ケン・ローチ監督作『家族を想うとき』(19)や『恋はデジャ・ブ』(93)の音楽で知られる英国の作曲家、ジョージ・フェントンが2026年10月19日に亡くなったとのこと。
George Fenton, Oscar-nominated British composer for more than 100 films, dies aged 76 | The Guardian
享年76。映画音楽家はどちらかというとご長寿の方が多いので「まだ早いよフェントンさん…」と思ってしまう。
まだまだ映画界の第一線で活躍できるお年だったと思うし、仮に第一線でのお仕事の機会が減っても、英国映画音楽界の重鎮、あるいはご隠居さんとしてもっと長生きして頂きたかった。

Groundhog Day (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music
当方が初めてフェントンのサントラ盤を買ったのは1990年代。記念すべき購入第1号のアルバムは先述の『恋はデジャ・ブ』でした。映画が面白くて何度も観たから「じゃあサントラも買ってみるか」と思って買ったんじゃなかったかな。フェントンの音楽に興味を持ったのはそこからでした。
オーケストラを使った劇伴なのだけれどもポップな作りで聴きやすい。ちょうどサントラにハマりだした頃だったので「ジョージ・フェントンという名前を覚えておこう」と思ったものです。
で、当時はインターネットなんてまだなかったから自力でフェントンのことを調べていったわけですが、そうするとリチャード・アッテンボローやケン・ローチ、テリー・ギリアム、ニール・ジョーダン、ニコラス・ハイトナー、スティーヴン・フリアーズら錚々たる英国映画監督たちと仕事をしている音楽家だと分かりました。
アッテンボローとは晩年までずっとタッグを組んでいたし、ローチやハイトナーともつい最近まで仕事をしていた。ハイトナーの『ザ・コラール 希望を紡ぐ歌』(25)では作曲というより編曲の仕事でしたが。

The Duke (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music
『ゴヤの名画と優しい泥棒』(20)の頃だったかな。フェントンはインタビューで「ロジャー・ミッチェルとはエリザベス女王のドキュメンタリーでも仕事をしましたが、彼とはもっと仕事をしてみたかった」と言っていました。

You’ve Got Mail (Original Motion Picture Score) – amazon music
1990年代はアメリカでもフェントンを贔屓にしていた映画監督が何人かいて、『フールズ・ゴールド』(08)のアンディ・テナントや『ユー・ガット・メール』(98)のノーラ・エフロン、そして後述するフィル・ジョアノーあたりはその筆頭かなと。

Heaven’s Prisoners (Original Score from The Motion Picture) – amazon music
フィル・ジョアノー監督作では『ヘブンズ・プリズナー』(96)の劇伴がなかなかよかった。
打ち込みのヘヴィなリズムやギター、ハモンドオルガンを使った劇伴で、物語の舞台であるバイユー地帯のネットリした空気感と、ハードボイルド/ネオ・ノワールのムードを見事に捉えたサウンドだった。
劇中で使われたブルース曲を集めた歌曲集のサントラはたまにCDショップで見かけましたが、渋谷のタワレコでフェントンのスコアアルバムがひっそりと売られていたのを発見したときは「スコア盤出てたのか!!」と驚き、また喜んだものです(もちろん即購入しました)。いつの間にやらデジタル版でもリリースされていたらしい。

Final Analysis (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music
ジョアノーとフェントンのコラボは『愛という名の疑惑』(92)と『ヘブンズ・プリズナー』、『ウィズアウト・ユー』(99)の3本で終わりましたが、このコンビの作品をもっと見たかった。そもそもジョアノーに長編映画を監督させてくれなくなったからなぁ…。あんな才能のある人を干すなんて勿体ない。
閑話休題。

『ブルー・プラネット』オリジナル・サウンドトラック(amazon)
『ブルー・プラネット』オリジナル・サウンドトラック(TOWER RECORDS)
The Blue Planet (Original Television Soundtrack) – amazon music
そんなフェントンの偉大な功績といえば、ネイチャードキュメンタリー音楽への視聴者の関心を高めたことでしょう。
デヴィッド・アッテンボロー(リチャードの弟)がプレゼンターを務めるBBCネイチャードキュメンタリー作品、『ブルー・プラネット』(01)や『プラネットアース』(06)、それらの映画版『ディープ・ブルー』(03)と『アース』(07)、『フローズン・プラネット』(11~12)などでドラマティックなオーケストラ劇伴を作曲して高い評価を得たのでした。
それまでのドキュメンタリー音楽といえば「映像の邪魔をしないような静かで慎ましやかなもの」という認識でしたが(それゆえミニマル/アンビエント系の曲が好まれる)、ネイチャードキュメンタリーに関してはドラマ性のある音楽でも全く問題がないという新たな音楽の在り方を提示したのでした。
フェントンの音楽が素晴らしかっただけに、『ブルー・プラネット』も『フローズン・プラネット』も『プラネットアース』も続編になったらハンス・ジマー一派(ブリーディング・フィンガーズ)がほぼ全部仕事を持って行ってしまったのが個人的に非常にモヤモヤしました。
いや、ジマーさんの音楽も好きだしいい曲だとは思うんですけどね…。何と言うのかな、この一件に関してはジマーさんに愛憎相半ばするような思いを抱いてしまったのでした。
当方は『ブルー・プラネット』と『ブルー・プラネットII』(17)の両方のサントラ盤に音楽解説を書きましたが、前者にはフェントンのセルフ・ライナーノーツがあったので、端折ったりせずきちんと全訳しました。1990年代からのフェントン・リスナーとしての矜恃というか誠意というか。
セールス的にはジマー軍団の『ブルー・プラネットII』のほうが売れているみたいですが、フェントンの第1シーズンの音楽も素晴らしいのでぜひ聴いて頂きたいですね。

『スノー・ロワイヤル』オリジナル・サウンドトラック(amazon)
スノー・ロワイヤル オリジナル・サウンドトラック (TOWER RECORDS)
Cold Pursuit (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music
あと当方は『スノー・ロワイヤル』(19)のサントラ盤にもライナーノーツを書きました。
フェントンがリーアム・ニーソンのアクション映画の音楽を担当すると聞いて「フェントンの音楽と合うのか?」と思ったものの、試写会で映画本編のあの奇妙なノリを観たら「なるほど、だからフェントンに作曲を依頼したのね」と大いに納得しました。70歳前後であのような洒落っ気のある劇伴を作曲できたフェントンはやっぱりすごかったんだなと思いました。
数々の名曲をありがとうございました。
こことは別な世界でリチャード・アッテンボローやロジャー・ミッチェルと邂逅を果たしていることを願っております。
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