これはハンス・ジマー版『未来警察』なのか…? 全編シンセ・サウンドで贈る『チャッピー』のサウンドトラック

chappie

ニール・ブロムカンプ監督最新作『チャッピー』(15)。
『エリジウム』(13)のライアン・アモンが音楽を担当するかも…という話も一時期ありましたが(確か2013年末頃だったと思う)、最終的にはハンス・ジマーが音楽を担当することになりました。

『エリジウム』のライアン・アモンも『第9地区』(09)のクリントン・ショーターも、オーケストラにシンセや打楽器を導入して、ブロムカンプ映画特有の混沌としたパワーを感じさせる音楽を鳴らしていましたが、今回のジマーさんは「全編シンセサイザー・サウンド」という手法で本作に挑んでおります。

自分のような30代後半の人間が「巨匠作曲家の100%シンセ・スコア」と聞くと、ジェリー・ゴールドスミスの『未来警察』(85)を条件反射的に思い出してしまうのですが、あの映画は完全に娯楽に徹したB級SFアクション映画でしたので、音楽はすごく面白かったけど、深遠という感じとはちょっと違うかなと。
その点今回の『チャッピー』は随所でテンション高めなアクション・スコアを聞かせつつ、心とは何ぞや、意識とは何ぞやということまで考えさせられるような、非常に奥の深いサウンド世界を披露してくれております。

『チャッピー』の音楽の特徴を大まかに3つ挙げるとすると、

1. いつものジマーさんのフレーズ
2. 音楽シーンの最先端を行くエッジィなエレクトロニック・サウンド
3. どこか懐かしさを感じさせるシンセ・サウンド

…といった感じでしょうか。

1.はいわゆるアレです。巷で言うところの「ジマー節」というやつです。
普段だったらオーケストラで荘厳に鳴らされるであろうあの胸アツなメロディーが、
今回はデジタル・サウンドで響き渡る仕様になってます。
アルバム後半では『ダークナイト ライジング』(12)のベインのテーマのような、不吉な野太いコーラス(音声合成かサンプリング・ヴォイスと思われます)の曲もあります。

2.は追加音楽作曲家のスティーヴ・マッツァーロとアンドリュー・カヴィンスキ、サウンド・デザイナーとしてクレジットされているジャンキーXLの参加によるところが大きいかなと(個人的な感覚ですが、『パワー・ゲーム』(14)のサントラを聴くと特にそう思います)。
オーケストラ・スコアに慣れたリスナーさんの耳には、本作のエッジの効いた電子音(ノイズっぽい音も含む)はなかなか衝撃的ではないかと。

ことほどさように最先端のエレクトロニック・サウンドを響かせる本作ですが、「ヴァンゲリスやタンジェリン・ドリームを思わせる音」みたいなレビューも多く見られており、確かに80年代SF映画を連想させる音が聞こえてくるのであります。
それが3.で挙げさせて頂いた「懐かしさを感じさせるシンセ・サウンド」に当たるものなのですが、今回ジマーさんは年代物のアナログ・シンセサイザーを使っているそうです。伸びやかで存在感のある電子音の正体は恐らくコレでしょう。

一般的にシンセ・スコアというとオーケストラ・スコアより格下に見られがちですが、「予算その他の事情で生オケが使えずシンセで代用したもの」と、「最初から目的や意図があって全編シンセで作ったもの」では在り方が違うわけで、一概に「シンセ・スコアは生オケものより劣る」とは言えないのではないかと思うのです。

 

実際、『チャッピー』の音楽は魅力的なメインテーマをしっかり聞かせてくれておりまして、チャッピーのAIの成長過程に合わせて、

A: 生まれたばかりの子供のような状態
B: ニンジャからギャングスタの流儀を叩き込まれて”ワル”に感化された状態
C: “生”を意識するようになった状態
D: 大切な人を守るため”戦士”へと成長した状態
E:”心”や”意識”の概念を理解して人知を越えた存在になった状態

…が音楽的にもさりげなく表現されているのが素晴らしいですね。
ことさら説明過多な音楽というわけではないのですが、
ジマーさんのスコアに耳を傾けていると、
サウンドの変化からそれらの要素が伝わってくるという感じ。
ひとことでシンセ・スコアとかテクノ・スコアと言っても、
映画音楽が本業ではないテクノ系ミュージシャンが書き下ろした音楽とは一線を画するクオリティです。やっぱりすごいよジマーさん!

全編シンセ・スコアの中で1つだけ口笛をサンプリングした曲(トラック15のWe Own This Sky)があるのですが、これも何でこういう手法をとったのか、ちゃんと意味があると思うのです。そのあたりも自分なりにあれこれ解釈を考えてみると面白いのではないでしょうか。

アルバムは全16曲でプレイタイムは約63分。
アルバム最後にファミコンのPSG音源で作ったようなIllest Gangsta On The Blockという曲が収録されていますが、これはボーナス・トラックみたいなものと考えてよいのではないかと(アレンジ違いの曲がチャッピーの車強盗シーンで使われていた記憶もありますが)。

 

『チャッピー』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ハンス・ジマー
レーベル:Rambling Records
品番:RBCP-2897
発売日:2015/05/20
価格:2,400円(+税)

 

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