Dr.パルナサスの鏡

doctor parnassus

昨日は何かと話題の映画『Dr.パルナサスの鏡』(09)を観てきました。

個人的にテリー・ギリアムは作品によってイマイチ乗り切れないものも結構あるのですが
(『ローズ・イン・タイドランド』(05)は途中で挫折しました・・・)、今回はあのギラギラ・ゴチャ
ゴチャしたヴィジュアルも健在だったし、「鏡の向こうの世界」の享楽的かつ悪夢的なCGも
見応えがあったし、なかなか楽しめました。

既に各メディアで語られている通り、本作撮影中にトニー役のヒース・レジャーが急死して
しまうという悲惨な出来事があったわけですが、「鏡の向こうのトニー」役をジョニー・デップ、
ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が演じる事で何とか完成に漕ぎ着けたと。ヒースが
亡くなる前に「現実世界のトニー」をほとんど撮り終えていたというのは奇跡としか言いよう
がありません(スタンド・インを使って後から撮ったシーンもあるだろうけど)。現実世界と
鏡の向こうでトニーの見た目が変わる事に関しても、いざ観てみたら違和感がなかったし、
「鏡に入った人の願望に従って、トニーの容姿が変わる」という設定も何となく説得力が
あったような。

で、「あっちの世界のトニー」を演じた3人もピタリとキャラクターにハマってました。大雑把
に分類するとデップが「善人のトニー」、ジュードが「胡散臭いトニー」、ファレルが「浅はかな
ワルのトニー」・・・という感じでしょうか。ヒースの急死を受けての苦肉の策だったのだろう
けど、結果として「現実世界で掴み所のなかった青年が、鏡の中でその多面的な人格を
晒されてしまう」という構成になったわけで、ある意味すごく心理学的な映画になった気が
します。

それにしても、ファレルはキャラ的に「浅はかなチンピラ」って印象の俳優なんでしょうかね。
『プライド&グローリー』(08)とか『ヒットマンズ・レクイエム』(08)もそうだったし。あの濃い
眉毛と無精ヒゲのせいでそう見えるのかな。

「悪魔と取引した男の悲劇」というドラマも自分好みでした。『エンゼル・ハート』(87)とか『デ
ィアボロス 悪魔の扉』(97)とか、ああいう「悪魔もの」が好きなクチでして。トム・ウェイツの
悪魔役もハマってますな。あの声であの風体だし。今回の悪魔は憎たらしさの中にも人情
家っぽい一面があって、なかなか魅力的な存在でした。「世の中には、悪魔の力を持って
しても地獄送りに出来ない悪党が存在する」という後半の展開には妙に納得させられまし
た(最近そういう事件が多いですしね・・・)。

この映画、音楽もいい味を出してました。作曲はマイケル・ダナとジェフ・ダナ。『ローズ・イ
ン・タイドランド』に続いての登板。くたびれた大道芸一座の物悲しい祝祭性を体現した、
メイン・テーマ曲の哀愁のメロディーが絶品です。もともとマイケル・ダナという人はアトム・
エゴヤン作品で「悩める人々」の心を癒すような音楽を書いてきた人ですが、今回もパル
ナサス博士(クリストファー・プラマー。御年81歳!)の苦悩や空虚な心の内を切々と描き
出しています。

抑制の利いた音楽に定評があるマイケル&ジェフのダナ兄弟ですが、今回は作品の性質
上シアトリカルなスコアが多いような気がします。が、大道芸の祝祭性を過度に煽らず、
悩める者の心情を哀愁の調べで代弁する作風は、まぎれもなくダナ兄弟のもの。彼ららし
さは決して失われていませんでした。サントラ盤も「買い」です(インチキ慈善事業の歌と、
国家権力冒涜ソングも勿論収録)。

余談ですが、「鏡の向こうのトニー#3」のシーンでピーター・ストーメア(『プリズン・ブレイ
ク』のアブルッチ)が出てました。ファンの方はお見逃しなく。