追悼 デニス・ホッパー

dennis hopper

現地時間の5月29日朝、俳優のデニス・ホッパーが亡くなりました。
享年74歳。合掌。

ニュース映像で痩せ細った姿を見た時から覚悟はしていたけれど、
イーストウッドが80歳になっても精力的に映画を撮っている事を
考えると、まだまだホッパーには「永遠の不良中年」として活躍して
ほしかったな、とも思う。

とはいえ、若い頃からドラッグ&アルコール漬けの退廃的な生活を
送っては入退院を繰り返していたから、歳を取ってからその反動が
来たのかなと思うと、「その割には長生きしたほうなんじゃないだろ
うか」という気もするのです。

続きを読む

『ニューヨーク1973 / LIFE ON MARS』のかわいい婦警さん

多分オリジナルのUK版『LIFE ON MARS』が好きな人には評判が悪いんだろうけど、
自分はアメリカのリメイク版『ニューヨーク1973 LIFE ON MARS』が好きで、毎週欠か
さず初回放送を観ております。

だって、あのハーヴェイ・カイテルが鬼警部補ジーン・ハント役でレギュラー出演して
るんだから、こりゃ観るしかないわな。相変わらずコテコテの演技で笑わせてくれるし。

横柄で濃い顔のレイ(『グッドフェローズ』(90)でスパイダー役を演じたマイケル・イン
ペリオリ)、気の弱そうなクリス(ジョナサン・マーフィー)、時折見せる切ない表情が
不条理な出来事に直面した男の悲哀を見事に物語っている主人公サム・タイラー
役のジェイソン・オマラなど、キャラもキャスティングも絶品。ヤクザと紙一重のNY
市警のデカを活き活きと演じてます。2008年と1973年という時代のギャップを
ネタにしたトークも面白い。

「ケータイが要るんだ! (I need my cell!)」
「何を売るって? (You need to sell what)」

なーんてベタなジョークもサラリと決まって最高。やっぱりタイムトラベルものは
未来より過去の方が面白い。

そんな僕の一番のお気に入りは、アニー・ノリス役のグレッチェン・モルなんだなぁ。

続きを読む

17歳の肖像(An Education)

an education

この映画の原題は『An Education』。まぁ直訳すればズバリそのまま「教育」でしょうか。そのまま学校での”教育”を意味する一方、人生で挫折を味わったり辛い目に遭ったりする事もまた「学校では教えてくれない”教育”」なのですよ、というような事を描いた物語なんですが、何かそういうテーマがちと伝わりにくい邦題になってしまったなーという感じ。

『17歳のカルテ』(99)とか『17歳の処方箋』(02)とか『アイコ十六歳』(83)とか、日本人はこういう17歳とか16歳って年齢のタイトルに惹きつけられるものがあるんだろうか。「17歳の何たら」というタイトルが既に2つあるのが痛い。

続きを読む

『MILK』の音楽について

お待たせしました(別に待ってないか)。
今回は『ミルク』(08)のサウンドトラックについて。

このところガス・ヴァン・サントは既製曲のコンピレーションを中心とした
サントラを作っていたのですが、『ミルク』では久々にオリジナル・スコアが
つきまして、ダニー・エルフマンとタッグを組んでおりました。

1998年の『サイコ』以来の顔合わせだなぁ、と思ったのですが、あの映画の
音楽はバーナード・ハーマンの曲を完全カヴァーした構成だったので、
エルフマン書き下ろしのオリジナル曲となると、前年の『グッド・ウィル・ハン
ティング 旅立ち』(97)以来という事になるわけです。

今回の『ミルク』では、あのエルフマン独特のケレン味をぐっと抑えたシックな
装いのオーケストラ・サウンドを披露しています。
ハーヴィー・ミルクのパーソナリティをそのまま反映させたような、全体的に
優しげで控えめな感じと申しましょうか。切なくてやるせないけれど、どこか
希望を感じさせてくれるサウンドです。

特に23曲目から25曲目の展開は、映画本編を見た後に聴くとかなり泣けます。
実際、久々に聴いたら映画の終盤のシーンを思い出して目頭が熱くなりました。

あの名作『シザーハンズ』(90)のラストシーンのような、静かな感動を呼び
起こしてくれる名曲というか何というか。
やっぱりスラムドッグなんたらより、『ミルク』が作曲賞を獲るべきだった
ような気がします(今更ですが)。

アルバムにはエルフマンのスコア22曲に加えて、70年代当時のヒット曲が
6曲収録されています。聴き所はSylvesterの「You Make Me Feel (Mighty
Real)」でしょうか。このシルヴェスターという人、いわゆるドラァグ・パフォー
マーでして、ゲイのディスコシンガーだったんですな。で、ミルクの誕生
パーティーで実際にこの曲を歌った事もがあるのだそうです。

映画でもそのシーンがそっくりそのまま再現されていて、ケバケバしい
格好をした歌手がファルセット・ヴォイスでこの曲を熱唱しておりました。
シルヴェスター本人は1988年にAIDSで亡くなっているので、映画に
登場するのは彼に扮したそっくりさんなのですが。

差別や偏見と闘うマイノリティの人々の物語に、Sly & The Family Stoneの
「Everyday People」を持ってくるあたりも実にニクい選曲です。

ただ、スウィングル・シンガーズの「プレリュード第7番(バッハ)」をあの
シーンに持ってくるというのは、本気でやっているのか笑いをとるために
やっているのか、ちと判断しかねます。ガス・ヴァン・サントも屈折した
ユーモアセンスの持ち主だからなぁ。ま、このあたりは映画を観た人の
感性にお任せしますって事ですかね。

CDにはその他にもDavid Bowieの「Queen Bitch」やThe Hues Corporationの
「Rock the Boat」、The Sopwith Camelの「Hello, Hello」を収録。
ハズレなしのナイス選曲です。

それぞれのアーティストについてはCDのライナーノーツでざざーっと
紹介させて頂きましたので、ぜひぜひご覧頂ければと思います。

サウンドトラック盤はユニバーサルミュージックより今月15日発売。
慈愛に満ちたエルフマンの音楽をご堪能あれ。

『ミルク』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ダニー・エルフマン & Various Artists
品番:UCCL1140
定価:2,500円
  

MILK


数日前、ユニバーサルミュージックのMさんから『ミルク』のサンプル盤を
送って頂きました。どうもありがとうございました。そういえば、映画の公開も
そろそろだったなぁ。

カレンダーを調べてみると、ワタクシがこの映画を試写で見たのは1月29日でした。
その時点で既にあらゆる映画賞を受賞していて、何だかスゴイ事になって
いるらしいという事で、ユニバーサルさんも配給会社さん(ピックス)も宣伝に
ヒジョーに気合が入っていたのを思い出しました。

で、本編を見た感想はというと、こりゃ確かに見応えのある映画だわ、と。
同性愛者としてアメリカで初の公職に就いた政治家の物語という事で、
実はワタクシこの手のテーマがちょっとばかり苦手だったんですが(ミルク
とスコット・スミスの馴れ初めのシーンとか・・・)、その点を差し引いても、
本当に素晴らしい映画だなと思いました。

このハーヴィー・ミルクという人は「同性愛者の人権解放」を目指して奮闘
していた政治家だったのですが、それ以外にも高齢者や労働者、女性
といった1970年代当時まだまだ社会的立場が弱かった人々のために
尽力した人でもあったのです。そんな彼の誠実さがまた涙を誘うんですよ。

グダグダ感の漂う今の日本の政界を見ていると、「こういう世のため人の
ために尽くしてくれる政治家はいないのかなぁ」などと思ってしまいます。

1960年代から70年代のアメリカといえば、リベラルな思想に憧れる人が
出始めてきた反面、まだまだ保守的な色合いが強い時代でもありました。
そんな中で同性愛者である事をカミングアウトするというのは、相当
リスキーかつ勇気の要る事だったんだろうな、と思います。この映画で
描かれているように、カミングアウトは命に関わる問題だったのでしょう。

この映画を観ると、いわゆる「保守派」と呼ばれる人たちの考え方とか、
その根底にある思想がよく分かるので、そういう意味でもなかなか
興味深い作品になっています。アメリカという国は、今も昔も両極端な
ところがありますな。

さてそのミルクを演じたショーン・ペンなんですが、ナヨっとした仕草とか、
やけに柔和な笑顔とか、見事にゲイになりきっておりまして、あの変わりっ
ぷりは『カリートの道』(93)の薄毛の悪徳弁護士役以来の衝撃でした。

ショーン・ペンといえばやれパパラッチを殴っただの、オリヴァー・ストーンを
「ブタ」呼ばわりしただの、数々の武勇伝(笑)を持つワイルドなお方ですが、
そんな粗暴な一面など微塵も感じさせない役作りは、確かにオスカーに
値する演技なのかな、と思います(「完璧に別人になりきった」という意味で)。

ホントは今年のアカデミー賞主演男優賞はミッキー・ロークに獲ってもらい
たかったんですが、まぁ相手がペンなら仕方がないか、と。

ガス・ヴァン・サント監督作品といえば、サントラも毎回秀逸な出来なのですが、
話が長くなってしまったので、音楽については後日改めて書かせて頂きます。