パブリック・エネミーズ(音楽について)

publicenemies

マイケル・マン映画に欠かせないものと言ったら、
そりゃもう凝りに凝った選曲で聞かせるサウンドトラックに他ならないわけで、
今回も男臭い世界を彩るクールで激シブな楽曲がズラリと揃いました。

まず映画の予告編で使われるや否や
「このカッコイイ曲は何?」とサントラ・ファンの関心を集めたギター曲ですが、
これはブルース・ミュージシャンのOtis Taylorが歌う”Ten Million Slaves”という曲。
映画ではもう一曲、テイラーの”Nasty Letter”という曲が使われているのですが、
こちらは本作より先に『ザ・シューター/極大射程』(07)のラストで使われてました。
どっちも激シブでイカす曲なんですが、
個人的には後者の方がお気に入り。
なぜかというと、映画の中でなかなかスタイリッシュな曲の使われ方をしているから。
強いて言うなら、『コラテラル』(04)でAudioslaveの”Shadow On The Sun”が使われた時の、
あのノリに近いかもしれません。

そんなテイラーの曲も秀逸なのですが、
それ以上に本作のサウンドトラックを語る上で欠かせないのが、
ダイアナ・クラールが歌う”Bye Bye Blackbird”でしょう。
映画では序盤のクラブのシーンで流れるのですが、
この曲はそれ以降もビリーとデリンジャーの関係を象徴する曲として重要な意味を持っていきます。
映画のラストではこの曲の題名に引っかけたセリフのやり取りがあるのですが、
これがまた泣ける。
少々クサい演出だけど泣ける。
「硬派なフリしてロマンティスト」というマイケル・マン節が炸裂する名場面といえるでしょう。

その他、サントラ盤にはビリー・ホリデイの曲が3曲、
ブルース・フォーラーのスウィング・ジャズ、
Blind Willie Johnsonの陰鬱なブルース、賛美歌などが収録されています。

オリジナル・スコアの作曲は、『ヒート』(95)以来久々のマン作品登板になるエリオット・ゴールデンサル。
『タイタス』(99)とか『エイリアン3』(92)のあの個性的なスコアに比べると、
今回はかなり抑制の利いたサウンド。テーマ曲の哀愁のメロディーが印象的です。

マイケル・マンは既存のスコアを使い回す事も結構多いのですが、
特に『ヒート』のスコアが今でもお気に入りらしく、
『コラテラル』と『マイアミ・バイス』(06)でも一部のスコアを使い回していましたが、
今回も”Hanna Shoots Neil”を使ってました。

エンドクレジットによると、
その他にも『悲しみが乾くまで』(07)からヨハン・セーデルクヴィスト&グスターボ・サンタオラヤの”After the Shooting”、
『シン・レッド・ライン』(98)からジョン・パウエルの”Beam”(音楽はハンス・ジマー担当でしたが、このスコアに関してはパウエル作曲だったらしい)を使っていた模様です。
テンプ・トラックで使った曲をそのまま完成版に使ったのかな。
せっかくゴールデンサルと組んだんだから、曲を書き下ろしてもらえばいいのに…とも思いますが。

何はともあれ、サントラ盤はゴールデンサルの重厚なスコア7曲と、
ブルース/ジャズを中心にセレクトした歌モノ9曲を収録した、
渋いコンピレーション・アルバムに仕上がっております。
マン作品のサントラにハズレなし。

アーティストについてはライナーノーツで簡単に紹介させて頂きましたので、
そちらの方も併せて目を通して頂ければと思います。

 

『パブリック・エネミーズ』オリジナル・サウンドトラック
音楽:エリオット・ゴールデンサル他
品番:UCCL-1150
定価:2,500円

 

The Time Traveler’s Wife

the time traveler's wife

昨日は映画館に行ったら、映画の日でも何でもないのにチケット売り場に行列が。何でかなー
と思ったら、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』の公開初日だったんですね。

自分が観に行ったのは『THIS IS IT』ではなく『きみがぼくを見つけた日』(09)だったので、
本日はそのお話をダラダラと。

この映画、原題は『The Time Traveler’s Wife』なんですが、何だかずいぶん特徴のない邦題に
なってしまいました。ま、既に原作小説がある作品ですし、過去に『タイムトラベラー きのうから
来た恋人』(99)という映画もあったので、今回「タイムトラベラー」という言葉が使えなかったのかも
しれません。時空旅行がキーの話だけに、ちょっと第一印象で損をしているような気がします。

本作は「自分の意思とは関係なく、日常生活中に突然、不特定の場所・時間に時空旅行して
しまう」という特異体質を持った男ヘンリー(エリック・バナ)と、幼い頃に彼と運命的な出会いを
果たした良家のお嬢様クレア(レイチェル・マクアダムス)の悲恋ドラマ。「自分の意思とは関係
なく云々」というのは、『LOST』第4シーズンのデズモンドのような感じですかね。

ひと昔前までは、こういうタイムトラベル作品(例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ)は
「過去を変えたら現在や未来はどうなる?」というタイムパラドックス的な要素が物語の重要な
ポイントになったわけですが、『LOST』といい本作といい、どうも最近は「起きてしまった過去の
出来事は変えられない」という考え方が浸透しつつあるようです。

本作の脚本(=脚色)を手がけたのが『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)、『ジェイコブス・ラダー』
(90)などのブルース・ジョエル・ルービンという事で、映画の後半から独自の死生観に基づいた
運命論的な話になります。「この世での死が全ての終わりではない」というような展開は、過去の
作品のテーマと共通するものがあるような気がしました。

・・・と、まぁ異色の恋愛ドラマが展開する本作ですが、物語の世界を異色たらしめているのは
マイケル・ダナの音楽によるところも大きいのではないかな、と自分は思います。ピアノや弦、
木管で奏でられるミニマリスティックなメロディーは甘すぎず冷たすぎず、劇伴として実にいい
感じのバランス。登場人物の心理状態を観客に想像させる余地を残しているので、感動を強要
するような押しつけがましさがない。言わば和食のような慎ましい味わいの音楽。『17歳のカル
テ』(99)とか『偶然の恋人』(00)の音楽も抑えた感じで良かったもんなぁ。

サントラ盤には、ヘンリーとクレアの結婚式のダンス・パーティーの場面で流れる”Love Will
Tear Us Apart”(Joy Divisionのカヴァー)も収録。この曲がこういう風に化けるとは思わな
かった。ムード歌謡風というのでしょうか。ちょっと衝撃。

CDの最後にLifehouseの”Broken”が収録されていたので、てっきりエンドクレジットで使われる
のかと思いましたが、エンドクレジットはスコアのメドレーでした。この曲はイメージソングという
扱いなんでしょうか。もっとも、今回はダナのスコアで〆て正解だったと思いましたが。

   

もうひとつの『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』サウンドトラック

crank high voltage EP

大したネタじゃないし、書こうかどうしようか考えたのですが、せっかくなので『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』(09)関連のネタをもうひとつ。

『ハイ・ボルテージ』は、マイク・パットンのスコア盤がLakeshore Recordsからリリースになっている事を前々回に書かせて頂きましたが、劇中使用曲を7曲収録したミニアルバム『Crank: High Voltage EP』がiTunes限定でこっそりリリースになっていたりします。

収録曲は以下の通り(曲名/アーティスト名)。

1. Honky Tonk Badonkadonk / Jarrett & Long
2. F**k You Tough Guy / T.S.O.L.
3. La Noche / Los Mil Amores
4. Suck My D**k! (X Rated Club Edition) / Dickheads
5. Unmei / Love and Hate
6. Spacer / Raney Shockne
7. Tears on My Pillow Little Anthony and The Imperials

Jarrett & Longは、前作『アドレナリン』(06)でビリー・レイ・サイラスのヒット曲をカヴァーしたカントリー・ロック・アーティスト。監督に気に入られてまた起用されたんだろうなぁ。

5曲目の”Unmei”はどういうわけか日本語の女性ボーカル曲。チープなテクノ風味のオケと「♪そーらをー見上げるとーきーあなーたも見てるー ♪It’s Destiny, I find You」というノーテンキな歌詞が印象に残る珍奇な一品(誰が歌っているのかは不明)。映画の中でもひときわ異彩を放っておりましたね、そういえば。

劇中最も目立った使われ方をしていたREO Speedwagonの”Keep On LovingYou”は、やはりというか何というか「大人の事情(=たぶん権利関係)」で収録されませんでした。といっても、この映画が好きでサントラに興味がある方の6割は『グランド・セフト・オート:バイスシティ』が好きで、そのうちの3割の方は『バイスシティ』のサントラも持っていると思うので、Emotion 98.3を聴けばこの曲が収録されているのでレッツ・トライ。

ちなみにネヴェルダイン/テイラー監督の新作は、ジェラルド・バトラー主演の近未来暴力ゲーム・アクション『Gamer』(09)。主演俳優の人選といい、映画のテーマといい、「無骨な男にイカレたアクションをやらせる」という点で一貫したものがありますな。楽しみだけど。

『Gamer』オフィシャルサイト(英語)
http://gamerthemovie.com/

  

アドレナリン:ハイ・ボルテージ

crank high voltage

先週仕事で東京に行ってきた際、遅ればせながら『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』(09)を鑑賞。仙台の上映館は家から遠くて不便だったので、だったら新宿バルト9で見てくるからいいや、という事になったわけです。

前作『アドレナリン』(06)は、「アドレナリンを出し続けないと即、死亡!」という奇抜なアイデア、トニー・スコットも真っ青のガチャガチャした映像、そして大真面目にバカアクションを演じるジェイソン・ステイサムの迫真の演技が奇跡の融合を果たした傑作B級アクション映画。レーティングが前作のR-15からR-18にアップした本作は、きっと前作以上のものを見せてくれるはず・・・と、期待して観に行ったのですが、ま、結論としては「奇跡ってものは、2度は起きないもんなんだな」という感じでした。

いや、確かにスゴイ事はやっているんですが、個人的な感想を述べさせて頂くと、それでも前作のインパクトは超えられなかったなぁ、と思った次第でして。

今回のシェブ・チェリオス(ステイサム)は、いろいろあってバッテリー式の人工心臓を埋め込まれたため、「充電しないと即、死亡!」という状況に陥ってしまうわけですが、充電したければとりあえず何らかの形で電気を喰らえばいいので(わざとスタンガンを喰らうとか、車のバッテリーを身体に繋げるとか)、前作のような「どうすればアドレナリンを一定以上放出できるのか?」「おお、その手があったか!」・・・というアイデアの閃きが感じられないのがちと残念なところ。

あと、シェブのガールフレンド、イヴ(エイミー・スマート)のキャラが変わったのも残念。前作の天然系おとぼけ癒しキャラのままでいてほしかったのに・・・。

レーティングが上がった事で覚悟はしていたのですが、今回はエログロ描写がかなり過激になってます。ヘタなホラー映画以上にスゴイです。しかし無意味に下品な描写が増えたのは個人的にマイナスでした。

ま、前作も決して上品な映画じゃありませんでしたが、チャイナタウンのアレとかカーチェイス中のアレとか、前作の場合、下品な描写には「全てはアドレナリンを放出するため」という理由が一応あったわけです。でも今回の『ハイ・ボルテージ』は、エッチな描写に大して意味がないのがツライ。「下ネタはごくたまに織り交ぜる事でギャグにメリハリがつく。ただ下品なネタは言語道断」と『魁!! クロマティ高校』の山口ノボルも言ってましたが、ま、そういう事です。(出典:『魁!! クロマティ高校 入学案内』より)

と、まぁ期待ほどではなかった続編ではありますが、音楽にはキラリと光るものがありました。パンフレットでは全然触れられてませんでしたが、本作のオリジナル・スコアは、何とあのマイク・パットン(元Faith No More、Mr. Bungle、Fantomas等々)が作曲しているのです。

前作は既製曲のイカれた選曲と、ポール・ハスリンガーのハードロック・スコアで構成されてましたが、パットンのスコアも相当ヤバイ。全編に渡ってギターを派手にかき鳴らし、ドコドコとドラムを打ち鳴らす。サンプリング/プログラミングも多用し、真っ当な映画音楽家では躊躇しそうなマッドな領域にも軽々と足を踏み入れてます。

一見、場当たり的にヤケクソな音楽を作っているように見えて、きちんと映画のメインテーマ的なメロディー(「たららーーん♪ たららーーん♪」というアレ。詳しくはサントラ2曲目の”Chelios”を聴いて下さい)があって、それを転調したり、アレンジを変えて変奏する効率的な作曲法でスコアを書いているのがまたニクい。さすが「奇才」マイク・パットン。

「電気」とか「充電」という本作の重要な要素をキッチリ表現した、ノイジーでアッパーでハイテンションなサウンドは一聴の価値あり。フツーの音楽に食傷気味のチャレンジ精神旺盛な音楽ファンは、Lakeshore Recordsより発売中の輸入盤をお試しあれ。

前作『アドレナリン』については、後日改めてという事で。