30 days of night

109シネマズ富谷でヴァンパイア・ホラー『30デイズ・ナイト』(07)を上映中という事で、
富谷はウチから遠いしなぁ、観に行こうかなぁ、どうしようかなぁ悩んだのですが、
結局観に行ってきちゃいました。

30日間太陽が昇らなくなるという、「極夜」のシーズンを迎えたアラスカ州の小さな町
バロウ。そこへ「人間狩り」にやって来たヴァンパイアご一行様相手に、町の住人が
壮絶なサバイバルを強いられる事になる、というホラー映画でございます。いわゆる
ジョン・カーペンターが得意とする「空間限定型スリラー」というジャンルに該当する
でしょうか。個人的には、期待を裏切らないなかなかの佳作でした。

ヴァンパイアが町を停電させたため、全編ほぼ真っ暗闇の中で人間狩りの地獄絵図が
繰り広げられるのですが、「真っ暗で何も見えねぇよ!」ってな映像が延々続いた
『エイリアンズvsプレデター』(07)と違って、闇の中でも誰が何をやっているのかちゃんと
見えるところが素晴らしい。このへんが監督/プロデューサーのセンスの差なんだろうなぁ。
(ちなみに監督は『ハード キャンディ』(05)のデヴィッド・スレイド、製作はサム・ライミです)
黒と青を基調とした闇の描写、雪の白、血の赤が織りなすダークな色彩感覚も格調
高くてよい感じ。

演出面でもなかなか光るものがありまして、この手の映画に欠かせないゴア描写も
さることながら、思わず息が詰まるような心理的な怖さの煽り方が秀逸。ヴァンパイ
アがいつ、どのタイミングで襲ってくるか分からないし、キャスティングが絶妙なので、
誰が生き残って、誰がいつ襲われて死ぬかも予測がつかない。これが映画にヒリヒリ
した緊張感を持たせていて、(いい意味で)気の休まる暇がない。これがいいんです。

主人公の保安官エバンを演じたジョシュ・ハートネットも、「らしさ」が出ていて良かった
と思います。勝ち目のない戦いに身を投じる悲壮感とか、心ならずもヴァンパイア化
した仲間を手にかけた(しかも斧で斬首だもんなぁ・・・)後の絶望的な表情とか、この
あたりは『ブラックホーク・ダウン』(01)のエヴァースマン役を彷彿とさせます。まさか
ホラー映画で涙腺を刺激されるとは思いませんでしたわ(ラストのシーンで)。

エバンと離婚協議中の妻ステラを演じるのは『悪魔の棲む家』(05)のメリッサ・ジョージ。
薄幸そうな美しさにグッと来ます。『ヴァンパイア 最期の聖戦』(98)ではヴァンパイア・
ハンターの割に前半であっさり殺されたマーク・ブーンJr.(ムサいオッサンのボウ役)が
今回は大活躍。最後に男気溢れる死に様を見せ・・・ようとするんですが、結局失敗して
しまうカッコ悪さがこの人の持ち味かな、と思ったり(笑)。脇役キャラの生き様に注目
してみても面白いですぞ。

さてそんな本作の音楽なのですが、無調音と不協和音、歪んだギター音とエネルギッ
シュなパーカッション演奏で構成された、ブルータルかつバーバリックなサウンド。
メロディーというものが全く存在せず、そもそも始めからメロディーを聴かせようという気が
全くない「音響系」のスコアに仕上がってます。

こういう曲を一体誰が書いたのかと思ったら、ブライアン・レイツェルというこれまた意外な
人選。元レッド・クロスのドラマー、ソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』(06)や
『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、マーク・フォースターの『主人公は僕だった』(06)の
音楽プロデュース、AIRのサポート・ドラマー、ジェイソン・フォークナー、ロジャー・ジョセフ・
マニングJr.とのバンド「TV EYES」結成など、オシャレ系な印象のレイツェルがまさかホラー
映画のサントラを担当するとは。

音楽的には面白いかもしれないけど、商業的にCD化はキツイだろう・・・と思いきや、実は
サントラ盤が存在していたりします。しかも、マイク・パットンのレーベルIpecacからの
リリース。パットン恐るべし。

アルバムのブックレットには、参加ミュージシャンや使用した楽器の一覧が掲載されて
いるのですが、レイツェルの担当した楽器の数が凄いんですよ、コレが。Sonor Drum Kit、
Boomywang、Englehart Metal Percussion、Monomachine、Syndrum、Circulsonic
Death Tube・・・などなど。楽器の形も音も容易にイメージ出来ません。プリペアード系
の楽器を多く使っているのがポイントかな、と思います。

アルバム単体で聴くにはかなりツライ音楽ですが、映画のヴィジュアルには見事に
ハマってます。ま、非常にクセのあるサウンドなので、強くはお勧めできませんが・・・。

  

トランスポーター3 アンリミテッド

先週仕事で忙しくて観に行けなかった『トランスポーター3 アンリミテッド』(08)をようやく鑑賞。

個人的にこのシリーズは嫌いじゃない(というか、好き)なので、それなりに楽しんで観たのですが、なぁぁんか今回は乗り切れない部分がありました。ま、前作『トランスポーター2』(05)のやりすぎアクション描写が面白すぎたというのもありますが、見せ場でハジケっぷりがちょっと足りなかった印象です。

それでもジェイソン・ステイサムは相変わらず頑張っているし(スーツ姿のままチャリンコでアウディをチェイスするシーンが出色)、カースタントもイカすのに何でかなー、と思ったのですが、やっぱり既にあちこちで書かれているように「ヒロインに魅力がない」という部分が大きいようです・・・。

何というか、ハスッパなの。聞けば今回のヒロイン・ヴァレンティーナを演じたナターリア・ルダコワは、NYのヘアサロンで美容師として働いていたところをリュック・ベッソンにスカウトされて、演技のレッスンを6ヶ月受けてこの映画のオーディションに参加して役をゲットしたそうな。ま、早い話がベッソンにナンパされたという事ですかね。ホントにベッソンはこういうハスッパ系の女子とかモデルが好きなんだなー、と改めて思いました。

ステイサム演じるところのフランク・マーティンは、己に厳しいルールを課して仕事をこなす、ある意味「ストレート・エッジ」な男なので色恋沙汰もNGなんですが、今回はそのルールを破ってしまいます。だから今回のヒロインは「あの禁欲主義的なフランクですら虜にしてしまう程の美貌の持ち主」でなければいけないと思うのですが、ルダコワさんではちょっとその点で説得力に欠けるかな、と。

前作で色っぽい人妻(アンバー・ヴァレッタ)の甘ーい誘惑にギリギリのところで耐えたフランクなのに、何故この人で?? ・・・と思ってしまうんだなぁ。1作目のスー・チーも可愛かっただけに、なおさらそう思うのです。そこらへんがちょっと残念な3作目でございました。ま、ベッソンさんも映画を作る時は公私混同も程々にお願いしますぜ、って感じです。

しかしそのマイナス面を補ってくれるのが、我らがロバート・”ティーバッグ”・ネッパーの怪演でございます。『プリズン・ブレイク』のねちっこい爬虫類的な演技ともひと味違った、洗練された悪役演技を見せてくれます。ネッパーさん、売れっ子になって嬉しい限りです。スーツも似合うし、意外な事に今回はなかなかカッコイイです。日本語吹替えも若本規夫氏で決まりだぜ。

さて本作の音楽はというと、前作に続いてアレクサンドル・アザリアが担当してます。1作目の音楽担当としてクレジットされているのはスタンリー・クラークですが、アザリアもREPLICANT名義で楽曲提供しているので、実質全シリーズの音楽を担当している事になります。例の耳に残るテーマ曲も使われていて、アクション・スコアとしても聴き応えアリ。ハリー・グレッグソン=ウィリアムズとか、ブライアン・タイラーの音楽をフランス風に味付けするとこんな感じになるのかな、というタイプのサウンドです。

サントラ盤はフランスのWagramというレーベルから発売になっていますが、ランブリング・レコーズさんが日本での販売を担当しています。なので、地方都市のCDショップだと入手困難なフランス盤も比較的容易に入手可能です。

Eveが歌うエンドクレジット曲”Set it on Fire”やHoly Golightlyの”Wherever You Were”、Tricky、Birdy Nam Nam、Benjamin Thevesの楽曲も収録した全17曲。とりあえずアクション・スコア愛好家の方は押さえておきたい一品かと。

『トランスポーター3 アンリミテッド』オリジナル・サウンドトラック
音楽:アレクサンドル・アザリア
品番:RBCX-7360
定価:2,625円

  

LOST:Season 4の音楽

シーズン4の製作時期は、例のアメリカ脚本家組合のストライキがあったため、1シーズンの
話数が14話に短縮されるという事態に陥ったそうなのですが、これがプラスに働く事もあったり
するので、世の中何があるか分かりません。

「シーズン6でドラマを完結させる」とプロデューサーが決断した事から、どうやら話をムダに
先延ばしをする必要がなくなったようですな。シーズン3の最終話で登場した「フラッシュ
フォワード」を積極的に活用し、島を脱出した生存者の「未来の姿」を描き、恐らく今まで
ネタを温存していたであろう島の秘密も惜しげもなくバンバン露出させ、ドラマ展開が断然
スピーディーになりました。ゴチャゴチャしていた人間関係も割と整理されてきたし、何となく
薄れかけていた『LOST』熱が、自分の中で蘇ってきたシーズンでございました。

今回はジアッキノのスコアもかなりイイ感じです。「『LOST』のスコアは音だけ聴いてもあん
まり面白いタイプの音楽じゃないよねー」という声をよく聞くのですが、いやいやそんな事は
ありませんって。特に今回はメロディアスな楽曲が比較的多かったため、個人的にはファー
スト・シーズンに勝るとも劣らない名盤ではないかと思ったぐらいで。

ドラマ系スコアでは、何と言っても第77話「定数」のクライマックスで流れる”The Constant”が
出色。デズモンドとペニーの一途な愛を美しく彩る名曲です。ちなみにジアッキノはこの曲で
エミー賞にノミネートされました。

あと、今回のアルバムでは”Lost Away — Or is It”や”Nadia on Your Life”など、サイードの
テーマの哀愁のメロディーが結構目立った使われ方をしています。そういえばシーズン4は
彼も結構目立った活躍をしていましたねー。

しかし、やはり特筆すべきはシーズン最終話”There’s No Plece Like Home”(「オーシャニック
6」、「基地オーキッド」、「帰還」の3話)のスコアでしょう。銃撃戦あり、爆弾解体サスペンスあり、
貨物船からの脱出劇あり、帰還を果たす感動のドラマあり・・・と、ジアッキノのスコアもドラマを
盛り上げまくり。ジャックたちが島から生還するシーンのスコア”Landing Party”は、シーズン1の
“Parting Words”に匹敵する美しさ。やっぱりこのドラマの音楽はすごい。

・・・というわけで、シーズン4のサントラ盤はランブリング・レコーズさんから8/26発売です。
ファンなら買いの逸品。フルオケ音楽の深い味わいをご堪能下さい。

『LOST Season 4』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ジアッキノ
品番:GNCE7062
定価:2,625円

 

LOST:Season 3の音楽

さてさて、13日の午後に東京から戻って参りました。映画のマスコミ試写が2本あったの
ですが、これから原稿を書くので、詳しくは落ち着いてからまた後ほど。本日は『LOST』の
シーズン3について少々。

・・・などと書いてみたものの、実はあまりシーズン3は印象に残っていなかったりします。

何というか、前半から中盤あたりまでドラマのテンポが悪くて、ドラマを見ながら「早くメインの
話を進めて下さいよー」と何度思った事か・・・。個人的にはなかなかキツいシーズンでした。
聞けばシーズン3は中盤から視聴率の低下が顕著で、シリーズ最低の数字を記録した
そうで、ま、それも無理ないかな、と思ったりするわけです。

謎を次から次へと提示する割には、解決される要素が少ない。フラッシュバックで見せる
登場人物たちの過去の繋がりも、何だかこじつけっぽい感じになってきたし(ロックの父親が
実はあの人と因縁があった、という展開はどうなんだろう)、第63話「エクスポゼ」に至っては
本筋と全然関係ないエピソードだったし、何だか「ドラマの引き延ばし」感が気になってきたのも
このシーズンでした。

と、まぁ間延びした印象を受けるシーズン3なのですが、生存者たちと他のものたちが全面対決
する後半からかなり盛り返してきました。そしてシーズン最終話で披露するあの手法。一瞬、
何があったのかと思いましたが、少なくとも夢オチとか「実は全員死んでいた」系のオチで片付
ける事はなさそうなので安心しました。ま、今更それをやったら視聴者は間違いなく激怒する
でしょうけれども。

さてシーズン3のサントラ盤なのですが、何とCD2枚組です。そのうちDisc-2はシーズン3の
ラスト3話「グレイテスト・ヒッツ」、「決行」、「終わりの始まり」で使われたスコアが収録されて
ます。なかなかの大盤振る舞い・・・なのですが、CDを聴いて思ったのは、「収録曲が多ければ
いいってもんでもないなぁ」という事でした。ドラマの前半はあまり気を入れて見ていなかった
ので、CDも聴くのはもっぱらDisc-2の方でした。

シーズン3のサントラ盤は国内盤としてのリリースがなかったのですが、これはドラマの
視聴率の落ち込みと、「CD2枚組」という構成に伴う製作費の問題があったんだろうなと
思います。もしこのシーズンが高視聴率で、DVDの稼働率も高かったら、国内盤が出ていた
かも分かりませんけど。

そしてドラマはシーズン4へと進んでいくわけですが、今度のシーズンはドラマ展開がスピー
ディーかつメリハリの効いた感じで実に面白いです。いやー、持ち直してよかったよかった。

(まだまだ、つづく)

  

LOST:Season 2の音楽

というわけで、今回は先日のブログでご紹介した『LOST』の続き。
シーズン2の話でございます。

シーズン1の最終話で、助けを呼ぶためにイカダで島を出たソーヤー、ジン、マイケル、
ウォルトの4人。しかし海上で「他のものたち」に襲われて島の海岸に流れ着き、そこで
815便の後部座席に登場していた生存者たちと対面する事になる、というのが序盤の
展開でしたっけ。

で、その後部座席の人たちというのがロス市警のアナ・ルシア、ヤクザ神父のミスター・
エコー、臨床心理士のリビー、歯科医のバーナードといった割とアクの強い面々だった
わけですが、大半がシーズン2(及びシーズン3の序盤)で死んでしまいましたなぁ。
今も活躍してるのはバーナードぐらいか?先日のシーズン5の放送で、アナ・ルシアが
チラッとゲスト出演してましたが。

個人的にはジャックとソーヤーが気に入っているので、彼らの活躍(あるいは行動)に
特に注目しているのですが、最初のシーズンに比べてソーヤーが徐々にいいヤツに
なりつつあるのが興味深かったです。「斜に構えた皮肉屋だけど、実はいい奴」という、
ドラマ的に一番オイシイ役柄。戦隊ヒーロー物で言うところのブラックのポジションですね。
ジャックとソーヤー、ケイトの三角関係を見ていて『鳥人戦隊ジェットマン』を思い出しました。
あれもレッドとブラックがホワイトを取り合う話でしたからね。

放送当時はそれほどでもなかったのですが、最近TVで覚せい剤事件のニュースを見て
ますと、チャーリーのエピソードが実に興味深いものになってきます。落ち目の芸能人や
ミュージシャンがなぜクスリに走るのかとか、禁断症状はどんなものなのかという描写の
リアルさもさることながら、ドラッグってもんは、せっかく掴みかけた幸せも一瞬でフイに
しちまうものなんだなぁ、と痛感してしまうチャーリーの墜ちっぷりが実に悲しい。

さてシーズン2のサントラは、ライナーノーツの原稿締切が最終話(48、49話)の放送前
だったので、曲タイトルをどうしたものかと死ぬほど悩んだ記憶があります。

“I Crashed Your Plane, Brotha”という曲は「ああ、デズモンドのセリフだなー」と本編を
見ていなくてもすぐ分かったのですが、防護服に身を包んだインマンの登場シーンの曲
“Toxic Avenger”なんて、どんなシーンの曲だか全くイメージ出来ませんでした。「何で
ここで『悪魔の毒々モンスター』の原題が出てくるんでしょうね?」とランブリング・レコーズの
Mさんと話したくらいです。多分、防護服=Toxic=毒々モンスターという言葉遊びだったん
でしょう。余談ですが、『LOST』のサントラは毎回”言葉遊び”の入った曲タイトルが多く、
なかなかレコード会社泣かせ&ライター泣かせな作品でございます。

音楽の雰囲気はシーズン1とほぼ一緒。やや内省的なスコアが増えたかもしれません。
ギターでGrant-Lee Philipsが参加している点が、コアな洋楽ファンにはポイント高いかと。

(まだ、つづく)

『LOST Season 2』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ジアッキノ
品番:GNCE3068
定価:2,625円