロディックな音楽

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『ブレス あの波の向こうへ』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。

音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ(以下HGWと略)。
『イコライザー』(14)、『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』(16)に続いてのライナーノーツのお仕事だったので、
90年代後半からのHGWマニアのワタクシとしては大変嬉しいお仕事でした。

大作映画への登板が多いHGWが、
低予算のオーストラリア映画に招聘されるというのはちょっと意外でしたが、
このへんの経緯についてはライナーノーツの中で自分なりに考察してみたので、詳しくは拙稿をご覧頂ければと思います。

さてHGWといえばハンス・ジマー主宰の「メディア・ベンチャーズ(現リモート・コントロール・プロダクションズ)」出身の作曲家として知られておりますが、現在は自分のスタジオを持っているようなので、おそらくRCPからは独立しているのではないかと。
ちなみにHGWと同じ時期にRCP入りした『ヒクドラ』シリーズの作曲家ジョン・パウエルも今は独立してます。

HGWは90年代後半~2000年代前半あたりに「ジマーさんインスパイア系」の音楽を聴かせていたけれども、一時期から音楽の傾向が少し変わってきて、たぶんRCPから独立したのもその頃なんじゃないかなと思います。

 

HGWの音楽が具体的にどう変わったのかというと、
まぁワタクシなりの印象を述べさせて頂くならば、
「書き込みすぎないスコア」になったかな、と。

音が分厚くなりすぎないように音数を絞って、
厳選されたメロディ(モティーフ)をしっかり聴かせる。
特定のシーンに音楽でベッタリと色をつけるのではなく、
最も効果的と思われる箇所に色を添える感じでスコアを聴かせる。
そんな感じのスタイルになったような印象。
(『イコライザー』も、たぶん10年くらい前だったらもっと派手なスコアになっていたと思う)

で、そんなHGWの「書きすぎない(やりすぎない)音楽」は、
本作のような繊細な青春ドラマで効果を発揮するというわけなのです。

 

ワタクシが聴いた感じとエンドクレジットの情報から考察すると、
本作のスコアは「ストリングス+各種ソロ楽器(ギター、ピアノなど)+電子音少々」といった構成。
ストリングスも大所帯ではなく、室内楽規模ではないかと思います。
で、メインテーマのメロディがヴァイオリンやヴィオラ、チェロで繰り返し演奏されるのですが、
まずこのメロディがすごくキレイで思わず聴き惚れてしまうのです。

そして主人公の少年二人(パイクレット&ルーニー)が初めてサーフィンに挑戦した波に乗れた時、
メインテーマの旋律がエレクトリックギターで演奏されるのですが、
このギターロック風のアレンジが最っ高にカッコイイ
「同じメロディがアレンジひとつでこうも印象が変わるものなのか…!」と結構驚きます(ちなみにサントラ盤5曲目の”Outside Sawyer Point”という曲)。
映画の最後にもう一度このギター主題が流れるのですが、
それがまた切なくもポジティブな余韻に浸らせてくれましてね…。
エンドクレジットで歌モノを流したのでは味わえない、深い感動を与えてくれています。こちらはサントラ盤20曲目の”It’s Not For Me”という曲。

海中シーンの時の流れが遅くなったようなアンビエント・ミュージック風のスコアもいいし、
少年たちの日常を描いたシーンのハートウォーミングなスコアもいい。
パイクレットが挫折したり悩んだりするシーンの切ないスコアにも胸がキュンとなる。

超大作映画とかじゃないからあまり話題になっていませんが、
『ブレス あの波の向こうへ』は近年のHGW作品の中でも傑作に入るのではないかと思います。
(もしかしたら『イコライザー2』(18)より優れたスコアと言えるかもしれない)

『ブレス あの波の向こうへ』の音楽の良さについては、
後日BANGER!!!でも詳しく書く予定なので、
そちらも併せてご覧頂ければと思います。

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音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
レーベル:Rambling RECORDS
発売日:2019/07/10
品番:RBCP-3324
価格:2,400円(税抜)

 

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