『ナイトクローラー』で”優等生”ジェームズ・ニュートン・ハワードがいざなうインモラルな音楽世界

nightcrawler

東京での上映開始から遅れること約1ヶ月半。やっと『ナイトクローラー』(14)を観ることが出来ました。

ワタクシ映画が日本公開になる前に既にサントラ盤を買っておりまして、映画を観る前の段階でかなり音楽を聴き込んでいたのですが、実際に映画本編を観るといろんな発見があって面白かったです。

 

サントラを聴いて最初に思ったのは、「ジェームズ・ニュートン・ハワードは『コラテラル』(04)でやり残したことを全てこの映画で出してくれたなぁ」…ということでした。
『ナイトクローラー』も『コラテラル』も、同じ「夜のLA」を舞台にしたノワール映画。
でも『コラテラル』の時はJNHがトータルで1時間ぶんくらいの音楽を書き下ろしたにもかかわらず、マイケル・マンが歌モノを使いまくったり、アントニオ・ピントを新たに雇って追加音楽を書かせたり、『ヒート』(95)や『インサイダー』(99)、『1492 コロンブス』(92)、『ビハインド・ザ・サン』(01)のスコアを使い回したりしたものだから、JNHの書き下ろしたスコアの大半が既製曲に差し替えられてしまったのでした。

しかしJNHは今回『コラテラル』の鬱憤を晴らすかのような、それはもう素晴らしいネオン・ノワール・スコアを作曲してくれておりました。

まずオープニングタイトル曲の”NIGHTCRAWLER”から早くもリスナーの心を鷲掴み。
さざめくエレクトリック・ギターとシンセサイザーの音色がネオン輝く夜のLAの景色と調和して、美しくも混沌とした、ギラついた魅力を醸し出してくれています。
このギターフレーズが映画のメインテーマということになるのかな?劇中の重要なシーンで何度かこのメロディーが登場します。

そして次に印象的なのが、木管楽器で奏でられる主人公ルイスのテーマ。
映画を観た方ならお分かりの通り、ジェイク・ギレンホール扮するルイス・ブルームは薄気味悪くてゲスい報道パパラッチ野郎なわけですが、その割に「ルイスのテーマ」にはどこか茫洋としたというか、
いい意味で捉えどころのない雰囲気があって、一瞬「あれ?こういうテーマ曲でいいの?」と思ってしまうのです。

そして前述のさざめくエレキギターのメインテーマが、ルイスの”インモラルな行為”のシーンで妙にきらびやかに流れたりするものだから、さらに「この場面でこの曲?」と違和感を憶えてしまうわけです。
曲タイトルで言うと”Pictures on The Fridge”や”Moving The Body”あたりがそれに該当します。
普通、発砲事件のあった被害者の家に侵入して冷蔵庫の家族写真をいじったり、横転事故現場の遺体を勝手に動かして映像を撮ったりする不快な場面で、こういう明るいトーンの曲を流さないだろうと。もっとドンヨリしたダークな曲を流すのがセオリーと言えるでしょう。

で、監督もJNHもなぜあのような場面でこういう方向性の曲を流したのかと考えると、あれは「ルイスが”刺激的な画”を撮った歓喜の瞬間を表現した曲=アンセム」なのではないかという仮説に思い至るのです。

監督・脚本のダン・ギルロイも「常に映画的に中立を保つよう注意を払った」 「どのような道徳的判断も強調していない」「この映画はサクセス・ストーリーと捉えている」といった旨の発言をしているし、ギレンホールも「ルイス・ブルームという人物はアメリカン・ドリームの産物」と言っているので、たぶんJNHもルイスの行為の善悪を劇伴では描いていないと思うのです。
だからルイスが道徳的観点から見てバチ当たりな行動に出る場面でも、彼自身が「いい画が撮れたぜ!」としか考えていなかったら、そこには道徳観を問うようなダークな音楽ではなく、ルイスの達成感をほのめかすような「歓喜の歌」的な音楽をつけると。

映画のエンドクレジットで流れる曲が、「ルイスの一攫千金ロック」みたいな妙に明るいノリのギターロック・サウンド(”If It Bleeds It Leads”)だったのも、恐らくそのためでしょう。
良くも悪くもルイスは「ナイトクローラー」として成功を収めましたので。
これぞまさに「混沌(Chaos)のエネルギー」。
「『ナイトクローラー』の音楽は全編ギターロック調のスコアです」などというあっさりした表現では片付けられないほど、今回のJNHの音楽は奥が深くて、パワーがあって、そして背筋が凍る恐ろしさがあるように思います。

余談ですがルイスが血生臭い事件現場を求めて、警察無線を傍受しながら夜のLAの街を車で疾走するシーンのエレキギターとパーカッションが唸る曲もなかなかカッコイイですね(”Lou and Rick On A Roll”とか”The Wrong Way”とか)。
本来こういう曲が『コラテラル』でもっと流れるはずだったんだろうなーと思ったりしましたが。

 

JNHは「奇をてらわない正統派の音楽を書く人」という「JNH=堅実・優等生」的なイメージだったのですが、今回はかなり”攻めた”劇伴を作曲した気がします。
個人的には今回の『ナイトクローラー』のサントラ盤、『ドライヴ』(11)に続く「21世紀型ネオン・ノワール・スコア」の傑作ではないかと思っております。

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