「シミュレーション抜きでいきなり実戦かよ!?」 新人CIA情報分析官の奮闘記『エージェント:ライアン』

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「シミュレーション抜きでいきなり実戦かよ!?」
分かる人には分かる、『機動戦士Zガンダム』のカクリコン中尉のセリフです。

というわけで『エージェント:ライアン』(14)のご紹介。
『トータル・フィアーズ』(02)以来12年ぶりの、
ジャック・ライアン・シリーズ最新作兼リブート作です。
『トータル・フィアーズ』もリブートだったはずなのですが、
どうも製作サイドの認識ではあの映画はイマイチという事らしく、
(まぁ2002年の作品にしては核の描写がかなりアレだったのは事実ですが)
今回の『エージェント:ライアン』で”なかったこと”にされてしまったようです。

この映画ではジャック・ライアン(クリス・パイン)がCIAエージェントになるまでが描かれておりますが、
まずその過程を追っていくと、

学生時代のライアンが留学先のイギリスで911の惨事を知り、
帰国後海兵隊に入隊。
乗っていたヘリがアフガンで撃墜され重傷を負う。
リハビリ中に後の妻となるキャシー(キーラ・ナイトレイ)と知り合う。
除隊後、CIAのハーパー(ケヴィン・コスナー)からリクルートされる。
CIAの身分を隠してウォール街の投資銀行で働きながら、
不審な金の流れを当局に逐次報告する任務を与えられる。
そこでロシアの企業チェレヴィン・グループの不穏な動きに気づく…。
というような流れになってます。
物語はトム・クランシーの小説を題材にしたものではなく、
映画の完全オリジナルストーリー。
だから「Based on Character Created by Tom Clancy」の表記になっています。
「トム・クランシーの創作したキャラクターに基づく」というやつですね。

 

映画の中で2001年から2013年までのライアンの姿を追っているので、
ベン・アフレック版ライアンの活躍が”なかったこと”になっていると。
そういえば映画チャンネルでも「ジャック・ライアン・シリーズ一挙放送!」的な企画をやっていますが、
なぜか『トータル・フィアーズ』だけ放送しなかったりしますからね…。
まぁ『トータル・フィアーズ』だけ配給が東宝東和だから、という事情もあるのかもしれませんが。
(他は全てパラマウント配給)

ハリソン・フォードの『パトリオット・ゲーム』(92)と『今そこにある危機』(94)で、
「ジャック・ライアン=不死身のヒーロー」というイメージが定着してしまいましたが、
本来ライアンは情報分析官であって、
率先して敵を殺しまくる武闘派キャラでは決してありません。

今回の『エージェント:ライアン』はその点に留意した作りになっておりまして、
愛国主義的なロシアの実業家が狙うのも経済テロだし、
ライアンの経済アナリストとしての一面や、
テロ実行犯を割り出すデータ解析のシーン、
CIAのチームで連携してチェレヴィンの極秘データを盗むミッションなど、
諜報活動に時間をかけて丁寧に(かつテンポよく)描いています。
「ライアンは頭脳派のエージェント」という点を強調した演出と言えるでしょう。
同じCIAでもジェイソン・ボーンとは所轄(?)が違うので、
本作にあの映画のようなノリを期待するのは間違いという事になります。

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テロ実行犯をバイクで追跡!
しかしこの速度でノーヘルは危険だと思います…。

ケネス・ブラナーは本作で悪役のチェレヴィンを演じつつ、
当初監督する予定だった『LOST』のジャック・ベンダーに代わって、
演出も兼任する事になったわけですが、
ブラナーがアクション大作のメガホンを取る日が来るとは思いませんでした。
もちろん『マイティ・ソー』(11)という前例はありましたが、
あれは見方によってはコスチューム劇の要素もあったし、
シェイクスピア的な「父と子、兄と弟の対峙」というドラマが根底にあったので、
ブラナーが監督してもそれなりに納得出来たのですが、
今回はファンタジー的な要素が皆無のスパイ・アクション巨編。
一体どんな映画に仕上がるのかと思いましたが、
非常に手堅い作りでした。

前述の”情報分析”に重点を置いたシーンを描きつつ、
肉弾戦、銃撃戦、カーチェイス、バイクチェイスを適材適所に配置。
ドラマ演出ではハーパーとライアンの擬似的父子関係を描き、
キーラ・ナイトレイを美しく撮る努力も怠らず、
自分自身もシェイクスピア戯曲の悪役のようなキャラをキザっぽく演じる余裕まで見せてしまう。
ケネス・ブラナーの器用さと多才さには正直驚きました。
決して器用貧乏なんかじゃありません。
本編で結構ハデなカーチェイスを見せているのに、
製作費を6,000万ドルで抑えた手腕ももっと高く評価されていいかもしれません。
(参考までに、『47RONIN』(13)の約1/3の製作費です…)

ちなみにこの映画、
007映画でおなじみのパインウッド・スタジオにセットを作ったそうです。
「世界を股にかけたストーリー」
「敵国はロシア」
「主人公は諜報機関のエージェント」
「アクションあり、情報戦あり、潜入ミッションありの展開」
…という事で、ブラナーも撮影している最中、
007映画を意識していたのではないかなーと思います。
ブラナーが007に出演or監督する日も近いかも。

自分がそんな気になったのは、
パトリック・ドイルの音楽によるところも大きいのですが、
その話はまた日を改めてという事で。 

 

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