マックス・ペイン

レコード会社にライナーノーツ原稿を送って、午後にぽっかりと時間が
空いたので『マックス・ペイン』を観てきました。

「妻子を殺された男の孤独な復讐劇」というノワール映画では定番の
ストーリー展開でございまして、黒幕の正体も案外すぐ分かります。
彩度を極限まで落としたモノクロのような映像は結構イケますが、
まぁ「ビデオゲームの映画化作品」という、それ以上でもそれ以下でも
ない映画かな、というのが個人的な感想です。

ちなみに『007 / 慰めの報酬』(08)のオルガ・キュリレンコが出てますが、
クレジットは「and OLGA KURYLENKO」なので、出番は前半数分です。
「キュリレンコたんハァハァ」な方は、過度な期待はしない方がよろしいかと。

そういえば、マーク・ウォールバーグはこの映画と『ハプニング』(08)で
ラジー賞にノミネートされたんだっけ。そこまで酷い演技じゃないので、
これはちょっと気の毒だと思うのですが。

とまぁ、あまり語るべき所のない映画だったのですが、音楽はなかなか
野心的な試みが随所に感じ取れましたので、ここでご紹介させて頂きます。

作曲は『フライト・オブ・フェニックス』(04)、『オーメン』(06)に続いて
ジョン・ムーア監督とタッグを組んだマルコ・ベルトラミ。ワタクシも
前述の『フライト・・・』や『ダイ・ハード4.0』(07)のサントラ盤で何度か
インタビューでお世話になった方です。

サントラ盤のライナーノーツによると、マルコさんはこの映画のモノクロ風味の
映像にインスパイアされたそうで、映画の冒頭でマックスが水の底に沈む
シーンを見て「デチューンド・ピアノ(プリペアード・ピアノみたいなものか?)を
使おう!」と思ったそうです。

で、調律師を呼んで何度も何度も音階を調節したそうです。調律師が
「今までこんな高価なピアノを調律した事はなかったよ!」と言ったとか。

アクション・シークエンスではアナログ・シンセを使い、マックスが機械のような
冷徹さで悪党を「処刑」していく様を描いてみたという事です(意訳ですが)。

・・・というわけで、映画のビジュアルに相応しい、フリーキーで甘さのない
ザラついた質感の音楽に仕上がっております。こういう音は結構好きかも。

マルコさんという方はホラー映画への登板が多かったせいか、才能の割に
過小評価されている印象があるんですよねぇ。
割と義理堅い感じのナイスガイなので、個人的に応援している作曲家の
ひとりでもあります。これからも頑張ってほしいですな。

ちなみに『マックス・ペイン』のサントラ盤はLa-La Land Recordsから
輸入盤が出ています。

あ、そうそう。この映画、エンドクレジット後にオマケの映像があります。
映画をご覧になるなら、せっかくだから最後まで席を立たずに観ていきましょう。

   

Live at the Troubadour

発売日当日に買ったものの、ダリルファンのウチの親が独占していて
なかなか見る機会がなかった『Live at the Troubadour』のDVDを先日鑑賞。

この公演の模様は去年の11月にライヴ盤が出ていたのですが、CDに同梱のDVDは
リージョンコードの関係でウチのプレーヤーでは見られなかったんですよねぇ。

そんなわけで、こうしてDVDを国内仕様にローカライズしてくれたビクターエンタ
テインメントさんには感謝・感謝でございます。

サポートメンバーはTボーン・ウォルク(g)、マイク・ブラウン(dr)、ゼヴ・カッツ(b)、
エリオット・ルイス(key)、エヴェレット・ブラッドレー(Per)、そして我らが「Mr.カジュ
アル」チャーリー・デシャント(sax)という面々。

アコースティック主体のアレンジとメンバーの顔ぶれ、それと会場の狭さのせいか、何となく
Live from Daryl’s House」の延長線上にあるようなノリですな。観客のかけ声に
応えたり、「Getaway Car」のラストで演奏をミスった時に

ダリル:「しくじったな?お前か?(ニヤニヤ)」
Tボーン:「僕だ。さっさと始めてくれ!(ニヤニヤ)」

とか言ったりするリラックスしたムードがまた「楽しそうでいいなぁ」と思ったり。
「みんなの前で演奏するのが楽しくてしょうがないんだ!」と言っているような
雰囲気がすごく伝わってくるんですよ。これが実にイイ。

ダリル・ホール&ジョン・オーツがヒット曲を連発して「史上最高のデュオ」と
称された80年代から30年近く経つわけですが、ちっとも老け込んだ感じが
なくて、演奏している姿が実に若々しいんですな。その一方で、歌唱に
円熟味が増していて、「When the Morning Comes」とか「Abandoned
Luncheonette」のような70年代の曲を歌った時に、より深みが加わって
いるのが実に素晴らしいです。

チャーリーさんも結構見せ場がありまして、「Maneater」の間奏パートをオーツの
ギターと一緒に共演してみたり、「I Can’t Go For That (No Can Do)」の中盤から
後半にかけて、お約束の即興演奏をノリノリで披露してみたり(この方がバンドの
主役になる時間ですな)、いや実にイカすおじさまです。

ワタクシぐらいの「デシャンティスト(=DeChantist。チャーリーさんのファン)」に
なると、この方がサックスを吹いていない時に何をやっているんだろう、と
つい注目してしまうのですが、よく見ていると結構面白いですぞ。

所在なげにぽけーっと立っていたり、リズムに合わせてのっそり踊っていたり、
「Private Eyes」でやけに楽しそうに手を叩いていたり、陰でいろいろやってます(笑)。
カメラアングル的に言うと、ダリルさんの右斜め後ろにいるので、結構映っている
シーンが多いんだな、これが。

手元にDVDがある人は、今すぐ「癒し系」チャーリーさんの行動をチェック!

『ライヴ・アット・ザ・トルバドール』

Artist:ダリル・ホール&ジョン・オーツ
品番:VIBP-103
定価:4,800円

DVD仕様:COLOR / NTSC/ 画面サイズ:16:9/
       リージョンコントロール:2日本 / ドルビーデジタル /
ステレオ / 5.1ch サラウンド / オリジナル(英語)

  

『Like the Weather』遂に完成!


某サントラ盤のライナーノーツ原稿の〆切りが近いにも関わらず、
日中レッスルマニア25を見ながらぼけーっとしていたところ、
プレス工場から待望の『Like the Weather』の完成品が届きました。

おお、これは予想していた以上によい仕上がりじゃありませんか、
などと手前ミソながら思ってしまいました。いや本当に。

製作初期の段階で、チャーリーさんから「いやー、あちこち探したんだけど
オリジナルのジャケット・データが見つからないんだよねぇ」と連絡を貰って、
チャーリーさんから送ってもらった撮り下ろしの写真を使ってジャケットを
1から作り直したのも、今となってはよい思い出です。

ま、オリジナルのCDのジャケットに使っていた写真は解像度が低いものが
多かったので、今回のリイシューでその点は解消出来たかなと。

完成品が届いてから(製品チェックも兼ねて)CDを聴き直したのですが、
いやー、どの曲もメロディアスでクオリティ高いです。改めて感動。

ジャズをベースにしつつ、ホール&オーツ的なソウル・ミュージック(「ロッ
クン・ソウル」とでも申しましょうか)のテイストを随所に感じさせるサウンドが
最高です。『Live at the Troubadour』の演奏も良かったもんなぁ。

・・・というわけで、製品も出来上がってきた事ですし、来週ぐらいには
レーベル通販サイトで予約受付を開始出来るようにしたいとなぁ、思っています。
何曲かダイジェスト試聴も出来るようにする予定なので、もうしばらく
お待ち下さい。

ちなみに発売日は5月24日に決まりました。通販サイトの情報を
更新したら、こちらのブログで追ってお知らせします。

どーでもいい事ですが、ミッキー・ロークに見事にKOされたジェリコさん。
ナイスパフォーマンスでした(笑)。

  

『MILK』の音楽について

お待たせしました(別に待ってないか)。
今回は『ミルク』(08)のサウンドトラックについて。

このところガス・ヴァン・サントは既製曲のコンピレーションを中心とした
サントラを作っていたのですが、『ミルク』では久々にオリジナル・スコアが
つきまして、ダニー・エルフマンとタッグを組んでおりました。

1998年の『サイコ』以来の顔合わせだなぁ、と思ったのですが、あの映画の
音楽はバーナード・ハーマンの曲を完全カヴァーした構成だったので、
エルフマン書き下ろしのオリジナル曲となると、前年の『グッド・ウィル・ハン
ティング 旅立ち』(97)以来という事になるわけです。

今回の『ミルク』では、あのエルフマン独特のケレン味をぐっと抑えたシックな
装いのオーケストラ・サウンドを披露しています。
ハーヴィー・ミルクのパーソナリティをそのまま反映させたような、全体的に
優しげで控えめな感じと申しましょうか。切なくてやるせないけれど、どこか
希望を感じさせてくれるサウンドです。

特に23曲目から25曲目の展開は、映画本編を見た後に聴くとかなり泣けます。
実際、久々に聴いたら映画の終盤のシーンを思い出して目頭が熱くなりました。

あの名作『シザーハンズ』(90)のラストシーンのような、静かな感動を呼び
起こしてくれる名曲というか何というか。
やっぱりスラムドッグなんたらより、『ミルク』が作曲賞を獲るべきだった
ような気がします(今更ですが)。

アルバムにはエルフマンのスコア22曲に加えて、70年代当時のヒット曲が
6曲収録されています。聴き所はSylvesterの「You Make Me Feel (Mighty
Real)」でしょうか。このシルヴェスターという人、いわゆるドラァグ・パフォー
マーでして、ゲイのディスコシンガーだったんですな。で、ミルクの誕生
パーティーで実際にこの曲を歌った事もがあるのだそうです。

映画でもそのシーンがそっくりそのまま再現されていて、ケバケバしい
格好をした歌手がファルセット・ヴォイスでこの曲を熱唱しておりました。
シルヴェスター本人は1988年にAIDSで亡くなっているので、映画に
登場するのは彼に扮したそっくりさんなのですが。

差別や偏見と闘うマイノリティの人々の物語に、Sly & The Family Stoneの
「Everyday People」を持ってくるあたりも実にニクい選曲です。

ただ、スウィングル・シンガーズの「プレリュード第7番(バッハ)」をあの
シーンに持ってくるというのは、本気でやっているのか笑いをとるために
やっているのか、ちと判断しかねます。ガス・ヴァン・サントも屈折した
ユーモアセンスの持ち主だからなぁ。ま、このあたりは映画を観た人の
感性にお任せしますって事ですかね。

CDにはその他にもDavid Bowieの「Queen Bitch」やThe Hues Corporationの
「Rock the Boat」、The Sopwith Camelの「Hello, Hello」を収録。
ハズレなしのナイス選曲です。

それぞれのアーティストについてはCDのライナーノーツでざざーっと
紹介させて頂きましたので、ぜひぜひご覧頂ければと思います。

サウンドトラック盤はユニバーサルミュージックより今月15日発売。
慈愛に満ちたエルフマンの音楽をご堪能あれ。

『ミルク』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ダニー・エルフマン & Various Artists
品番:UCCL1140
定価:2,500円
  

MILK


数日前、ユニバーサルミュージックのMさんから『ミルク』のサンプル盤を
送って頂きました。どうもありがとうございました。そういえば、映画の公開も
そろそろだったなぁ。

カレンダーを調べてみると、ワタクシがこの映画を試写で見たのは1月29日でした。
その時点で既にあらゆる映画賞を受賞していて、何だかスゴイ事になって
いるらしいという事で、ユニバーサルさんも配給会社さん(ピックス)も宣伝に
ヒジョーに気合が入っていたのを思い出しました。

で、本編を見た感想はというと、こりゃ確かに見応えのある映画だわ、と。
同性愛者としてアメリカで初の公職に就いた政治家の物語という事で、
実はワタクシこの手のテーマがちょっとばかり苦手だったんですが(ミルク
とスコット・スミスの馴れ初めのシーンとか・・・)、その点を差し引いても、
本当に素晴らしい映画だなと思いました。

このハーヴィー・ミルクという人は「同性愛者の人権解放」を目指して奮闘
していた政治家だったのですが、それ以外にも高齢者や労働者、女性
といった1970年代当時まだまだ社会的立場が弱かった人々のために
尽力した人でもあったのです。そんな彼の誠実さがまた涙を誘うんですよ。

グダグダ感の漂う今の日本の政界を見ていると、「こういう世のため人の
ために尽くしてくれる政治家はいないのかなぁ」などと思ってしまいます。

1960年代から70年代のアメリカといえば、リベラルな思想に憧れる人が
出始めてきた反面、まだまだ保守的な色合いが強い時代でもありました。
そんな中で同性愛者である事をカミングアウトするというのは、相当
リスキーかつ勇気の要る事だったんだろうな、と思います。この映画で
描かれているように、カミングアウトは命に関わる問題だったのでしょう。

この映画を観ると、いわゆる「保守派」と呼ばれる人たちの考え方とか、
その根底にある思想がよく分かるので、そういう意味でもなかなか
興味深い作品になっています。アメリカという国は、今も昔も両極端な
ところがありますな。

さてそのミルクを演じたショーン・ペンなんですが、ナヨっとした仕草とか、
やけに柔和な笑顔とか、見事にゲイになりきっておりまして、あの変わりっ
ぷりは『カリートの道』(93)の薄毛の悪徳弁護士役以来の衝撃でした。

ショーン・ペンといえばやれパパラッチを殴っただの、オリヴァー・ストーンを
「ブタ」呼ばわりしただの、数々の武勇伝(笑)を持つワイルドなお方ですが、
そんな粗暴な一面など微塵も感じさせない役作りは、確かにオスカーに
値する演技なのかな、と思います(「完璧に別人になりきった」という意味で)。

ホントは今年のアカデミー賞主演男優賞はミッキー・ロークに獲ってもらい
たかったんですが、まぁ相手がペンなら仕方がないか、と。

ガス・ヴァン・サント監督作品といえば、サントラも毎回秀逸な出来なのですが、
話が長くなってしまったので、音楽については後日改めて書かせて頂きます。