『オデッセイ』のハリー・グレッグソン=ウィリアムズの音楽はもっと評価されていいと思う。

the martian

先日『オデッセイ』(15)を観てきたのですが、
いやーなかなかよく出来た映画でした。

平成生まれのヤングな皆さまはあまりピンと来ないかもしれませんが、
90年代後半~2000年代前半にかけて火星映画が量産された時期がありまして、
『ミッション・トゥ・マーズ』(00)とか『レッド・プラネット』(00)、
『マーズ・アタック!』(96)や『ヴィンセント・ギャロ/ストランデッド』(01)などいろいろ公開されたのですが、
その大半がイマイチな作品だったので(『ストランデッド』は健闘していた方だと思う)、「火星映画に名作なし」みたいなレッテルを貼られていたのでした。

ことほどさようにヒットさせるのが難しい火星SFもので、
リドリー・スコットも『プロメテウス』(12)が何だか残念な出来だったので、
正直大丈夫かしらと思ったのですが、
やはりリドリーはすごかった。。

 

で、映画本編もよかったのですが、
ワタクシ的にはハリー・グレッグソン=ウィリアムズの音楽がとてもよかったなぁ、と。
リドリーとHGWといえば『キングダム・オブ・ヘブン』(05)の音楽差し替えの一件以来、もうこのコンビは見られないんじゃないかと思っていたのですが、
『プロメテウス』と『エクソダス:神と王』(14)の追加音楽をさりげなく担当しておりまして、
こうして数年かけて両者の距離がちょっとずつ縮まっていって、
晴れて10年振りに『オデッセイ』でコンビ復活したのが個人的に大変胸アツなわけですよ。
今は亡き弟トニーのお気に入りだったHGWを兄のリドリーが起用するという、
スコット兄弟の絆に目頭が熱くなりそうです。

そんなHGWもリドリーの期待に応えるべく、
ルクレティウスの詩『事物の本性について』にヒントを得た曲作りを行っています。
火星に取り残されたマーク・ワトニーの孤独と、
彼の「心の声」を音楽で表現するにあたって、
紀元前の哲学的思想こそ真実である、と思ったそうです(ワトニーは科学者だから宗教よりも哲学だろう、という考えらしい)。
ううむ、深い洞察ですね。

歌モノとHGWのスコアをCD2枚組で収録したデラックス盤のブックレットには、
どのスコアが『事物の本性について』のどの詩からインスパイアされたものか、
コーラスに使われた詩の該当箇所を抜粋した英訳文が掲載されています。
火星SF映画と紀元前の哲学者の詩の組み合わせ、奥が深いです。

したがってHGWの音楽も、
「オーケストラ+シンセサイザー」といういつもの手法を用いつつも、
普段のエレクトロ・ビートがバッキンバッキン鳴るテンポ重視のサウンドではなく、
ゆったりとしたリズムでオーケストラの音の広がりや残響音をじっくり聞かせるような、「無限の空間」を感じさせるスコアに仕上がっています。

 

HGWの音楽というと、
『デジャヴ』(06)とか『サブウェイ123 激突』(09)のように、
スピーディーでスタイリッシュなサウンドというイメージが強くて、
「音楽がカッコよすぎてドラマ描写向きではない」という印象を持たれているような気がするのですが、
(個人的にはそんなことないと思いますが)
今回はこういう「スタイリッシュ」路線を控えめにして、
マット・デイモン扮するマーク・ワトニーの”孤独”を繊細に描き出す曲作りをしています。
観客の胸を打つメインテーマの旋律とか、
ひんやりとした質感だけども耳に心地よい電子音の響き、
キャロライン・デイルが弾くチェロのフレーズなどなど、
そこはかとなく哲学的なムードを漂わせた深遠な音世界が素晴らしい。

このように細部までこだわって作られた音楽ではあるのですが、
映画のパンフレットではHGWの音楽について全く言及されていなかったほか、
劇中で流れたディスコ曲にもほとんど触れられておらず、
デヴィッド・ボウイの「スターマン」についてちょっと言及があっただけなのは意外でしたね。。。
もうちょっと音楽に注目して頂きたかったなぁ。

the martian_songs

なお映画本編で流れたディスコ曲ですが、
当初は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(13)の「最強MIX」みたいな感じになるのかなと思ってましたが、
あれともちょっと違った感じでしたね。
控えめな歌モノの使い方ではあったけれども、
ピンポイントでちょっとした笑いやナラティブな効果を出していて、
あざとい感じがしなくてよかったと思います。

こうして考えてみると、
過去の火星映画は確かに出来がイマイチのものも多かったですが、
『ミッション・トゥ・マーズ』のエンニオ・モリコーネも、
『レッド・プラネット』のグレアム・レヴェルも、
『ストランデッド』のハビエル・ナバレテも、
『マーズ・アタック!』のダニー・エルフマンも、
本作のHGWに負けず劣らずいい音楽を書いていたのではないでしょうか。

 

まぁそれはさておき、
『オデッセイ』のサントラ盤を買うなら断然歌モノ+スコアの2枚組デラックス盤をオススメします。
CD2枚組でもうまくショップを探せば2,000円台で買えるので、
是非ぜひトライしてみて下さい。
(ちなみにワタクシは2,608円で買えました)

 

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